　火の精霊フレイヤはものすごい炎魔法を辺り一面に発動させた。とっさにノーマは自身の契約者ゼノを鉱物防御魔法で守った。ゼノはノーマに礼を言った。ゼノが孫娘のエイミーを見ると、彼女も霊獣ピピに鉱物防御魔法で守られていた。テイマーのバートも霊獣ポーの風防御ドームで安全は確保されていた。だがフレイヤの炎魔法は強大で、早く対処しなければいずれ皆焼け死んでしまう。ふとゼノはザランの背後に建っている屋敷の存在に思いいたった。きっと屋敷の中にはザランの使用人が沢山いるのだろう。ゼノはノーマに、屋敷全体をおおう鉱物防御魔法ほどこしてもらった。これでしばらくの間は屋敷の中の人間は安全だろう。

　ゼノはノーマの防御魔法の中から辺りを見回した。フレイヤの炎は近くの木々にも燃えうつってしまっている。このままでは山火事が起きてしまう。ゼノはくちびるをなめてからノーマに言った。

「ノーマ、やむおえん。ルプスたちを呼んでくれ」

　土の精霊ノーマはうなずくと、リンクをしている狼の霊獣ルプスを呼んだ。はたしてルプスとその仲間、クマの霊獣、雄鹿の霊獣、牡牛の霊獣が現れた。狼の霊獣ルプスがゼノたちに叫ぶ。

『ゼノ、ノーマ！これは一体どういう事だ！』

　ゼノはルプスに簡潔に伝える。

「ルプス、そしてその同胞たち！訳は後じゃ。あの炎の精霊の炎魔法から、この森を守ってくれ」

　ゼノの言葉にルプスはガウッと肯定して吠えた。ルプスの仲間たちも協力して、巨大な防御壁を四方に立ててくれた。これで周りの森に炎が類焼する事が防げる。ゼノはルプスたちに礼を言った。

　フレイヤの炎はますます強くなる一方だ。さてどうするかとゼノが悩んでいると、テイマーのバートが叫んだ。

「ゼノさん！さっき僕がボルゾイの霊獣にテイムをしたら、ボルゾイはとても苦しんだんです。まるで何かの魔法に操られていて、僕のテイムが割り込もうとするのを拒絶しているようでした！推測ですが、あの炎の精霊に何かショックを与えれば正気に戻るかもしれません！」

　バートの言葉にゼノはうなずくと、ノーマに言った。

「ノーマ、あの精霊のご婦人を驚かせてくれ」

『フレイヤは気性の激しい女じゃ、後で怒られるのが怖いが仕方あるまい』

　ノーマはそう言うと、火の精霊フレイヤの周りに、巨大なホウセンカの花を咲かせた。そしてホウセンカはみるみる実をつけ黄色くなると、パーンッとタネを飛ばしたのだ。ホウセンカの巨大なタネが、フレイヤの顔に次々に当たった。彼女はキャアッと悲鳴をあげた。すかさずノーマが叫ぶ。

『フレイヤ！わしじゃ、ノーマじゃ！しっかりせんか』

　ノーマの叫びに、フレイヤのにごったうつろな瞳に生気が戻った。

『ノーマ？ノーマなの？！お願い、時間がないわ。私を殺して！私はこのザランという人間に操られているの。このままでは沢山の人や動物や自然の命を奪ってしまう。だからノーマ、お願い私が意識を保っているうちに殺して』

　泣きわめくフレイヤをノーマがさとす。

『落ち着けフレイヤ。わしらが必ずお主たちを助ける、だからそれまで辛抱するのじゃ。やけを起こすでない』

　火の精霊フレイヤは美しい瞳に涙を浮かべながら首を振って言った。

『私を操っている呪いは、私が死ぬまで解けないのよ。私はザランの槍に刺されたわ。その槍が小さくなって私の頭の中に入りこんでしまったの』

　フレイヤはそこまで言うと、途端に苦しみ始めた。ノーマが彼女の名を呼ぶが、もはや彼女は答える事はなかった。フレイヤの攻撃が再開される。ゼノたちはフレイヤの激しい炎魔法をただただ防御しなければいけなかった。

　ゼノはううむとうなった。ゼノの肩に乗ったノーマはうなだれてしまっていた。無理もない、古き友の命を奪わなければならないかもしれないのだ。だがモタモタしていればゼノたちも危ない。ゼノは決断を迫られていた。ゼノは目をつむって思案した。妻のユリアならこの状況をどう動くだろうか。妻が亡くなってから、ゼノはそう考える事が多くなった。何か問題が発生した時、自分ではどうしようもない時、妻のユリアならばどう考えどう行動するだろうか。ユリアは危険におちいっている誰かを助けるためには自分の事など考えずに突っ込んでいってしまう女だった。そしてユリアは、決して諦めない女だった。どんな困難におちいっても、絶対に解決の糸口を見つけ出した。ゼノは勇者クリフと旅をした時に、ユリアにどれほど助けられた事か。ゼノはゆっくりと目を開けて友のノーマを見て言った。

「ノーマよ、フレイヤは死ななければ呪いは解けないと言ったな。一か八かじゃが一時的に死んでもらうのはどうかの？」

　うなだれていたノーマがゼノを見ながら答える。

『そうか仮死状態か！それならわしの植物魔法で作れる』

「よしそうと決まればザランを倒してフレイヤと霊獣の保護じゃ！」