第31話 それってなんって言うの。

 今日は慣れていないことばかりで疲れた…。

 人と何かをするのがこんなに疲れるとは思わなかった。家に帰ってきた俺はすぐベッドに横たわって、我慢していたため息をつく。すると、ポケットに入れておいたスマホからL○NEの通知音が鳴いていた。


 奏「今日は一緒にデートしてくれてありがとうございます!楽しかったです!先輩!」

 星「うん。よかったな」


 暗闇の部屋で一瀬に返事をした後、服を着たまま寝ようとした。


 奏「先輩!聞きたいことがあります!電話かけてもいいですか!」


 次のL○NEが届いた時、星はスマホを落としたまま静かに眠る。それから1時間くらいが経って、床に落としたスマホに電話がかけられた。静かな部屋で響く着信音に目が覚めてしまった星が寝ぼけたまま電話に出る。


「も、もしもし…。井上星です」

「星くん…?どこ?外?」

「桐藤さんだ…。今…、家。俺の部屋だけど…」

「真っ暗なのに、電気つけてないの…?」

「えっ…?なんで分かる…?」


 やはり、桐藤さんは鋭いな…。

 こんなことも分かる?生徒会長の貫禄ってことか…。


「これビデオ通話だよ…?」


 うん…?今、なんって…。


「えっ?」


 慌ててスマホの画面を見たら、パジャマの姿をしている桐藤さんがこっちを見ていた。紫色のパジャマがとても似合う桐藤さんが首を傾げて、俺の名前を呼ぶ。一瀬の後は桐藤さんか…、しかもビデオ通話なんてこれはどうすればいいんだ…?


「あの、星くん?」

「うん…」

「部屋に電気をつけてくれない?顔が…見えないから」

「あ、先まで寝てて…」

「はい…」


 桐藤さんが言った通り、部屋の電気をつけてからベッドに座る。明るくなった部屋を見て笑みを浮かべる桐藤さん、座っていたところから自分のベッドに場所を移って話を続けた。


「そういえば、まだ着替えてないよね?星くん…」

「うん。ちょっと疲れて、帰ってからすぐ寝ちゃった」

「どっかに出かけたの?」

「うん…」

「どこ?」


 やっぱ、これを聞いてくるのか…。

 でも、俺別に悪いことをしてないし…、これはただの…ただの…?なんとも言えないことだった。俺が一瀬と二人で出かけたことを桐藤さんにどう説明したらいいんだろう…?素直に話したら、桐藤さん怒るかな…。一応、友達だから理解してくれると思っていた。


「映画を見に行った…」

…?」


 なんか「誰」って言う桐藤さんの声が怒ってるように聞こえるけど、気のせいかな…?いけない。ただ「誰」って言われただけで、さらに緊張してしまうんだ。


 夜の9時、俺は女の友達とビデオ通話をしていた。

 友達だと言っても俺は桐藤さんの所有物だから、なのに一瀬と二人でデートをしたことを彼女に話していなかった。今はその事実を隠した方がいいか、あるいは素直に話した方がいいか…スマホの画面を見つめて俺はすごく悩んでいた。


 ウジウジする暇はないから桐藤さんの気持ちを確かめたい。


「えっと…、その前に…。一応聞いておきたいことがあるけど…」

「うん?」

「もしかして、桐藤さんは怒ってる?」

「全然…?怒ってないよ?」

「なら、言いたくないけど…。いい?」

「私が聞いているのに、星くんは私の言葉に逆らうの?」


 やっぱり怒ってるじゃないか…。


「ま、前に会った1年生に…、あのて、手伝ってもらったから…。向こうからそのお礼として一日…」


 くっそ、体が震えて上手く話せるのができない。


「それで1日中一緒に遊びまくったわけ…?」

「うん…」

「映画見て、お昼食べて…。それから話しながら家に送ってあげただけ…」


 俺が言ってもこれは完全に桐藤さんを怒らせる言葉じゃないのか…?

 でも、俺は桐藤さんと付き合ってる関係じゃないから…。なんで俺は一瀬と一緒にデートしたことに罪悪感を感じる…?いや。確かに所有物って言われたけど、桐藤さんは吸血鬼だし…、俺は人間だからそんな感情は成立しない。


 そんな感情は俺たちの間で成立しないんだよ…。

 でも、どうして俺はそれを心配して…、桐藤さんはそれを聞くんだ…?


「星くんが言ってたじゃん…。あんな子と関わらないって…」

「いや、それは…。助けてもらったから…仕方がなかった」

「星くんはあの1年生が気になるの…?」

「そんなわけないだろう…。俺だって…、桐藤さん…」

「うん…?」

「いや…、なんでもない。」


 何を言い出そうとしたんだ。俺は…?

 桐藤さんの表情が少しずつ変わっていくことを…、スマホを見ながら感じていた。


「ごめん…。星くんを責めるつもりじゃなかったのに…。私変だよ」

「……」

「ただ声が聞きたかった…。週末には会えないからね」

「……そ、そうだよね。ちゃんと休まないとな…!」

「ねぇー。星くん」

「うん?」

「首筋見せてくれない?」

「あ、うん」


 そう言ってくれた桐藤さんに、俺は今まで噛まれたところを彼女に見せてあげた。


「見えない…。ちゃんとカメラを首筋に近づけて」

「えっ?分かった」


 桐藤さんから目を逸らしてベランダの方を見た。

 カメラを首筋に近づけて、よく見られるように俺はそのままじっとしていた。


「……」


 白羽のスマホに、自分が残した歯形の傷跡が見えてきた。


 そして自分の胸に手を当てる白羽は、ひなに言われたことを思い出していた。白羽はなんとも言えないこの気持ちを知りたがっている。「血」を吸うだけではなく、心の底からもやもやしているもう一つの感覚に…、彼女はこう呟いた。


「この気持ちはなんって言うの…?」

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