第35話 みんなの部活。

 今日はみんなが部活をやってるから、俺一人生徒会室に残っていた。

 たまにはこうやって一人になる日もある。桐藤さんとひなはそれぞれ部活があって、今は席を外していた。篠原のことはよく分からないけど、多分他の部活とかやってるんじゃないかな。


「一人の時間も悪くはないな…」


 特室で淹れた紅茶を飲みながら、俺は篠原に任せた会計書類を確認する。

 そしたら、ばっと生徒会室の扉を開ける篠原がソファに座って真剣な顔をしていた。何かあったのか…?篠原がこんな顔をするなんて珍しいことだった。そしてポケットの中からスマホを取り出した篠原は、あるものを俺に見せてくれた。


「これ、新作ですって!」

「うわー!ドッキリ、このアイドルがまじ現実に現れた括弧君が大好きな10人の彼女…って。し、篠原…?」

「はい!」

「期待してる顔なんだけど…」

「先輩、これは滅多にないゲームですよ」

「……タイトルを読んだだけで分かる」

「てか、星先輩って部活しないんですか」

「うん。俺は生徒会だけ、他の部活には興味ないし。篠原は?他の部活やらないのか?」

「先輩…僕にそんなことができるわけないでしょう…」


 急に暗くなる篠原…、変なことを言ってしまった俺…。


「分かった。分かった…。ごめん」

「やはり俺は星先輩しかないんですよ…」

「なんだその言い方は…。てか、会長とひなはどんな部活やってるのか知ってる?」

「会長は多分弓道部で花守先輩は射撃部です」

「ひながあの射撃部に入ってるのか…」

「前にけっこう楽しいよーっ!って言われました。てか、星先輩は花守先輩を名前で呼んでますね?」

「あっ…」

「へえ…。仲がいいんですね…、花守先輩と」


 ひなのことを名前で呼んだだけで涙が出るのか、なんかごめん俺が悪かった篠原…。それにしても二人とも弓道と射撃か、なるべく怒らせないようにしよう。狙われたらその場で即死するかもしれないから、特に桐藤さんがいる時は注意しないとな。


「フフフッ」

「何を笑ってる?」

「なんか、射撃ってセクシーなイメージがあるんじゃないっすか?」

「どこに…?」

「この前に見た洋画の中でセクシーなスナイパーが出たんですよ。体にぴったりする黒いスーツを着た女優さんがですね、体つきがよくてすごい美人でした。やっぱ射撃ならそんなイメージですね!」


 ごめん、篠原が何を言ってるのか俺にはさっぱり分からない。


「花守先輩は可愛くて小さい人なのに、意外とスナイパーを使ってますし。前にちょっとだけ射撃部の練習を見たことがありますよ。服装がヤバすぎてもう…、本当に最高でしたー!」

「……お前、よくも今まで生き延びたんだ」

「えっ?しかし、それだけではないっすよ!」

「篠原…」

「血蘭の弓道部も服装がやばいんですよ…。特に女性の服装が…、サラシを巻いても半分くらい見えるその肌が!そのエロさに堪りません!それはもはや半裸じゃないですか!」

「いや…、ちゃう」


 湊が一人で言いまくってる時、ちょうど部活を終えた白羽とひなが生徒会室に戻る。もちろん、会計書類を見ている星と喋ってる湊は二人が戻ってきたことに気づいていなかった。


「しかも、先輩。弓道はおっぱいが大きい人には難しいんですよ?知ってますか?」

「なんで…?」

「えへっ。あの弓のツルが胸に当たるんじゃないっすか?だからサラシでなんとかしても大きい人には無理ですよね?」

「そ…っ…!」

「……」

「……」


 篠原の話を黙々と聞いていた時、俺はその後ろから少しずつ姿を現す二人に気づいてしまったのだ。


「あの…、あの…篠原?うん…。やはりあの…」


 ここで何を言えばいい?やばい、この場から逃げろとは言えなかった。

 俺は篠原のことを守ってあげられない。桐藤さんとひなが後ろから篠原を見下しているのに。ダメだ…こいつはそれに全然気づいていない。仮に俺がこの場から抜け出したかったけど、首を傾げる桐藤さんがこっちを見つめていた。


「それで!すごいっすよ!星先輩にもその素晴らしさを教えてあげたいんです!」

「ブレ…イキ…。篠原…」

「やはり!星先輩も知りたいっすね?!」

「篠原くん?星くんに何を教えてあげるって?」

「ひっ…!」

「篠原くん…?」

「は、花守先輩…?えっ、会長…」


 それから篠原の両腕を取り縛るひなと、その前に立つ桐藤さんの瞳が真っ赤に輝いていた。ひなに掴まれた篠原の体がすごく震えている。なんか怖いんだけど、二人は篠原に何をする気だ…?


「星くんに何を教えてあげようとした…?篠原くん…」

「そ、それが…」

「フン…?」

「星先輩、た、た、助けてください!!先輩!」

「会長が聞いてるのに…、星くんに話をかける暇があるの…?」

「ひっ…!せ、先輩たち…」


 ごめん、篠原。俺は副会長としてお前を守ってあげるのは無理だ…!

 どうか神様に祈ってくれ、俺はこの場から逃げ出すから…ごめん篠原。こんな副会長を許してくれ…!


 そして生徒会室から抜け出す星。

 それを見つめていた湊は星の方に向いて震えている自分の右手を伸ばした。


「先輩!!僕を見逃さないでください!」

「篠原くん…?」

「し…のはら…?」

「先輩!星先輩!!!!」


 それから篠原の悲鳴が聞こえるほど、二人に殴られたらしい。

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