3:もう一人の生徒会員。

第19話 うちの会計。

 生徒会に入ってから二日くらい経った。

 特に任されたことはないけど、一応桐藤さんのそばから生徒会の仕事を手伝ってるだけの日々を過ごしていた。勉強しながら生徒会の活動も悪くはないと思って、今日も教室の中で桐藤さんに渡す会計書類をチェックしている。


 前にはひながやってたことだけど、ミスが多くて桐藤さんが俺に任せたのだ。


「もっと忙しくなったな…、星」

「まぁ…、会長は忙しいからな」

「なんか、星。キャラ変わった…?」

「えっ?俺はそのままだけど?」

「いや、ちょっとだけ。自信がついたような…」

「そんなことあるか…」


 よく言われる。確かに今までは陰キャラのイメージだったから、生徒会の副会長になった時の反応はすごかったよな。調子に乗るつもりはないけど、周りが俺をどう見ているのかはすでに知っていた。それとともに陰口を叩く人も増えてしまって、主には「お前みたいな人がなぜ生徒会に?」「庶民が生徒会に…?」みたいな話が多いらしい。でも俺が学年成績2位だから誰一人直接文句を言うことはできなかった。


 成績は絶対的なものだから。

 特に俺は男に嫌われているようだ。数日前まで陰キャラだった俺は人と話すチャンスが少なかったけど、生徒会に入ってから俺は全然違う人になってしまった。他人とさりげなく話すのも増えて、たまには生徒たちの悩み相談にも乗ってあげる。俺と関わった人たちには優しい副会長ってイメージもあるらしい、これも桐藤さんの命令の一つ「他人と仲良くしなさい」だ。


「これで書類は終わりか…、後は桐藤さんに」


 書類をカバンに入れて席から立ち上がると、廊下から声を上げるひながこっちに向かっていた。なぜか、泣き顔をしているひなが俺の肩を掴む。震えている手で俺と目を合わせるひなが泣き声で話した。


「ねぇぇぇぇぇー、星くん!ちょっと聞いてよ!」

「あっ、うん」

「会長に怒られたよ…」

「そうか…?」


 ひなの一言に教室の空気が変わる。

 俺が男に嫌われているところはここ、学年で一番可愛い人と呼ばれているひながすぐ俺に話をかけるからだ。何回、ひなと生徒会の話をしながら廊下を歩いたことがあったけど、ひなは基本的に知らない人からの話は冷たい声で「ん」と答えていた。


「あれは?B組の花守さんだ!」

「すごい…、超可愛い!花守だ…」

「本物の花守?うわ…、すげぇー」

「なんで、井上と話してるんだ…?花守は」


 周りの男たちが何かを言ってるし…、聞こえないけど悪口だよな。

 つまり、仲良くしたい男が多いのに俺みたいなやつがひなと仲良くしているところが嫌ってこと。感情って面倒臭いものだな…、周りの目線でいじめられてる。


「それで?頭でも殴られた?」

「うん…、隣に置いていた新聞で頭殴られた…」

「痛かったよな…?」


 落ち込んでるひなの頭を撫でてあげると、周りの男たちが嘆く。

 その中にはなぜか裕翔もいた…。


「ありがとう!前のことでまだ怒られてる…、後で星くんが会長に一言言ってくれない?」

「ひな…」


 あ、しまった。名前で呼んちゃった…。

 さらに嘆息をする男たちがこっちを睨んでいる、なんとなくその目線が感じられていた。てか、俺は強いて無視しているけど、ひなは周りの目線など全然気にしていない様子だった。こっちを見て首を傾げるひなに、周りの男だけがソワソワしている。


「うん?」


 普段通り…。


「それさ、俺が一言を言ったら今日が俺とひなの最後かもしれない」

「……なんで?」

「会長にそんなことを言って、俺が生き残れると思った…?」

「確かに…、あ!会計は?どうなったの?」

「確認しておいたけど、やはり俺がやっても時間がけっこうかかりそうだ。」

「でも、私よりは早いから…」

「そういえば、うちの生徒会って会計なかったっけ?」

「いるけど…」


 ひなが話すタイミングで俺のスマホに桐藤さんから電話がかけられた。

 生徒会室の特室で血を吸われたあの日、俺は桐藤さんと連絡先の交換をしたのだ。


「あ、ひな。ごめん…、ちょっと会長からの電話が」

「うん、出てもいいよ!」

「うん」


 それでひなから背いて、静かに桐藤さんと電話をしていた。


「うん、もしもし」

「もしもし、星くん?授業は終わった?」

「うん、終わった。会計の書類も今終わらせたから」

「そう?じゃあ、生徒会室に来て星くんに言っておきたいことがあるから」

「分かった」


 そうやって星が白羽と電話をしている時、周りの男たちは「今度は会長かー」とざわざわしている。その騒がしい雰囲気にイライラしていたひなは星を睨む男たちを逆に睨んでいた。真っ赤な瞳を輝かせて…、あの心臓を握り締めるような真っ赤な瞳に男たちが怯えていた。


「うん…、そうか…?じゃあ、隣に花守もいるから一緒に行く」

「うん」


 電話を切った時、周りの目線が消えてしまったような気がした。

 前に座っているひなが笑みを浮かべて俺に話をかける。


「なになに?会長?」

「うん、会長が呼んでる。まずは生徒会室に行こう」

「オッケー!」


 そう言ってから教室を出る時、教室の中に残っている男たちは何も言えず、じっとするだけだった。

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