2「わ、私の分のごはんも、作ってください……っ!」
「酷いよぉ! 可愛い女子高生が今にも死にそうな目に遭っているのに、すぐにドアを開けてくれないなんて!」
事情も分からぬまま、俺はお隣JKを部屋に上げてしまった。
できれば今すぐにでも帰って欲しいが、彼女は俺が楽しみに取っておいたコーラを勝手に飲み、完全にリラックスモードに入ってしまっている。
「あー……それはごめん。だけど何があったか説明してくれるか? 昨今は理由も無く女子高生を部屋に上げるのは危険だし」
お隣JKは思い出したかのように表情を変える。
「そ、そうだった……! へ、部屋にアレが出たの! 黒くて光る、あの虫が!」
「あー、ゴキブリね。女子高生らしくてかわいいところもあるな、君は」
「ん? 違うよ? カブトムシ。びーとる、びーとる!」
「カブトムシぃ!?」
「そうそう。私、ゴキもセミも大丈夫だけどカブトムシは苦手で……関東は凄いよね。こんな季節でもカブトムシが居るなんて」
「いや、この季節なら関東でも珍しいぞ? どこかの家から脱走したのかな。それく
らいならすぐに片付けるよ」
俺はお隣JKと一緒に隣室に向かい、パソコン前の座椅子の上でくつろいでいたカブトムシを部屋から逃がしてやった。強く生きろよ、びーとる。
「さて、これで大丈夫か?」
一仕事終えてお隣JKの顔を窺うと、彼女は安堵の溜息を洩らしながら座椅子に腰を下ろした。君の嫌いなカブトムシが座っていた場所だぞ、そこ。
「ありがとう、お兄さん! 何かお礼しないとだね?」
「ああ、それは別にいいよ。引っ越してきたばかりで、まだまだ大変だろうし」
部屋の中は引っ越しの荷解きが終わっていないのか、服や小物が雑多に取り出され、放置されている感じで荒れて果てている。まるで廃墟だ。
「お礼よりも自室の片づけを……え?」
俺が思わず目に留めたのは、結菜の座る背面にある、デスクトップパソコンだった。
そのモニタに表示されている画面をもう一度注視しようとして――。
「ところでお兄さん、さっき何か作っていたの? 料理の続き、とか言っていたけ
ど」
お隣JKに尋ねられ、俺は慌ててモニタから目を逸らして答える。
「あ、ああ。夕食の準備だよ。そろそろいい時間だし」
夕食。そのワードを聞いたお隣JKは、顔の前で急に手を合わせ、合掌する。
そしてゆっくり頭を下げ、申し訳なさそうに細い声を漏らした。
「わ、私の分のごはんも、作ってください……っ!」
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