古い民謡風の物語

WsdHarumaki

第1話 口伝のお経

「かんざびていまくらしゃまやしゃびてい」

私は真言を唱える

この宗派では、経文は口伝としている

そのために内容を覚えるのが必須になる


貧乏な農家で生まれた私は、力は無いが物覚えは良いと褒められた。

飢饉になれば子供を、何人か売ってしのいだ。

人買いに連れられて行く、女児をよく目にした。


男児の場合も頑健ならば、力仕事のために買われる

この年は長男を残してすべての子供を売らないと、生活できないほど酷い状態だった。

父親が「すまんな、寺で修行をしてくれ」

私は寺に売られた。何日分にもならない銭だが、食いぶちは減る

恨みも何もない、そうしなければ家族が死んでしまう。


厳しい修業が始まる、口伝の文言をひたすら覚えた。

少ないが質素な食事は与えられる。

常に腹は空いていた。

生活は安定し、幸福を感じる。


ある日、完璧に覚えた経文を、和尚の前で披露すると

「お前に決めよう」

と告げられる。


経文の中には、口外ができない秘密のものある。

門外不出で、普通の修行では利用できない。

それを覚える事になる


まず苛烈な修行が始まる、不眠で経文を唱える、体力が削がれる。

食事も減らしていく、最初はカユを食べ

徐々に水を足す、重湯になり最終的には白湯となる

唇から血が滲み、それをなめながら経を唱える。


飢餓の状態で、ぎりぎりまで自分を追い詰める事で

覚醒が始まる、澄み切った頭で口伝を伝授された。


口伝は予想した経文ではなかった、いかに生き延びるかを

その方法が伝授されている。

宗派が存続するためには、口伝が必要だ。

口伝のためには、人が生き延びることが大事になる

理解をして、驚きはしたが合理的と感じた。


「和尚様おたすけください」

私は住職になり、この寺を継ぐことになる。

この村は、今でも飢餓で苦しんでいた。

私は修行のせいか、飢えに対して耐性ができた。

今こそ、寺に伝わる方法を実践するべきであろう

それが仏への道だ。


「子供たちを集めなさい」

村人は喜んで子供たちを提供をした、自分と同じ境遇の子供たちを集める

そして何人か、煮た。

売れば二束三文の子供たちが、きちんと調理をすれば

何十日も利用できる。

村人にふるまうことで、命を救う。


村人は修行で死んでしまうと考えているようだ

薄々は知っているのかもしれない

そういえば、私と同じ時期に居た子供たちは

いつのまにか、見なくなった。


「口伝にすることで秘密は守られる」

私はつぶやきながら、今でも村人を救っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る