第53話 好かれていると思ってもいいのだろうか
一方、残されたカーティスたちは、気まずい空気を背負っていた。
ミアが様子を窺いながら、声を上げる。
「あ、あの? 私、席外しましょうか……?」
間違いなく好意からであったが、それは両側から却下された。
「いいえ! ミアはここに!」
「そうだぞミア。ここにいてほしい」
部外者に違いないミアは、ただ小さく眉を下げて微笑んだ。
巻き込まないでほしいと思いながら。
数十分前。
クラウスが出て行ってすぐのことだ。
アイリーンを連れ戻すのに時間がかかるだろうと考え、残ったメンバーでお茶会を再開することにした。
店員を呼び、お茶を淹れなおしてもらって、お菓子も増やした。
ただ残念なのが、会話が一向に弾まないという点である。
「あ、あー、その、今日は遅れてしまって申し訳なかった」
「いいえ、別にあたしたちだけでも楽しんでいたので」
「……タイミングも悪かったみたいで、アイリーン嬢とクラウスは出て行ってしまったし」
「あそこでクラウスさんが行かなければ、あたしが追いかけてたわ」
「……そう、か」
見かねたミアは、つい先ほど女性陣から教わった紅茶をカーティスへと勧める。
「これ、先ほど教えていただいたばかりなのですが、とても美味しかったですよ。カーティス様もいかがですか」
「あ、うん。いただくよ。ありがとう」
甘い香りにカーティスの心も安らいだ。
遅刻はするわ入室のタイミングは悪いわで、知らず動揺していたらしい。
「綺麗だね、この紅茶」
「! はい、私もそう思って! こちらに連れてきてくださったアイリーンさんとマリーさんには本当に感謝しています」
ミアは手を合わせて喜び、マリーが呆れつつ、それでいて嬉しそうに話に入ってきた。
「ちょっとミア、いくらなんでも大袈裟じゃない? このくらいいつだって連れてきてあげるんだから」
「そうかな?」
「そうよ」
笑い合って、カップに口をつける。
ようやく楽しそうな様子を見ることができて、カーティスはほっとしていた。
せっかくの休日。
町でのデート、というには人が多すぎるけれど、せっかくのお出かけである。
楽しそうに笑う顔が見られて満足だった。
出て行ったクラウスとアイリーンのことは気にならないわけではないが、たぶん大丈夫だろうと根拠もなく思っている。こじれる姿を想像できないほど、彼らはお互いを大事にしているから。
カーティスはそれを、いいなと思う。
自分もマリーとそういう関係になれたら、と羨ましく思うのだ。
だから、欲が出た。
笑顔以上のものが欲しいと、カーティスはぽつりと抑えきれず口にする。
「マリー嬢。さっき、アイリーン嬢が言ってたよね。『伝えれば結ばれる』って、何のことかな」
その質問は間が悪かった。
マリーは飲みかけの紅茶を吹き出しそうになっていたし、ミアはもぐもぐする口を一瞬で停止させた。
それに気づかないふりをして──気づいてしまえば続けられなかった──カーティスは首を傾げた。
「マリー嬢に向かって、言っていただろう? 『伝えれば結ばれる、そんなあなたと一緒にしないで』くれって」
その後に続いたのは、クラウスに対する愛の言葉のようなもの。
「……僕は、マリー嬢に好かれていると思ってもいいのだろうか」
少しでも関係性を進展できればと口にしたが、マリーの表情を見るや否や後悔した。
怒りなのか照れなのか判断がつかない真っ赤な顔で、こちらを睨む。
いや、睨みながら照れることはしないか。
もしかしたら紅茶でむせたのかもしれない。
可能性は限りなく低いだろうとわかってはいながら、顔をしかめる理由が自分ではないことを祈る。
「いや、そう聞こえたものだから。どうなのかなって。自惚れなんだろうとは思うけど、もしかしたらと思って………………ごめん」
この空気をどうしたらいいんだ。僕は馬鹿か。
ゆるゆるとマリーから視線を外し、思わず謝る。
マリーの顔はもう睨んでいなかった。
顔を染めたまま、眉を下げ、思い通りにならない自身を隠すように手を頬へやって。
盛大に照れているように見えるそれは、カーティスの言葉がまるで図星だったかのように思えて、狼狽える。
まさか、だって、そんな。
自分にとって都合の良い幻じゃないか。
現実とは思えない出来事は思考を鈍らせた。
助けを求めるように見たミアは、静かに困ったように笑っている。
都合よく解釈してしまう前にどうか否定してほしい。
可能な限り心を無にして、ミアとマリーを交互に見る。
しかし、いくら待っても期待するような言葉は出てこない。
そうして、カーティスとマリーがたどたどしく座る状況ができあがったのだ。
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