魔物との戦い
ゼノは無意識のうちに自身のくちびるをなめていた、緊張した時のくせだ。よく妻のユリアに子供みたいでみっともないからやめなさいと叱られていた。その時はうるさいと思っていた苦言も、今では懐かしく甘い痛みとなって心にチクリと突き刺さる。
まずはザランがどのような魔法を使うのか見極めなければいけない。先ほどノーマのツタを焼き切った所を見ると、どうやら雷の魔法のようだ。ならば植物魔法では分が悪い。
ゼノは若い頃、召喚術で初めてノーマと出会って六十年あまり、精霊ノーマの土魔法が最強だと常々思っていた。盟友の勇者クリフハルトは、あらゆる魔法を使いこなすため、土魔法は地味だとぬかしていた。だがゼノはそうは思わない、土魔法はどんな状況も必ず対応できる万能の魔法だと信じている。ザランがゼノたちめがけて攻撃魔法を放った。予想通り強力な雷魔法がゼノたちを襲う。ゼノがノーマに叫ぶ。
「ノーマ!」
『分かっとるわい!』
ノーマは鉱物防御魔法でゼノたちを守った。すかさずゼノが言う。
「ノーマ!鉄の刃じゃ!」
『よし来た!』
ノーマは土魔法で鉄の刃を作り出しザランの周りをおおうように配置した。すると、ザランが雷魔法を使うと、ゼノたちの所まで雷魔法が届かず、鉄の刃に雷が吸い寄せられてしまうのだ。そして鉄の刃はザランの檻にもなった。
ザランはヒョウッヒョウッと鳴きながら霊獣の名を呼んだ。すると三頭の霊獣が現れた。一頭は犬の霊獣で、額にツノのある美しいボルゾイだった。二頭目はグリーンイグアナの霊獣で、背中にコウモリのような翼が生えていた。三頭目は栗毛の馬で、額にはツノが生えていた。三頭の霊獣たちは契約者であるザランを守るため、ゼノたちへの攻撃を開始した。ゼノは孫娘のエイミーとピピ、テイマーのバートとポーに声をかけた。
「エイミー、ピピ。バート、ポー。霊獣の保護を頼む!わしはザランと戦う!」
テイマーのバートと、召喚士のエイミーはいいコンビなのた。バートが霊獣をテイムして、エイミーがピピの土魔法で霊獣を安全に保護する。霊獣のポーはバートたちのフォローだ。テイマーのバートは前に出て、ボルゾイの霊獣を見すえて止まれ!と言った。するとボルゾイの霊獣は途端に苦しみ出した。バートのいつものテイムが通用しない。バートは焦ってゼノに叫んだ。
「ゼノさん!この霊獣たちは真の名の契約ではないです。別な魔法で操られているようです!」
バートは想定外の事が起きると途端に弱くなる。ボルゾイの霊獣が魔法を繰り出す、風の刃がバートたちを襲う。冷静なオウムの霊獣ポーが風防御魔法でバートたちを守る。
だがボルゾイの霊獣と同じ風魔法なので力が拮抗してしまう。焦ったエイミーがうさぎの霊獣ピピに指示を出す。だがエイミーは完全に冷静さを欠いていて、あいまいな指示にピピが対応できず後ろを向いて心配そうにエイミーを見る。これはまずい、ゼノとノーマは大声でエイミーとピピに助言する。
「しっかりせんか!エイミー!お前とピピはザランよりも強い!お主が弱気になるとピピに伝わってしまうぞ。自信を持つのじゃ!」
『ピピ、エイミーばかり見るな!お主とエイミーは固い絆で結ばれておるのじゃろ?!しっかりと対戦相手を見ろ!エイミーの心を感じるのじゃ!』
エイミーとピピは、自分たちの師匠の言葉にハッとする。そしてエイミーとピピは見つめ合うと同時にうなずいた。
「行くよピピ!」
『うん!エイミー!』
「ピピ、鉱物防御魔法!そして植物攻撃魔法でイグアナと栗毛の馬の魔法確認!」
『わかった!』
エイミーの指示に従い、ピピはボルゾイの風攻撃魔法を鉱物防御魔法で回避した。そしてすかさず植物魔法で鋭いツタを出現させ、イグアナの霊獣と栗毛の馬の霊獣に攻撃した。イグアナの霊獣は、水攻撃魔法でツタを破壊した、どうやら水の魔法を操るようだ。栗毛の馬の霊獣は鉱物防御魔法でツタを防いだ。どうやら土魔法を使うようだ。
それを見ていたテイマーのバートは、自身の契約霊獣オウムのポーに言った。
「どうやら僕のテイムは使えないらしい。ポー、風魔法で助けてくれるかい?」
「勿論よバート。あなたのテイムはこの後きっと役立つわ、それまで私があなたを助けるわ」
「ありがとう、ポー。ボルゾイの霊獣は魔法が拮抗してしまう。イグアナと栗毛の馬に風攻撃魔法をしてくれ」
「了解!」
テイマーのバートもどうやら気持ちを立て直したようだ。イグアナと栗毛の馬にポーが風の弾丸の攻撃魔法を放つ。その光景を、ゼノとノーマは嬉しげに見つめた。ノーマがゼノに言う。
『嬉しいのぉ、ゼノ。若い連中が成長してくれて』
「ああ、エイミーとバートは未来の勇者たちじゃ」
ゼノとノーマが若い者たちを見ていると、栗毛の馬がゼノたちの作った鉄の刃の檻を土魔法で無効化してしまった。自由になったザランは、またもやヒョウッヒョウッと怪しげな鳴き声を発してから、フレイヤと言った。
突然ザランの側に美しい女性が現れた。その女性は全身炎に包まれていた。彼女は炎の精霊なのだ。炎の精霊を見たノーマが叫ぶ。
『フレイヤ!お主が何故ここに?!』
心配したゼノが問う。
「ノーマ、知り合いか?」
『ああ古き友だ。だが何故フレイヤほどの者があのようなザランなどと契約をしたのか』
ゼノは不安げに炎の精霊を見やる。炎の精霊は、古き友のノーマを見ても、一向に変化はなく、ただにごった瞳をさまよわせていた。ザランがフレイヤに命令する。
「フレイヤ、ここにいる人間を焼きつくせ!そして霊獣と精霊を奪うのだ!」
『かしこまりました。ご主人さま』
炎の精霊フレイヤは強力な炎魔法を発動した。
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