第34話 手を繋ぐこと。
人けがない4階の階段。
二人で階段を上る時の桐藤さんはいつもより静かで、なんか話しかけづらい。この前にあった電話で怒らせたからもっと話しづらくなったかもしれない。冷たい表情で黙々と階段を上る桐藤さんは今何を考えているのかな…。ちょっとだけ、気になる。
「……」
「なんで、話しかけてくれないの?」
「えっ…、それが…、ちょっと話しづらいから」
「なんで…?」
「桐藤さん、怒ってるから」
「私、別に怒ってないよ?」
「あっ、そう?よかった」
そう言えば、確かに桐藤さんが俺に話があるって言われたよな。
俺たちは生徒会室の隣にある資料室に入った。ここは1年間の生徒会資料を保存する場所で、それから古くなった資料は別館に移ることにしている。特に用もない場所なのに、桐藤さんは俺を資料室まで連れてきて何がしたいんだろう…?
「……」
資料室の扉を閉める音が聞こえた。
「桐藤さん…?」
扉を閉めてから振り向く桐藤さんの顔色が変わっていた。
こっちに近づいてくる桐藤さんが、後ろの本棚に俺を押し付けて体の匂いを嗅ぐ。もしかして、この前みたいに他人の匂いを確かめているのかな…?でも一瀬に抱きつかれた時は私服で今日は制服を着てるから、いくら桐藤さんだとしてもこれは絶対にバレないはずだ。
「桐藤さん…?」
「なんか、いい香りがする…」
「……」
吸血鬼の鼻ってこんなにすごいのか…?
「正直答えたら許してあげる。二人で何をした?」
「本当に許してくれる?」
「うん」
「一瀬を家に送ってあげる時…、家の前で急に抱きつかれて…」
「……抱きつかれた…?女の子に?」
「え…。うん」
人を抱きつく行為は男女の間で特別なことだった。
白羽は生徒会室の中で、ひなが見せてくれた本の内容を思い出す。すると、急にムカついてきた白羽が眉をしかめて星の方を睨む。真っ赤な瞳に見られている星は白羽と目を合わせた後、すごいプレッシャーを感じてそのまま黙り込んでしまう。
何も言えず、ただじっとしている。
そしてブレザーを掴む白羽が星に声をかけた。
「嫌だよ…。よく分からないけど…、嫌だよ」
「うん?」
「私のものから知らない女の匂いがするのが嫌って言ってるのよ…!」
「あ…」
「私だって、そんなこと…」
桐藤さんが落ち込んでいる顔をしていた。
「ご、ごめん…。でも俺はやはり他の女の子に抱きつかれることより桐藤さんに噛まれるのがもっと好きって言うか…。桐藤さんの方がもっと大切だから、ごめん…。心配かけちゃって」
「……本当?」
「うん!本当だよ」
「私に噛まれるのが好きなの…?」
「うん」
「痛くない?それでも好き?」
「うん…。なんか、他の人といても俺さ…、桐藤さんのことしか思い出せないから…。これがどんな感情なのか分からないけど、多分…うん。俺にとって桐藤さんは大切な人ってこと!」
そうだ。桐藤さんは俺にとって大切な人。
彼女が俺にそう言ってくれるなら、俺もそう言わなければならない。これからもっと注意して他の人と絡まないように…、しっかりしないとな。冷たい桐藤さんの顔がいつの間にか心配してる顔に変わっていく、その顔に俺は動揺してしまったのだ。
「私も自分の気持ちはよく分からないけど、嫌なことは嫌だから…。それしか言えないよ」
お金持ちで頭も良くて、血蘭の美人と呼ばれてる桐藤さんに気遣われるなんて…。
寝る時も、一瀬といた時も、心に引っかかることがあった時もだ。俺が桐藤さんを思い出したのは…、もしかして俺は本当に桐藤さんのことを…。好きなのか…?
これが「好き」と言う感情なのか…?
心が勝手にときめくのは桐藤さんのことを思い出したから…?俺にはよく分からないこの気持ちが、いつも心の中でモヤモヤしていたこの変な気持ちが…、全部桐藤さんが好きだったから感じていることなんだ。
てか、例えそうだとしても俺にそんなことを言える勇気なんってなかった。
「うん。桐藤さんに心配をかけてごめんね」
「うん…。それとお願いがあるけど、いい?」
「何?」
「手のひらを見せてくれない?」
「あ、うん」
左手を見せると、さりげなく自分の手を俺に合わせる桐藤さんが微笑んだ。
「これで何が分かる…?」
「……人の気持ち」
と、言った桐藤さんが指を絡ませる。
「……えっ?いきなり?」
「どー?」
これは俺と桐藤さんが初めて手を繋ぐことだった。
桐藤さんと手を繋いだ時、その温もりと小さい手が感じられて、なんとも言えないすごい気分になっていた。ただ片手を繋いだだけで、俺は桐藤さんに恋をしていたことを認めてしまった。これは変な気持ちじゃなくて、本物の恋だったんだ。
「どーって言われても」
「これね。今日ひなちゃんが教えてくれたよ。恋人繋ぎって言う特別な行為だって」
「……」
「どうした?星くん…?」
「なんか、恥ずかしくて…」
「恥ずかしい?ドキドキする?」
「ちょ、ちょっとだけ…」
「どれどれ…」
そう言った桐藤さんが俺の胸元に耳をつけて心臓の鼓動を聞いていた。
「フンー、ちょっとだけかー」
「……」
「私、これ好きだよ…。もっと手を繋ぎたい…」
「勘弁してくれ…」
可愛い顔でにやついていた桐藤さんが俺のことをからかっている。
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