第18話 生徒会のメンバー。

 血を吸われた後は特室のベッドでぼーっとしていた。

 頭の中が真っ白になって、何も思い出せない賢者タイムが訪れる。ピリピリする感覚が首筋から広がっていく。彼女は逃げられないように、力ずくで俺の手首を掴んでいた。再び桐藤さんの牙が俺の首筋を噛む時、抗えず彼女に身を任せた。


「どう…?私、怖いでしょう?」

「うん、桐藤さんは怖い。うっ…!痛い」


 体を起こす時、首筋から感じられる痛みにそのまま倒れてしまう。


「ほら……痛いでしょう?言うことを聞かない星くんはお仕置きが必要だからね?」

「うん…」

「私だけを見て、他の女はダメだよ」

「うん。分かった…」

「よしよしー、次は優しくしてあげるね」

「うん…」


 力が抜けたまま、俺の見下す桐藤さんに支配されていた。

 俺の力ではどうにもならないほど、桐藤さんは大きい存在だった。そんな吸血鬼に俺は…、完全に囚われてしまったんだ。体を起こしてくれる彼女の手は暖かくて、その唇が真っ赤になっていた。それでも、俺はそんな彼女がと思ってしまう。


「一人で立てるの?」

「ちょっと震えるけど、多分大丈夫かも」


 扉の取っ手を握ると、そばにいる桐藤さんが俺のあごを持ち上げた。


「その顔、私にだけ見せてよ。分かった?」

「うん…」

「よしよし…」


 それから生徒会室に出る二人。ちょうど入ってくるひなと目を合わせる白羽、そして首を傾げるひなが星の胸元を見つめて白羽に声をかけた。


「あれ?まだ、あげなかった?」

「そうね。その前に星くん、生徒会に入るのは本当だよね?」

「うん。やっぱり俺とは似合わないんだよな?生徒会は…」

「ううん…、そんなことじゃない。待って」


 ソファに座るひなが笑みを浮かべてこっちを見つめている。

 その間に、桐藤さんは自分の席から何かを取り出していた。それは見た目だけで贅沢な感じが溢れる木製ケースだった。俺の前にそれを持ってきた桐藤さんはさりげなくケースの蓋を開ける。そこには銀で作られたようなバッジが一つあって、その真ん中に血蘭の名が刻まれていた。もしかして、これは生徒会の象徴なのか…?


「これをあげる。今日から星くんは生徒会副会長になる」

「えっ?副会長?無理…、俺は普通の生徒会員でいいよ。役に立たないはずだ…俺なんかは…」

「先の話、もう忘れたの?」

「……わ、分かった。やる」

「よしよし…、でも私は銀を触らないからね?私の前でこのバッジを胸につけてみて」

「あ、うん」


 そのバッジを胸につけると、目の前の桐藤さんがスカートのポケットから赤いリボンを取り出していた。血の色のみたいな、真っ赤なリボンを取り出した彼女が自分の長い髪の毛を縛る。すると、赤いリボンでポニーテールをした桐藤さんが俺を見つめていた。


「どう?似合うかな?」

「うん…」

「かっこいい、それは生徒会の象徴だよ。男子は銀のバッジで、女子は赤いリボンが決まりなの」

「え…、でも今まで一度も見たことないけど…?」

「そう、今まで副会長がなかったからね。強いてこれを結ぶ必要がなかっただけだよ」

「……なら」

「今はいるじゃん、副会長」

「……うん」


 今日から俺はここで、みんなと一緒に生徒会の活動をするのか。

 これが血蘭学院で一番怖い場所…、じゃなかった。ただの偏見で俺がその中を見ていなかっただけ、周りの噂を信じてなんとなく怖い場所だと思ってしまったんだ。

 

「羨ましいなー、生徒会副会長ってすごいよ!星くん!」

「そう…?」


 そしてチャイムが鳴いて、俺は先に生徒会室を出た。

 胸につけた副会長のバッジとともに、新しいことが起きそうな予感がする。桐藤さんに噛まれたところがまだピリピリするけど、それも桐藤さんとの思い出として残せることができていいと思っていた。いい友達が増えて、嬉しくなるはずなのに…。


「……」


 噛まれたところを触るたび、俺は自分のこの気持ちをどうすればいいのか分からなかった。この感情に俺はどう答えればいいんだ…?そんなことを考えながら教室に戻ってくると、俺の席で待っていた裕翔が声をかけてくれた。


「よっ!来たか!」

「うん…」

「遅くなったな…、生徒会で何かあった?」

「あ、別に…?副会長になっただけ」

「えぇぇぇぇぇぇぇー!?」

「びっくりした…、何…?急に大声を出して」

「お前!生徒会に入ったのか…?しかも生徒会副会長だと?」

「あ、うん?なんか変?」

「いや…、なんか今俺と星の間に壁ができてしまったような…」

「んなわけあるか?」


 俺の胸につけているバッジを見て、裕翔は驚いた顔をしていた。


「これが…、生徒会のバッジか…。初めて見た」

「俺も初めて」


 二人で話している時、ますます声を上げる裕翔にクラスメイトたちが集まってきた。俺が副会長になったことに驚くみんなが、しつこく俺と桐藤さんの関係について問いかける。やはり新しいことより面倒臭いことが増えてしまったような気がした。


 その時、生徒会室の壁にかけている役員たちの名前を見て、白羽は副会長のところに井上星と書いていた。


 *血蘭学院生徒会*


 生徒会会長:桐藤白羽

 生徒会副会長:井上星

 生徒会書記:花守ひな

 生徒会会計:篠原湊しのはらみなと


 その名前を見て、一人で微笑む白羽。


「ついに完成されたよな?白羽ちゃん!」

「うん…、そうだよね」

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