第33話 篠原は羨ましい。

 このまま生徒会室に入るのはできなかった。

 桐藤先輩と花守先輩が生徒会室の中でエロいことをしている…。僕が今聞いたのはなんなのか…、これは生まれてから初めて聞く女子の声だった。会計の書類を会長に届けるために来たけど、今は二人の時間を邪魔してはいけない気がした。


「あ?篠原?どうした入らないのか?」

「星先輩…!えっと…」


 適当に何かを言わないと…、先輩たちが星先輩にバレてしまう。


「あの、星先輩!今!会長がすごく怒ってるんです!」

「……、あ、そうだ。俺教室に忘れたものがあってちょっと取りに行く」

「一緒に行きましょう」

「ありがとう」


 星先輩、なんかすみません。

 正直何をしてるのか、僕もよく分からないんですけど…。今入ったら先輩も僕も殺される気がして、仕方がなかったんです。


 でも、外で聞いた会話の中には星先輩の話もあった。

 つーか、星先輩はもともと人気者だったから生徒会の人が星先輩に興味を持つのも当然だろうな…。隣で歩いている星先輩の横顔を見ると、やっぱかっこいいなと思ってしまう。僕もこんな顔だったら…、少なくとも星先輩みたいな人だったら…、もうちょっとだけかっこいい人になれば、あんな目には遭わなかったかもしれない。


「どうした?篠原」

「いいえ…、なんか星先輩ってモテモテしますね」

「はっ?いきなり?」

「先輩って、血蘭で有名だから…」

「俺…、そんなに有名だったのか…?知らんかった。興味ない」

「へえ…、さすが鉄壁の星先輩」

「そのあだ名はよせ…」


 そして僕が嘘をついてしまったせいで、今血蘭の広場で話をすることになったのだ。悪いと思ってるけど、二人のためなら仕方がなかった。でも、怒ってるって言っただけで先輩が教室に戻るとは思わなかった。本当に何かあったのか…?


「あ、そう。篠原」

「はい?」

「会長ってすごく怒ってる…?かな?」

「え…、今なら大丈夫…でしょう…?」

「そうか?」

「何かあったんですか?会長と」

「なんか怒らせちゃって…、話しづらいよな」

「僕でよかったら聞かせてくださいよ」


 なんか、この人ならほっとしてしまう。

 星先輩はいい人だから…、もし悩むことがあるなら僕が聞いてあげたいな。


「昨日の夜、会長から電話が来て…」

「やっぱやめときます。先輩は裏切り者です」

「えっ…?」

「冗談ですよ」

「なんだ…。でも、大したことじゃなくて、ただ…女子の心がよく分からないって言うか…」

「そうですか…」

「言い方が悪かったかな、あるいは…。やっぱそれか…」

「何かあったんですね?」

「考えてみると、こうなったのは篠原のせいだぞー」

「えっ?僕ですか?」


 僕のせいですか…?え…、もしかして屋上に引きこもってた時か…。


「あの日、篠原の居場所を教えてくれた1年生がいてさ」

「はい…」

「あの子に居場所を聞くために一つの約束をしたから…」

「なんの約束ですか?」

「一日デートすること」

「えっ…!しかも女…?やっぱ先輩は裏切り者…」

「そうか?でも、どうして会長がそれを知ってるのかは分からないけど…、その話をした時に会長が怒ってた…。だから俺はそれが心配になるんだ」


 ん…?もしかして、会長って…星先輩とそんな関係なのか?

 これ…って、どう聞いても他の女の子とデートをした星先輩に怒ってる状況なんだけど、星先輩ってもしかしてそれを知らないのか…?本当に会長の気持ちが分からないってことか…?意外と星先輩はこっちの話に限って鈍感だったからびっくりした。


「先輩と会長ってもしかしてそんな関係ですか?」

「どんな関係?」

「好きとか、まぁ…そう言う関係です」

「そんなわけあるか?会長と俺がそんな関係になれるはずがない。会長は確かに美人で頭もいい人だけど、俺とはそんな関係になれない」

「へえ…、でも今の話はどう聞いても…」

「そうかもしれない。でも、俺は会長とそんな関係じゃないから…それは誤解だ」


 じゃあ、何を心配してるんだ。

 そんな関係じゃなかったら特に悩む必要があるのか…?モテる人たちの考えはよく分からない。前にも二人でお昼を食べたり、後で生徒会の仕事をする時もそばでくっついたりするから、二人の間にそんな雰囲気が流れていると思っていた。


 でも、僕が違ったのか…?二人の間で感じたのはただの勘違い…?


「あ!二人ともここで何してるの?」

「これは花守先輩の声ですね?」


 向こうの本館から外に出る白羽とひな。


「星くん、探してた…」

「桐藤さん…」

「ちょっと話があるけど、いい?」

「うん…。あ、でも篠原と話をしてたから…」

「先輩!大丈夫です!行ってください!」

「あ、ごめん…。篠原、でも話を聞いてくれてありがとう」

「はい。また話しましょう」

「うん」


 そうやって星先輩は会長と話すためにどっかに向かう。

 僕は二人の姿を見て、すごくお似合いだと思っていた。かっこいい星先輩と綺麗な会長だったから、僕はあの二人を見て、ただ羨ましいと思ってしまう。僕の初恋は悪夢そのものだったから、星先輩の恋を応援したくなった。ただそれだけ。


 でも、星先輩は鈍感でそれに気づいてないかもしれない。

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