見習い動物看護師最強のビーストテイマーになる

メリッサの危機

　あかりはアスランの作った風魔法の防御ドームの中にいて、事のなり行きを見守っていた。アスランが剣を構えている先には、六人の男たちが同じく剣を構えてアスランたちをいかくしていた。どうやらあの六人がポンパの町の人が言っていた、東の森の盗賊なのだろう。

　あかりはいても立っていられない気持ちになったが、あかり自身は無力な村娘でしかない。あかりがこの戦闘にしゃしゃり出ても足手まとい以外の何ものでもないのだ。あかりはどうか皆がケガをしないようにと祈る事しかできなかった。

　あかりからは遠くてよく見えないが、盗賊の一人が前に出ると、何と盗賊の腕が増えて、タコの足のようにうねうねと動き出し、アスランたちを攻撃しだしたのだ。うねうねしたタコの足は、アスランたちが攻撃してもすぐに生えてきてしまう。グリフはあかりが入っている防御ドーム前であかりを守ってくれているようだ。

　あかりが申し訳なく思っていると、後ろの方でゴソゴソと何やら音がした。何気なく後ろを振り向くと、地面からあのタコの足が出てきたのだ。どうやらタコの足は土の中を通って、あかりのいる防御ドームの中に入ってきたようだ。

　あかりはキャアアッとかなぎり声をあげた。タコの足はあかりの身体に巻きつき締め上げ始めた。あかりの脳裏にセレーナが浮かぶ。早くセレーナを呼ばなければ、だがセレーナの得意な水魔法は、魔法によって壊れてしまったものを元に戻す事だ。はたしてセレーナをこの場に呼んで、彼女がケガをしてしまわないか心配になった。

　では呼ぶのはルプスかレオがいいのか。だがあかりは彼らがどのような魔法を使うのか詳しく知らない。あかりは自分が情けなくなった。どんな強大な霊獣と契約しても、どのタイミングで呼べばいいのかちっともわからないのだ。

　前を向いていたグリフがあかりの悲鳴に気づいて、あかりを見た。グリフがアスランを呼んでいる。あかりを取り巻いていた防御ドームが消えた。タコの足はあかりを空中に持ち上げ出したをタコの足はあかりの首に巻きつき締めつけたのだ。あかりは苦しさのあまり手でタコの足を手でほどこうとするがビクともしない。あかりの意識は次第に薄れていった。

　あかりは急に呼吸ができるようになり、激しく咳き込んだ。目を開けると目の前にグリフがいた。どうやらグリフがあかりを助けてくれたようだ。グリフはホッとしたような、泣きそうな笑顔であかりを見ていた。

　あかりはその瞬間、前世でのある記憶を思い出した。あかりが小さい頃、姉と一緒に公園に遊びに行った。あかりは姉にいい所を見せようとして、高い木に登った。だがあかりは、のぼったはいいが降りられなくなってしまったのだ。あかりは怖くなって泣き出した。姉は急いで誰かを呼びに行ってしまった。あかりは姉を待っている間怖くて怖くて仕方なかった。どれくらい経っただろうか、あかりには大分長い時間に思えた。あかり、と自分を呼ぶ声がした。あかりが泣き腫らした目を開けると、そこには父の顔があった。父はホッとしたような笑顔をしていた。父がハシゴを持ってあかりを助けに来てくれたのだ。あかりは安心して泣きながら父の首にしがみついた。その父の顔が、目の前のグリフと重なった。グリフは本当にあかりを心配してくれているのだ。あかりはグリフへの感謝で胸が熱くなった。

　あかりはグリフに助けられてホッとしたのもつかの間、アスランの叫び声が聞こえた。あかりが声のした方を見るとタコ足男が、口から魔法を吐き出している所だった。グリフはあかりを抱いたまま背を向けた。グリフはあかりをかばってタコ足男の魔法を受けるつもりなのだ。

　このままではグリフが死んでしまうかもしれない。あかりは暴れてグリフの腕から降りようとしたが、グリフはギュッとあかりを抱きしめて離さなかった。あかりは攻撃魔法の衝撃に備えて目をつむった。だが予想された衝撃はこなかった。あかりがおそるおそる目を開けると、グリフとあかりの前に大きな狼がいた。ただの狼ではない、背中には翼が生えていた。狼の霊獣だ。どうやらこの狼があかりたちに当たるはずだった攻撃魔法を防いでくれたようだ。狼の霊獣が怒ったように言った。

『グリフ！危ない事に巻き込まれたらすぐに俺を呼べと言っただろう。まったく物覚えの悪いペットだなお前は』

　どうやらこの狼の霊獣はグリフの契約霊獣のようだ。だがグリフがペットとはどういう事だろうか。グリフはあかりを優しく地面に下ろしながら狼の霊獣に言った。

「ごめぇん、ご主人さま。助けてくれてありがと！」

　あかりは驚いた。理解しがたい事だが、どうやらグリフはこの霊獣のペットだというのだ。あかりがグリフの顔を不思議そうに見ると、グリフがウィンクして言った。

「大丈夫だよメリッサ。ノックスは強いんだ」

　狼の霊獣ノックスは、魔法で黒い穴のようなものを沢山出現させた。あかりたちに襲いかかるタコの足が、その黒い穴に触れた途端タコの足が黒い穴に吸い込まれて消えてしまった。あかりがぼう然とノックスの魔法を見ていると、グリフが再び口を開く。

「ノックスの闇魔法は空間を操るんだ。あの気味の悪いウネウネは異空間に飛ばされてしまったのさ」

　あかりは小さく息をはいた。ノックスの登場で、この場の危機的状況を脱出できるかもしれないと思った。