領主の館に潜入

 グリフは食堂から出たあかりたちを大通りから外れた小道に連れて来た。あかりはグリフに聞いた。


「これからどうするの?私が館に行くなんて無理だよ?」


 グリフは深くうなずいて言った。


「当たり前だ、可愛いメリッサを危険な目に合わせるわけにはいかねぇ。俺が絶世の美女になって領主の館に潜入する!」


 グリフの言葉にアスランが鼻で笑いながら言う。


「おじさんの君が女装するとでもいうのかい?正気の沙汰じゃないね」


 アスランはグリフにやり込められた事を根に持っているのか辛らつだ。グリフがアスランをにらんで言う。


「俺がそのまま女装したらバケモノになっちまうだろう。頭使えぼんくら」


 アスランがグリフにつかみかかろうとするのをあかりが間に入って止めながら聞く。


「グリフどうするの?」

「メリッサ。それはねぇ、俺は天才魔法使いだから魔法薬が作れるんだ。性転換のね」


 グリフはあかりには笑顔で答えた。あかりが首をかしげていると、グリフは自身の腰に下げていた袋から、色々なものを取り出した。小さな鍋に、アルコールランプ、沢山の薬草。どうやらグリフの袋にも魔法がかけられていて、色々な物が入っているようだった。グリフは水魔法で鍋に水を入れ、アルコールランプで沸騰させてから、薬草を入れていく。これから約三時間煮込むのだそうだ。あかりは手持ちぶさたにアスランに質問した。アスランも魔法薬を作るのかと。アスランは答えた。


「僕は魔法薬は研究しなかったなぁ。なんたって臭いが」


 アスランが言った途端、独特の臭いが辺りに漂った。鼻のいいアポロンとティグリスとグラキエースはこの臭いを嫌がってどこかに行ってしまった。あかりは鼻をつまみながら耐えた。


 三時間後、恐ろしい色でものすごい臭いの薬が完成した。グリフがその薬を一口飲む。そしてオェーッと言った途端、長身のグリフの身体がグングン縮み出し、短かった髪も伸び出した。あかりは思わずため息をついた。


「グリフ、とっても綺麗」


 ハンサムだった長身のグリフは、エキゾチックな美女になっていた。グリフが言う。


「どうだ、この絶世の美女の俺が館に潜入して、捕らわれた娘たちを助けだすぜ」


 グリフを見たアスランがあざけるように言った。


「おじさんがおばさんになっただけじゃないか。その薬を貸せ、僕がやる」


 そういうとアスランはグリフの持っていた薬を一口飲んだ。オェーッとした後、たくましいアスランの身体が縮み、アスランの長めの髪がさらに伸びた。アスランがあかりに向き直ると、あかりは声をあげた。


「きゃぁ、アスラン可愛い」


 アスランは美しい女性に変わっていた。アスランはフフンとグリフをあざ笑う。グリフが憎らしそうにアスランをにらんで言う。


「ふん、俺の方がボインだぞ!このペチャパイ!」

「それがボインだって?垂れているの間違いじゃないかい?」


 グリフのイヤミにアスランもイヤミで返す。二人は憎々しげににらみ合い、取っ組み合いのケンカが始まりそうだ。道行く人々も、小道で美女二人が険悪なのを好奇の目で見ていた。あかりはこれはまずいと思い、大声で言った。


「アスラン!グリフ!ケンカしたら嫌いになるからね?!」

「そんなぁメリッサァ」

「メリッサ、ケンカなんかしてないぜ。なぁ」


 あかりの言葉にアスランとグリフがお互い引きつった笑顔で顔を見合わせる。あかりは不審げな目で二人を見たが、ため息一つで不問にした。ふとあかりは二人が飲んだ魔法薬に興味が湧いて、自分も一口飲んでみた。口の中に何ともいえない変な味がした。オェーッと言ってから立ち上がる。あかりはカバンから鏡を出して見た。だがいつものあかりとあまり変わりがなかった。少し髪が短くなったくらいだろうか。あかりが不満げでいると、グリフとアスランが口々に言った。


「メリッサ可愛い!男の子になっても可愛い!」

「やぁ本当だ、メリッサ可愛い」


 あかりはふと思って下着の中を見た。


「あっホントだ。ついてる!弟とトランよりかおっきい」


 あかりの行動にアスランとグリフが怒る。


「メリッサ!女の子がはしたない事しちゃだめ!」

「女の子がそんな所ガン見するんじゃありません!」


 口うるさいアスランとグリフに、あかりはほほをふくらました。



 ポンパの領主に雇われたゴロツキたちは、町の中をうろついていた。領主の命令で、若く美しい娘を連れていかなければいけないからだ。だが何度も娘をさらっているため、町の人々は警戒をして娘を外に出さないのだ。そのためちっとも娘をさらえないでいる。


 もう日が落ちかけている。ゴロツキの一人が諦めかけて仲間にもう引きあげようと声をかけようとしたその時、フードを被った人間がゴロツキの前を横切った。そのシルエットから女だという事がうかがえた。ゴロツキはいやらしい笑みを浮かべて、フードの人物を追いかけた。


 フードの人物は、ゴロツキが追いかけて来た事に気づき足を早めたが、所詮は女の足だ。すぐに追いつかれてしまった。ゴロツキはフードの人物を羽交い締めにしてフードをむしり取った。そこには息を飲むような美しい女がいた。ブロンドの髪、サファイアの瞳、雪のように白い肌。ゴロツキは思わず女の肌に触れようとした。だがその手は仲間のゴロツキによって制された。ゴロツキは舌打ちをしてから女を担ぎ上げ、領主の館に足を向けた。


 

 ポンパの領主の館には娼館の女主人がいた。娼館の女主人の雇い主、現領主は女狂いだった。前の領主がいた頃は自由に女遊びができなかったので、娼館の女主人が自身の娼館の娼婦たちを都合をつけて差し入れていた。


 だが前の領主が死ぬと、現領主は途端に暴君になった。娼館の娼婦では飽き足らず、町の娘たちをかどわかすようになったのだ。だがただの町娘では領主の前には出せない。娼館の女主人が町娘に化粧をほどこし、立ち居振る舞いを指南して領主に差し出すのだ。その働きにより娼館の女主人には莫大な金が入ってくるのだ。


 だが最近は町の人々が警戒して、娘を外に出さないので、娼館の女主人の商売はあがったりだ。娼館の女主人がぼやいていると、久しぶりにゴロツキがやって来た。得意そうに肩に担いだ荷物を降ろす、中身は勿論若い娘だ。娼館の女主人は毛布にくるまれた娘を見て驚いた。とても美しい娘だったのだ。その娘は容姿もさる事ながら、町娘にはない凛としたたたずまいをしていた。女主人は確信した、最高の美女を作り上げる事ができると。

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