4:白羽が知らないこと。
第25話 桐藤さんは味を知らない。
篠原が生徒会に戻って来てから、桐藤さんに余裕ができた。
基本的に書類も多いけど、それより会計帳簿を管理するのが一番厄介だったからな…、篠原が生徒会に戻って本当に来てよかった。
それから1時間くらい桐藤さんに叱られたと思うけど…。
「今日も天気がいいよね?」
外を眺めているひなが話した。
生徒会長の席で紅茶を飲んでいる桐藤さんと真ん中のソファに座っている俺たち3人、そしてひなが用意してくれたお茶を飲みながら静かに休憩を取っていた。
「そうですね。僕は薄暗いところがもっと好きなので…、日差しはちょっと…苦手です」
おい、篠原お前も吸血鬼だったのか…?
「あら、日差しが苦手だったらカーテンを閉めようか?」
「僕は賛成です」
何をさりげなく賛成ですって言ってるんだ…?
俺だけがこの流れに乗れないのか…?半分くらい閉めたカーテンのせいで生徒会室の中が暗くなってしまう。桐藤さんとひなにはすごくいい環境なんだけど、暗くてよく見えないんだからな…。それでも、なんとも言えない生徒会副会長だった。
そしてお昼の時間が訪れる。
「あ、お昼の時間だー!」
「じゃ、僕はお弁当を持って来ますから…」
「俺は持ってきたから、先に食べるぞ」
「はい」
てか、暗くて…蓋はどこだ…?
「蓋はここだよ。星くん」
いつの間にか、そばに来ちゃった桐藤さんが俺と手を重ねて代わりに蓋を開けてくれた。多分、前からひながこっちを見てるはずなのに…、桐藤さん積極的だ。そう言えば、吸血鬼にはどう見えているのかは分からないけど、俺から見るとめっちゃ真っ黒な部屋の中で二人の赤い瞳が輝いてる景色だった。これじゃ食べられないし…。
「あ、もしかして暗くて食べられない?特室に行った方がいい?」
「ひ、一人でいいから…」
お弁当を持ってこっそり生徒会室を抜け出すつもりだったけど、ソファから立ち上がろうとしたらいつの間にかそばにいる桐藤さんに手首を掴まれてしまった。
「星くんの意見は聞いてない」
「……はい」
そう言ってから俺を特室に連れて行く桐藤さん、これってもはや特室に連れ去られている感じだった。
「じゃあ、ひなちゃん。行ってくるね?」
「……あわぁ、うぅ…ん」
明るい顔でひなに話をした後、二人っきりの特室でお昼を食べる。
一方、二人の関係をすでに知っていたひなが顔を赤めて特室の方を見つめていた。一人で動揺しているひなが落ち着かない気持ちを抑えている間に、湊がお弁当を持って生徒会室に戻ってきた。
「あれ?星先輩と会長は?」
「うん?二人でお昼を食べてるから…」
「へえ…、仲がいいんですね」
「かもね!」
薄暗い生徒会室の中でおにぎりを食べる湊、そしてひなは「仲がいい」と言う湊の言葉を聞いて、この前にあったことを思い出してしまう。椅子に星を倒して血を吸っている白羽の姿が今までひなの記憶に残っていた。
「……」
ウジウジしているひなの姿をすぐ前で見ていた湊が訝しげな視線でお昼を食べる。
「セーイくん、なんで向こうに座る?」
「えっ…?」
特室の席に着くと、そばに座る桐藤さんが俺の頬をつつく。もしかして、くっつくのが好きだったのか、普通に向こうで座ろうとした俺に一言を言う桐藤さんだった。すると、そばにいる桐藤さんが蓋を開けたお弁当の中を見つめて目をキラキラする。
「へえ…、人間ってこんなものを食べるんだ…」
「桐藤さんは人間の食べ物、食べられる…?」
「食べたことないけど、多分食べるよ」
「へえ…、吸血鬼も人間の食べ物が食べられるんだ…」
そしてお昼を食べ始める時、そばから血液パックを飲んでる桐藤さんの視線に緊張してしまう。多分、お弁当の方を見ているかもしれない。吸血鬼って普段は血と…、それくらいしか食べないよな…?やはり人間の食べ物にちょっと興味があるのかな。
お弁当のおかずをジロジロ見ていた桐藤さんに声をかける。
「はい。桐藤さん、あーんして」
「えっ?これは…何?」
「卵焼きって言う人間の食べ物だよー」
「そう…?」
そう言って大人しく「あーん」する時、桐藤さんの鋭い牙が見えてきた。あの牙で俺の首筋を噛んだんだろう…、感覚的に感じていた牙を目で直接に見ると、やはり桐藤さんが吸血鬼だったことを認めてしまう。でも目を閉じて口を開けるその姿がとても可愛くて、俺はその卵焼きを桐藤さんに食べさせた。
もぐっー
「どう?」
「これはどんな味?」
「甘い味だよ」
「これが甘い…味?」
「そうだよー」
「なんか、血と味が違う」
「それはそうだよな…、それより普通に食べられるのかー」
目の前でもぐもぐ食べる桐藤さんがお弁当を見ていた。もしかして足りなかったのかと思って、隣の野菜とウィンナーも桐藤さんに食べさせてみた。なんか、これけっこう楽しい…、なんでだろう…?桐藤さんが食べる顔が可愛いからか…?
「はい。あーん」
「あーん」
もぐもぐ、目をぱちぱちして人間の食べ物を味わう吸血鬼。
「不思議な味…、こんな味は初めて…」
「そ、そう?」
「私に人間の食べ物は、人間が水を飲む時と同じだと思う。味はよく分からないし、栄養も取れないそんなもの…、でも食べられるからね」
「そうか…」
それから桐藤さんのそばでお昼を食べている時、俺の肩に頭を乗せた彼女が声をかけてくれた。
「ねぇ…、星くん」
「うん。桐藤さん」
「私…、お腹空いちゃった…」
「……はいはい。ちょっと待って食べ終わってから吸わせてやる」
「うん…!」
でも、桐藤さんって先血液パック飲んだんじゃ…?なかったのか?
お弁当を食べ終わった後、左手で俺のあごを持ち上げる桐藤さんが肌の匂いを嗅いでから首筋を噛む。その前で恥ずかしい声を出していた俺は、桐藤さんと体をくっつけて血を吸われていた。
「……っ」
「あ、そうだ。ご馳走様でした!」
「……はぁ、もう変な声は出したくないのに」
「そっちが可愛いからね?」
「うるさい…」
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