第23話 篠原。−2
「……」
星からもらったメモをポケットに入れて、教室に向かう湊。
自分がいてもいなくても教室の中は、その雰囲気は変わらなかった。それを知っていた湊は静かに席に座る。ざわめく教室の中でイヤホンををつける湊、周りのクラスメイトたちに線を引いてから机に伏せる。目を閉じて、ポケットの中にあるメモを握りしめながら…。
「あいつが…、篠原か…噂通り暗いな」
「でも、先副会長が探してたじゃん」
「篠原とは関わらない方がいいって」
湊は知っていた。
この教室に自分の居場所なんかないってことくらいは…。
「僕はただ…」
机に伏せたまま呟く湊、誤解だと反論したい意欲さえ消えていく。
信じたいことを信じるのが年頃の人だ。自分のことをアピールする人とその人に従う人、群れの中で決められる権力者…。もう聞きたくないのに、どうして人のことをそこまでいじめるのか湊には分からなかった。
「気持ち悪いね?あの事件は…」
「まぁーまぁー、篠原がいるからやめろ…」
「篠原が悪いんだよ…、女の子に執着するって最低!」
「……え」
静かに、寝たふりをしていた。
もう2ヶ月以上、クラスメイトたちの陰口が続いていた。止まる気はなさそう。他人の悪口をして自分の所属感を感じるのが彼らのやり方、そのためには何度も他人の悪口ができる。たとえ、それが自分の親友だとしても…、彼らはこの小さい世界の中で生き延びるために他人を引き裂く。
「やはり、ダメか…」
湊は一人で考えていた。
今握っているこの電話番号に電話をかけたら、自分の居場所が作れるのか。息苦しいこの場所で逃げ出したかった湊は静かに考えていた。一人がいやだったのは湊にも同じだから。でも、こんな自分を生徒会の人たちが許してくれるはずがないと思っていた湊は、ずっとクラスメイトたちと生徒会の人たちに距離を置いていた。
『生徒会のみんなは君を信じてるから』
最後の一言を思い出した湊はスマホを出して星に電話をかけることにした。
「……保健室か、先輩」
電話に出ない星に仕方がなく、そのまま机に伏せる。
一方、湊から電話をかけられた星は保健室のベッドで眠っていた。スマホがマナーモードになっていたせいで、湊の電話には出られなかった。そのまま体の向きを変える星、誰かの手に触れているような気がして徐々に目を開ける。
「あら、起こしちゃった?」
「桐藤さん…」
「うん、体の具合はどう?」
「今は大丈夫かも…」
「ごめん、私がやりすぎたかもしれない」
保健室、俺の前には桐藤さんが座っていた。生徒会の仕事をしながらそばで俺のことを見守っていたのか、心配をかけちゃって悪いな。
「大丈夫…、今は平気」
「そう?ならよかった」
「てか、桐藤さん俺のこと触ってた?」
「えっ?いきなり?」
「なんか、誰かに触れたような気がして…」
「べ、別に起こすつもりじゃなかったけど…」
「……夢の中で、温かい手に触れた感覚がしてさ」
「……そ、そう?」
ベッドに横たわったまま桐藤さんの方を見つめる。その横顔から目を逸らさなかった俺は黙々と桐藤さんの隣で時間を過ごしていた。こんなの大したことでもないのに…、桐藤さんに気遣われているのが不思議だと思っていた。
「何をジロジロ見てるのかな?」
「えっ!見てないし…」
「何?噛まれたいの?」
「ち、違う!」
「冗談よ」
そう言った桐藤さんが俺の前でしゃがんで目線を合わせてくれた。横たわってる俺の前に桐藤さんの顔が見えてきた。大きい目と綺麗な顔がすぐ目の前にいて、びくっとしてしまう。それに微笑む桐藤さんが俺の頭を撫でてくれた。
なんとも言えないこの気持ち、俺たちは友達…だよな…?
他人の前ではクールな桐藤さんが俺にだけ、こんなことをやってくれると思ったら余計な勘違いをしてしまう。
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
「……」
し、しっかりするんだ。井上星…。
そう思い切っても自分の顔が熱くなるのは仕方がなかった。一体どうすればいいんだ…?
「何その小学生みたいな言い方は…」
「私のものが痛くなったら、主人の心も痛くなるからね?」
「主従関係か…?」
「うん、だって星くんは私のものじゃん?違うの?」
「そう…、桐藤さんのものだよ」
「よしよし…、やはり私のものが世界一かっこいい!」
「……またそんなことを」
そんなことをさりげなく言うのが一番怖いんですけど、生徒会長…。
俺はそんな人じゃないし、二人っきりでいる時はいつもこうやって仕掛けるから本当に敵わないんだよ。桐藤さん…。
「心にもない空言じゃないよ。ずっと意識してるって言ったでしょう?」
「……うん」
すると、俺に顔を近づける桐藤さんが耳元でこう囁いてくれた。
「へえ…、星くんがドキドキしてる」
胸元に手のひらの置いた桐藤さんが心臓の激しい鼓動を感じている。ドキドキしすぎて目の前にいる桐藤さんと目を合わせるのができなかった。気持ちが落ち着かない、何か言わないと…、でも頭が真っ白になって何も思い出せなかった。
「フフフッー、可愛い」
自分の前で緊張している星に白羽が微笑む。
「ねぇ、星くん。耳元で囁くのが好き…?耳が赤くなってるよ?」
「……知らない」
本当に…、敵わない。
星が眠っていた時、そばからその顔を触っていた白羽が彼の唇を見つめていた。
すると、人差し指で唇を触る白羽が生徒会室で感じた気持ちを思い出す。
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