第17話 血の意味。

 翌日、俺はひなと一緒に生徒会室に向かう。

 なんか緊張してしまうのは気のせいか、こんな俺が生徒会のメンバーになるなんて考えたこともなかった。今日は桐藤さんと話をすることになってるけど、緊張せず普段通りやり遂げよう。ひなも応援してくれたし、桐藤さんに怒られたりしないよな?


「会長ー、連れてきたよー」

「うん。ありがとう、まずは二人で話してみるから席を外してくれない?」

「オッケー!」


 ひなが生徒会室を出た後、席に着いている桐藤さんが声をかけた。


「星くん、私の前に来て」

「あ、うん…」

「昨日、ひなちゃんと何かあった?あったら素直に話しなさい」

「……」


 その前に立つと、こっちを見上げる桐藤さんが胸元に手を当てる。

 それから始まるのか、桐藤さんってやはり怖い…。


「別に、何もなかったから。心配しなくてもいい」

「匂いがする…」

「えっ?」


 ますますこっちに近づく桐藤さんは俺の匂いを嗅いでいた。片手で腕を掴んで、体のあちこちを嗅いでいる彼女に俺は何も言えずじっとするだけだった。ここで動いたら腕が折れるかもしれない…、ひなの力ってすごかったからな。でも、桐藤さんはどうして俺の匂いを嗅いでるんだ…?そんなにいい匂いでもないはずだけど…。


 すると、桐藤さんがムカついた顔で俺に話をかけた。


「他の女、いや。ひなちゃんの匂いがする…」

「……えっ?」


 まじ…?それに気づいた?犬かよ…。


「二人っきりで何をしたの…?首筋と腕からひなちゃんの匂いが残ってるよ?」

「……え、えーっと。それが」


 そして笑みを浮かべる桐藤さんが俺を特室に連れてきた。扉を閉めた後、俺をベッドに倒した桐藤さんはすごくムカついた顔をしていた。こんな顔は初めてで、ちょっとビビってしまう。真っ赤な瞳とその牙が見えてくるのは、俺を罰するためか…。


 薄暗いところで見える桐藤さんの姿は吸血鬼そのものだった。


「なんで、私のものからひなちゃんの匂いがするの…?私は星くんに聞いてるけど…?」

「あの、あの…それが。花守って人間の食べ物が食べられないから…、それで」

「それで自分の血をあげたってこと?」

「あ、うん…。可哀想だから、飢えさせるのもできないし…。だって桐藤さんの友達だろう?そして首筋は噛まれてないから…、花守は腕を噛んだだけ!」

「分かってるのに、いやだ…。こんな気持ちはいやだ…」

「桐藤さん…?」


 なんか、声が落ち込んでるけど…、やっぱり俺が間違ってたのか。

 女子の心はよく分からないから、どう話せば桐藤さんのことを安心させるのか分からない。素直に話した時の桐藤さんはしばらくじっとしていた。何も話せず、ただ黙々と俺を見つめるだけの時間が流れていた。俺はどうしたらいいんだ…?


「……桐藤さん」


 俺たち、まだそんな関係じゃないのに…。なんだ、この桐藤さんを裏切ってしまった気分は…?何、この気持ちは…?俺は桐藤さんのことをどう思っていたんだろう。彼女が俺に見せてくれたその顔は、まるで俺たちが単純な関係じゃないように見えていた。


「それは浮気ってことよ…」

「浮気…?」

「女性の吸血鬼に…、永遠を誓った人が他の吸血鬼に血をあげるのはだよ…」

「えっ…?」


 永遠って、なんだろう…?

 浮気って、なんだろう…?


「あの、桐藤さん…。俺さ、そんなことよく分からないから…。く、詳しく話してくれない?」

「……今、星くんがひなちゃんに血をあげた行為は彼女がいる男が他の女と一晩過ごしたってことだよ。性行為と同じ…こと」

「……」


 だからそんな顔をしてるんだ…。俺は別にひなのことをそこまで考えてないから、それより吸血鬼の間にそんなルールがあったのも今になって分かった。どうしたらいいんだ…?思い返せば、ひなって血を吸う前に心配してたよな。桐藤さんのことを意識していたかもしれない。あの頃の俺は何も知らなかったから仕方がなかった。


「ごめん、知らなかった」

「……星くんは私のものでしょう?」

「……うん」

「今は分かる?自分がやったことがどれくらい私を傷つけたのか…」

「うん…」

「許すのは今回だけだよ…、次にまたそんなことをやったら覚悟しておいてよ」

「うん…、分かった」


 そして話を終えた桐藤さんが俺の首筋を舌で舐めていた。体をくっつけて俺と指を絡ませる彼女が、ひなに触れていたところを自分の温もりで上書きする。彼女の香りと舌に触れている温もりが気持ちよくて変な声を漏らしてしまう。やはり俺は桐藤さんの所有物だったのか、そばにいさせてって言った意味はこんな意味だったんだ…。


「はぁ…」

「……」


 その顔と唇が近い…。桐藤さんの息が感じられる距離で二人がくっついている。

 息を切らしていた俺の体に乗っかる桐藤さんは、男のモノの上に座っていた。この状況がとてもエロくて、人間の俺にはすごい刺激的なことだった。体と体がくっついている薄暗い特室の中で、彼女に触れている俺のモノが勃っていた。本当に何をしてるんだろう…、俺ってやつは…。


「私が前で怒ってるのに、発情するこの変態…」

「ち、違う…。これは不可抗力…!」

「うるさい…!罰で星くんの血を吸うからね…、それと次は絶対そんなことしちゃダメだよ…?」

「うん…、分かった。ごめん」


 と、言った後は桐藤さんに血を吸われていた。

 これから気をつけないと、命の危機になるかもしれないな…。


 ———俺は血蘭学院生徒会長の所有物で、彼女にすごく気遣われていた。

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