第21話 うちの会計。−3

「そろそろ、ひなちゃんが戻るから制服の乱れを直してあげるね」

「うん…」

「あら…、シャツに血が…」

「そう…?本当だ」


 鎖骨のところを吸ったからだ。血に染まったところはブレザーで隠せるから一応問題ないかもな。それより服の乱れを直してくれる桐藤さんがすごくニコニコしてるけど、なんかいいことでもあったのかな…?女心はよく分からない…。


「はい、これで…」

「ありがとう。桐藤さん」


 そして席から立ち上がる時、資料を持ってきたひなが生徒会室に入る。


「持ってきたよー!」

「ありがとう。ひなちゃん」

「私がいない間に、何かしてたの?」

「……な、何も?」

「へえ…?」

「話があるから、座って」


 ソファに座る俺とひな。そしてひなからもらった書類を確認した後、席に着く桐藤さんが話を始めた。


「知ってると思うけど、今は新学期。人々が部活のために色々宣伝したり、自分に合う部活を探したりする時期よ。ひなちゃんも書記の仕事があるから、帳簿整理のことは一応星くんに任せておいたけど、そろそろ星くんも私の仕事を手伝わないといけない状況だからね?必ず篠原くんを私の前に連れてきて」

「そんなに避けられてるのに、どうして桐藤さんは篠原を探そうとする?」

「私が篠原くんの能力を認めているからだよ」

「そうか、花守が言った通りだ。まずは篠原を探さないと…。てか、何組?」

「1年A組だけど…」


 言葉を濁す桐藤さん、じっとしていたひながこっちを見つめる。


「何かあった?」

「あのね。星くん、篠原くんは…、女子恐怖症で私たちと会わないんだよ」

「えっ?本当?」

「うん…、何度も会おうとしたけど、すぐどっかに行っちゃって私たちを避けるの」

「そうよ、星くん。だから血蘭の会計を取り戻すのが最優先よ」

「分かった」


 女子恐怖症の篠原、1年A組…。

 それから生徒会室を出て1階に向かう、出る前に桐藤さんからもらった篠原の写真を見て彼の人着を覚えた。それにしても女子恐怖症か…、俺の周りにはなかなかいないよな。どうやら女子と何かあってトラウマになったと思うけど…、俺の話は聞いてくれるかな…?他人と話そうとしないところが俺と似てるから心を開くかどうか…。


 一応男なんだけど、俺篠原のことを全然知らないから…。

 どっから話せばいいんだ…?


 そんなことを悩みつつ1階に着いた。


「1年A組…、1年A組。あ、ここか?」


 1年A組の扉を開けると、その中にいる生徒たちが一気にこっちを見つめた。なんか恐怖を感じるほど、人々の目線が俺に集まっている。それに気にせず、まずは教室の中を見回したけど、どっかに行っちゃったのか、篠原の姿は見えなかった。


「あれ?誰?」

「ちょっと待って、あのバッジは!副会長?」

「えっ?えっ?本当?副会長なの?」

「副会長だ!!!」

「しかも、あの鉄壁の星と呼ばれる先輩じゃん!」


 バッジってすごいな…、話をかける前に俺がどんな人なのか分かってしまうんだ。

 時間がなかったから俺はその教室の中で適当に人を指名し、篠原のことを聞こうとした。てか、男の方を呼んだのがよかったのかな。なんで俺の前で照れてるんだ…?


「あ、あの…。先輩…、どうしましたか?」

「いや、篠原湊ってA組だよね?」

「篠原…、あ…、はい。そうです」

「今、どこにいるのか分かる?探してるから…」

「よく分からないので、す、すみません」

「あ、そうか。時間を奪ってごめんね」

「いいえ…!」


 クラスメイトも分からないなら、これを誰に聞けばいいんだ…?

 血蘭学院はこう見えてもすごく広い、大きい高等部の本館と別館を除いても中等部の建物がその隣にあるから厄介なんだ。その中には中等部と高等部が共有している建物もある。どうすれば、この中から篠原を見つけ出すんだ…?


「せ、先輩?」

「うん…?」

「あの、これあげますので…」

「えっ?」


 顔を赤める1年生が俺にチョコを渡してくれた。


「あ、ありがとう」

「は、はい!」


 篠原を探さないといけないのに、なんでチョコなんかをもらってるんだ。俺…!

 時間がかかりそうだ。隣の壁に寄りかかって桐藤さんにL○NEをする時、誰か俺のそばに近づいて腕をつついていた。


「……誰?」

「先輩ー」

「一瀬…?」


 うわ…、この子も篠原の同じクラスだったのか。

 一瀬って苦手なんだよな…、もう近づかないでって言っても何気なく話をかけるところが一番怖いんだ。


「はい!」

「どうした?」

「篠原くんのことを探してますよね?」

「そうだけど?」

「私は知ってますよ?篠原くんがどこにいるのか」

「ほ、本当?教えてくれない?一瀬」

「へえ…、慌ててる先輩って珍しいですね?可愛い」


 だから、苦手なんだこの子は…。


「からかうのか…?今冗談をする暇はない。じゃこれで」

「いや…、本当だから!知ってるって!」

「なら言ってみて」

「その前に私と約束してください」

「はっ?」


 約束ってなんだろう…、俺に何かを要求するつもりか…?

 これだから女心はよく分からない。もし一瀬が本当に篠原がいるところを知っているなら…、聞かせてもらおう。


「本当に知ってるんだろう?」

「はい」

「約束ってなんだ」

「今週の週末、私に一日付き合うこと」

「それって…?」

「一日くらいはいいんでしょう??」

「……、分かった」


 一瀬と約束をした後、すぐ篠原がいるところに向かう。

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