第24話 篠原。−3
「……篠原からメールがきた」
「なんって…?」
「ごめん、ちょっと行ってくるから」
「今…?」
「うん!」
篠原から届いたメールの内容が気になって、俺はすぐ1年A組まで走り出した。そのメールに書いていたのは『先輩、相談に乗ってくれませんか』と言う簡単な一言だった。でも普通に相談がしたいわけじゃなくて、俺はそのメールに不安を感じてしまう。
ふと思い出した篠原の顔に、1年A組の扉をばっと開けてしまった。
「篠原!」
「あれ?副会長だ!」
「……こっちじゃなかったのか」
教室まで走ってきたけど、篠原の姿は見えなかった。
なら、屋上にいるんだよな…。篠原待ってろ。今すぐそこに行くから…。
それから共有建物の屋上まで走り出した。
息を切らして屋上の扉を開けた時、涼しい風が吹いてくる屋上の真ん中に篠原が立っていた。何を考えているのか分からない表情をして、篠原がこっちを見つめる。
「しの、篠原…」
息を整えてる俺と目を合わせた篠原は静まり返る屋上の真ん中で黙り込んでいた。
「どうしたんだ…。篠原」
「せ、先輩…」
「はぁ…はぁ…」
「走って来たんですか?」
「当然だろう!」
「……」
息を吐いて、篠原のところに近づいた。
日が暮れる夕日を眺めながら、篠原が我慢していたことを俺にぶちまける。
「先輩、僕…。やはり転校した方がいいかもしれません」
「どうしてだ?」
「もう血蘭に通いたくないので…、転校することを」
「あのさ、篠原。俺はよく分からないけど、何かあったら俺に話してくれないか?」
「……」
「同じ生徒会のメンバーだろう?」
「周りの人たちに見られるのが、怖くて…。何をやっても否定されるような気がしてもうダメです…」
「そうか、人が怖いのか…。まぁ…、それは分かる。分かるけどさ、世の中のみんながに嫌われてるような顔はするな。俺がこんな話をしても、無駄ってことは分かっている。でも、あの生徒会長が認めた人だから俺も篠原のことを信じてみたい」
「どうして…、人々は自分が聞きたいことだけを聞いてるのか…。よく分かりません。僕の話など…それは僕のせいじゃないのに…」
隣のベンチに座って俺たちは話を続けた。
そばに座ってる篠原の背中を軽く叩いて我慢していたことをぶちまけるように、俺はそばから黙々と話を聞いていた。
「それは…中等部の頃でした。僕はただ好きだった女の子を応援しただけなのに」
「やはり、何かあったよな?」
「でも、それは全部僕の片想いで。あの子に直接告ったり、迷惑になりそうなことは一切なかったんです。彼女が笑うのが好きで…、それだけで十分だったのに。どうして僕が悪い人になってるのか分かりません…」
篠原の声が震えていた。
重苦しいその気持ちが俺に伝わっている。自分はただ普通の関係でよかったのに、周りの目がそれを許さなかったってわけか。詳しい事情はよく分からないけど、二人の間であったことが誰かの耳に入って、それが一年生の間で広がっていたんだ。
「先輩、僕は…。ただ、ただ…あの子が言ってたことを応援したかっただけなんです。僕たちはこの屋上で出会って、笑いながら話して…、いい友達になれると思ったのに」
「そうか…、あの子は何組?」
「多分、今はE組にいます」
「そうか…。篠原ってさ、まだあの子が好きか?」
「いいえ…。多分…」
「話は大体分かった。それでもう教室にも血蘭にもいたくないってことだよな」
「はい…、どうせ僕が話してもみんな信じてくれないし…。これでいいんです」
これは完全に心が折れてる。
好きな人に振られたって言うより、もっと厄介な関係に囚われているらしい。落ち込んでるこの姿を見ていたら、ふと昔の俺を思い出してしまう。周りの視線と噂に耐えられないほど、篠原は傷ついていたんだ。俺もその気持ちがよく分かるから、だからこそこのまま諦めてはいけないと思う。逃げるだけじゃ、何も解決できないんだ。
篠原はその現実に立ち向かおうとしていない。
それは仕方がないよな…。でも、生徒会のみんながいるからこっちの人を信じて欲しかった。
「じゃあ、篠原は生徒会のことはどうでもいいってことか」
「はい…」
「俺たち3人は篠原が必要だとしても無理なのか…」
「はい…。すみません。先輩」
「しっかりしろ!篠原!周りが篠原をどう見ているのかは気にしなくてもいい!篠原が本当に潔白なら、俺たち生徒会が全力で篠原を庇う。いいか?」
「……先輩」
席から立ち上がった俺が篠原の前に手を伸ばす。
ここのにいるための証明を…、俺に見せて欲しかった。
「落ち込んでんじゃねぇよ。言っただろう?篠原は一人じゃない」
「……いや。僕は、それでもいいですか?みんなに嫌われてるはずなんですよ」
「行こう。会長が篠原を待ってるから」
「……はい。分かりました」
ウジウジしていた篠原が俺の手を掴む。
「なんか、すみません…。迷惑をかけてしまって…」
「何を…?全然平気だから心配すんなよー」
「ありがとうございます…」
ちょっと遅くなったけど、扉の向こうから二人の話を聞いていた白羽が笑みを浮かべる。
それで俺たちが生徒会室に向かってる時、この状況を知ってるように桐藤さんが「お疲れさま」とL○NEを送ってくれた。
「……何で知ってる?」
「えっ?何かあったんですか?」
「いや…」
それからあっという間に俺たちの忙しい一週間が過ぎてしまった。
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