第20話 うちの会計。−2
「今日もそこにいるかな…?」
「何が?」
「湊くん…」
あの名前は確かに生徒会室の壁に…。
生徒会室に向かっている時、ひなは篠原湊と言う人の話をしてくれた。彼は1年生の中で、桐藤さんから直接任命された優秀な生徒会会計だった。成績はそこそこなんだけど、帳簿整理に限って篠原以上の実力を持っている人が他にいなかったからだ。
「今はどこに?」
「血蘭のどこかにいるけど、よく分からない。いつの間にか生徒会のみんなを避けていたからね」
「そうか…」
血蘭にはいろんな部活があって、そこには莫大なお金が流れていた。
どんな学校も日本一の血蘭学院に敵わないほど、部活に使われている金額のレベルが違う。特に体育系では血蘭の名前が20年連続1位を維持するほど優秀な人材が多い、そして血蘭につけられたあだ名がインターハイの覇者だった。と言ってもすごいのは体育系だけじゃない。文化系でも芸術と音楽に関わって、名を広める生徒たちが多かった。たまに国際的な舞台に足を踏み入れた人もいる。
そう言うわけで、勉強と部活は全く違う形になっている。
勉強に専念するのか、あるいは部活に専念するのかだ。どっちも上位を取らないと意味ないのは同じだから、俺は勉強を選んだけどな。今はその莫大な予算を管理してくれる篠原が姿を消したから、こっちから探すしかない。
「会長ー!来たよ!」
「うん、私も今戻ってきたばかり」
カバンを席に置いた桐藤さんが今生徒会室に到着したのだ。
「桐藤家の仕事はどうなったの?上手くいったのかな?」
「そうよー、ちょっとお姉さんと話があってね…、遅くなってごめんね」
「大丈夫!有能な会長がいて嬉しい!さすが会長!」
殴られないための褒め言葉なのか…。
何も言えず、その隣でじっとしていた。
「ところでひなちゃん、前の資料って別館にあるかな?」
「あ、その資料は多分別館にあるかも…」
「今ちょっと確認したいことがあるから取ってくれる?」
「オッケー!」
「あ、花守!俺も一緒に行く」
「星くんはここにいて、話したいことがあるから」
「うん…」
「じゃあ、私行ってくるねー!」
「うんー」
そして二人っきりの生徒会室、やはり篠原のことだろう。新学期が始まってからいろいろ忙しいのが増えてしまって、桐藤さんもそれなりに苦労しているはずだ。俺が生徒会の副会長として、彼女の力にならないと…。
「星くん、ここに来て」
「あ、うん」
桐藤さんの前で目を合わせた時、笑っているその顔に心がどきっとする。
ただ教室と生徒会室から会えなかっただけ、離れていても俺たちはL○NEでずっと話をしていた。そしてその代わり俺が桐藤さんの仕事をある程度処理しておいて、彼女を負担を減らしてあげた。
「星くん、私に会いたかった?」
俺の頬をつつく桐藤さんがにやついていた。
「あ、うん…。でも、ずっとL○NEしてたから…」
「へえ…、そうなんだ」
そう言った桐藤さんが俺のネクタイを引っ張って自分の方にくっつける。
本当…。桐藤さんの香りが懐かしくなるほど、俺たちは離れていたのか…?いや、ただ数時間だろう…?何を考えてるんだ。井上星、しっかりしろ…。
確かに、7時間くらい会えなかったから…。
「やはり私はどんな高級ワインよりも、動物の新鮮な血よりも、星くんの匂いと血が好き…。この匂いが欲しかったの」
「……」
「人間の匂いは誰でも同じだから…、特別なんかじゃないよ」
「私のものだから特別なのよ…」
「……そうやってまた恥ずかしいことを言う」
「ううん…、もう限界なの。私我慢できなくなっちゃった」
「えっ?」
生徒会長の椅子に俺を倒して、すぐ体に乗っかる桐藤さん。
彼女はさりげなくシャツのボタンを外して、鎖骨までしっかり見えるように俺の制服を脱がした。乱れた制服に、喜んでいた桐藤さんが鎖骨のところを舐める。もちろん、抗えないまま彼女に身を任せるしかないのが俺の立場だった。
「あーむっ」
その鋭い牙に噛まれるたび、血を吸う桐藤さんの顔が赤くなって可愛く見えていた。少し眩暈がするけど、俺は桐藤さんの幸せな顔が見られるだけで十分だった。この痛みにはまだ慣れていないけど…、そのうち慣れるんだろう。
「お腹いっぱいー!おいひいー」
「そう?よかったね?」
「やっぱり私のものが一番美味しいんだよ」
鎖骨から首筋まで舐める桐藤さんの舌が感じられる。
さりげなく手を上げて桐藤さんの頭を撫でようとした俺は、彼女を顔を見てからすぐ諦めてしまった。一瞬だけ、相手が桐藤財閥の次女ってことを忘れていたのだ。今までは雰囲気に乗ってなんとなく抱きしめてきたけど、やっぱり俺から彼女を触るのはやめた方がいいかもしれない。
「うん…、俺も桐藤さんに噛まれるのが一番好きだよ」
「……そ、そう?」
「うん…」
自分の唇を拭いていた白羽が目の前でぼーっとしている星の唇を見つめていた。
「……あわぁ」
生徒会室の扉を開けられなかった。
外でこの状況を覗いていたひながこっそり顔を赤める。隣の壁に寄りかかって、資料を抱えていたひなが自分の目で見たことを忘れられなかった。
「……」
———静かに、扉の向こうで息を止める。
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