ポンパの現状

 あかりたちは王都から東に向かって最初の町ポンパに到着した。ポンパは城下町ほどではないが、賑やかだった。ここでのあかりたちの任務は、町の現状を確認する事だ。とは言っても、一体何を確認すればいいのだろうか?あかりがアスランを見ると、アスランもピンとこないのか首をかしげている。


 そんな時、あかりたちの目の前で事件が起こった。どろぼう!という大きな声と共に、裕福そうな男性の荷物を、男が奪って走っていったのだ。あかりはアスランに向き直る。アスランは厳しい顔になり、あかりたちにこの場にいるように言い聞かせた。そしてアスランは自身の足に風魔法をかけて、空高く跳躍した。あかりはアスランをぼう然と見上げていた。アスランは空を飛んでいるのだ。アスランは数歩の跳躍で、どろぼう男の目の前に着地すると、男を手刀で昏倒させた。どろぼう男はどさりとその場に倒れた。駆けつけた裕福な男はアスランの手を取っておおいに感謝をした。


 裕福な男はアスランたちにどうしても礼がしたいと言った。アスランは辞退したが、裕福な男が相談に乗ってほしい事があるというので、アスランとあかりたちは裕福な男にうながされるまま、一軒の食堂に入った。裕福な男は開口一番に言った。


「このポンパという町は、とても賑やかでいい町でした。ですが、今は治安があまり良くないのです」


 どのような現状なのかアスランがたずねると、裕福な男は顔を下に向け、言いにくそうに言った。


「実は、この町はある盗賊団におびやかされているのです。店の者たちは金品を巻き上げられたり、若い娘がかどわかされたりと、やりたい放題なのです。そこであなた方お強い冒険者さまたちにお力を借りたいのです」


 それを聞いたアスランはあかりを振り向いた。あかりはアスランの気持ちがわかったので自分もうなずく。アスランは微笑んでから裕福な男に言った。


「僕たちでよければお手伝いさせてください」


 裕福な男はたいそう喜んで、自分の荷物から一枚の書類を取り出した。聞けばこのポンパでは冒険者が行動するには、ポンパの町の冒険者協会に書類の提出が必要だというのだ。そんな話聞いた事ないと、アスランが疑問を口にするが、裕福な男はこのポンパではそうなのだと言ってゆずらない。あかりも書類を見てみるが、このポンパでの冒険者の行動を許可するものらしく特におかしな文面ではなかった。仕方なくアスランが署名しようとした途端、突然黒髪の男が現れ、アスランの手にしていた書類を奪い取って言った。


「あれぇ?おかしいなぁ、この書類二枚つづりだ。おや、二枚目にはすごい事書いてあるぜ。むこう十年間タダ働きだってよ。違反した場合は金貨百枚の罰金だと?これって詐欺だよなぁ、オッさん」


 黒髪の男はギロリと裕福な男をにらんだ。裕福な男はヒイッと声をあげ、逃げ出した。あかりはポカンと口を開けて事のなり行きを見ていた。どうやらあかりたちは詐欺にあいそうになって、この黒髪の男に助けられたようだ。あかりが早く礼を言わなければと思うと、アスランが先に男に礼を言った。


「危ない所を助けていただきありがとうございました」


 男はアスランに向き直ると、キッと目を向いて怒鳴った。


「おい!何簡単な詐欺にひっかかってんだよ?!お前が十年タダ働きさせられようとどうでもいいが、お前がしくじれば

、このお嬢ちゃんまで巻き添えくらうんだぞ!ぼんくらもたいがいにしやがれ!」


 アスランは下唇を噛んでうつむいた。あかりは慌てて黒髪の男に言った。


「お兄さん、助けてくれてありがとう!私はメリッサ、お兄さんは?」


 アスランに対して厳しい顔をしていた黒髪の男は、あかりに向き直ると、優しい笑顔で言った。


「メリッサちゃんっていうのかぁ、おじさんはグリフっていうんだ。よろしくな」


 あかりは、自分とアスランへの態度があまりにも違うので面食らってしまった。あかりは言葉を続ける。


「さっきの書類は私も一緒に読んだわ。詐欺だと気づかなかったのは私も一緒だわ。だから悪いのはアスランだけじゃないの」

「メリッサちゃんは優しいねぇ。だがなアスラン、お前はメリッサを危険な目に合わせようとしたんだよ。お前は保護者失格なんじゃねぇのか?!」


 グリフはなおもアスランを攻撃する。あかりはたまらずグリフに言った。


「待ってグリフ!アスランはいつもぼんやりしているの、だからアスランの保護者は私の方なの!」

「メリッサァ。ありがとう」


 アスランはあかりに涙目で礼を言う。グリフはアスランに呆れたように言った。


「子供にかばわれて情けなくねぇのかよ?」


 その言葉にあかりはカチンとしてグリフに言った。


「ちょっとグリフ!私子供じゃないわ!」

「っ、そうだね!メリッサちゃん大人っぽいもんね?歳は十三歳くらいかな?」

「失礼ね、もう十六よ!立派なレディだわ!」

「・・・、そうだね、十六歳。わかってたよ!俺は女性の年齢を見た目より三歳若く言う癖があるんだ。だから十六歳、俺の見立て通りだよ」


 あかりは疑いの目でグリフを見る、グリフはサッとあかりと視線を外した。あかりはため息をついた。この世界では、あかりのような東洋系の人種はかなり若く見られる。だがそれはグリフも同じなのではないか、あかりはグリフをお兄さんと呼んだが、グリフは自分の事をおじさんと言った。あかりから見てグリフは二十代後半くらいにしか見えないが、本当はもっと歳上なのかもしれない。わぁわぁ騒いでいるあかりたちに、この食堂の店主と思われる男が声をかけてきた。


「あのぉ、冒険者さまとおみうけします。どうか我々を助けてくれないでしょうか?」


 あかりはアスランとグリフの顔を見た。声をかけてきた男性は、やはりこの食堂の店主だった。店主は話し出す。


「先ほどの男の言っていた事は本当です。ですが、あの男がポンパをおびやかしている張本人の一人なのです」


 あかりは話が飲み込めず首をひねった。店主は最初から説明を始めた。このポンパの町は、王都にも近く、物流も盛んな活気ある町だった。だが今までこの町を治めていた領主が亡くなり、その息子が領主になってからは町の様子は一変した。新領主は、自らの欲望のままにその権力を行使したのだ。領民からは重い税を取り立て、先ほどの詐欺師のようないやらしい人間を沢山雇い、若く美しい娘をかどわかしては、領主の館にはべらせているのだそうだ。そこであかりははたと思い出した。この町には若い娘が一人も歩いていなかったのだ。すると突然アスランが叫んだ。


「若く美しい娘をさらうだって?!大変だうちのメリッサがさらわれてしまう!」


 あかりはがっくりした。アスランはどうやらあかりに対しておかしなフィルターがかかっているらしく、あかりの事を美少女と認識しているようだ。だがあかりは自分の容姿を客観的に見る事ができる。あかりはもっさりした村娘にすぎない。するともう一人のおかしな男、グリフが叫んだ。


「そうだ、メリッサは美少女だから狙われる。店主、この依頼受けるぜ!」


 店主は喜んであかりたちに頭を下げた。あかりは自身のほほが引きつるのを感じた。


 


 


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