第2話 悪人正機
「大雨の増水で危険だぁね」
上流の大雨のせいか、川の流れも速く流木もある。
坊さんは、船頭からそんな注意を受けた。
急ぐ旅でもないが、あまり遅くなると宿がとれない
川を渡る事にした。
「おおい、まってくれ」
土手から人が降りてくる
一人は、商人風で手首に数珠をつけている
もう一人は、悪人面でカタギには見えない
客を三名乗せて、対岸へ向かう。
商人風の男は、坊さんに声をかける
「お坊様、なにかありがたいお話を聞かせてください」
坊さんは、功徳のありそうな話を聞かせる。
それを聞いている悪人面の客は、
「おい坊主の説教なぞ聞いて面白いのか」
と悪態をついた。
「あなたには信心は無いのですか」
とぷりぷり怒る商人。
にやにやしながら悪人顔の男は
「死んだら終わりだろ、あの世もないし、
仏が居るなら見せてみろ」
と挑発した。
坊さんは
「仏様を見えるから信じるのですか」
「雲に隠れたお日様も直接は見えなくてもあります」
「見たことがないから信じないならば、目の見えない
人は何も信じられなくなります」
悪人顔の男は
「屁理屈だけは上手だな」
と負け惜しみを言うが、納得していない。
商人も、ここぞとばかりに信仰の大切さを
まくしたてはじめる。
船頭が「おおぃ危ないぞ、しっかりつかまれ」
と声をかけた
二人は興奮して、聞こえてない
坊さんは、川舟から落とされないようにつかまった時に
ごんっ、と鈍い音がした。
流木がぶつかり大きく揺れた川船から、
商人と悪人顔の男は
川に落ちた。
「たすけてくれ」
とても同時に助けらない。
坊さんは錫杖をさしのべて、
一人だけ助ける。
助けられた悪人顔の男は不思議そうに
「なんで俺を助けた、信者を助けないのか」
坊さんは
「彼ならその信心で極楽にいけるでしょう
あなたを見殺しにしたら、地獄にいきますからね」
とつるっと顔をなでた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます