第46話 夢の夜明けへ

 快晴の夜は星々を輝かせ、静かな空気は風を知らせる。優しい風は私たちの体を撫でて世界を巡る。私と尋は、いつもの借り部屋に戻り、そこの屋根に腰掛けて空を眺めていた。尋はとてもすっきりした表情で夜を眺める。


「本当に、良かったよ。あのままあいつの元にいたらどうなっていたことやら」

「本当に、僕もかなり無鉄砲なことをしていたなって思ってます。すみませんでした……そして、ありがとうございます」

「どういたしまして。それで、今の心境はどう? 少しは私は役に立てたかな」

「もちろんです。アルマリアさんからは、依頼とかも通して短期間でとてもたくさんのことを見させてもらい、学びました。まずは家族から相談相手というか、そういうことも話せるように頑張るつもりです。それに、多分、学校のクラスメイトの中でも、頼れる人はいるかもしれないんです。だから、もう一人でもやもやと悩むことはしないようにします」


 彼の声はもはや会った時とは比較にならないくらいにしっかりとしていた。彼がこの世界に来た理由も今になってなんとなく気が付き、そしてそれに一区切りが着いたのだと直感で感じた。それを最後まで導くのが、多分今は私の役目なのかもしれない。


「そろそろ夢も覚めるんじゃない? もしかしたらこの夜が明けたら夢から覚めてるかも」

「はい、多分そうかもしれないです。今の心に感じてるものが、なんとなくそれを告げてるような気がするんです。もう夢から覚める時だって、そしてそれはもうすぐにでも覚めそうだって、

そう告げてるんだと思います」

「それじゃあ、少ししたら私と尋が初めて会った場所に行こう。この世界で目が覚めた場所で、今度は現実の世界に向けて目を閉じるんだよ。多分、その方が綺麗だと思う」

「そうですね。分かりました。――あの、アルマリアさん」

「――うん」

「本当に、色々とありがとうございました。夢の世界と言えど、多分僕一人だったら心細くて何も出来なかったと思います。アルマリアさんからもらったもの、起きたら覚えてるかは自信ないですけど、でも、絶対に活かしていきます。夢で人生を学ぶって、なんか不思議ですけど、でも、そんなきっかけからでも、学べれば別に良いですよね。すぐにはやれるかは分からないですけど、出来ることから少しずつ始めてみます」

「うん、尋なら絶対にやっていけると信じてる。少なくとも、私の目にはそういう人だって見えていたからさ。自信もって、もしくじけそうになったらまた夢の世界で会えるかもだし、私は君がこの先長い道うまくいくことを祈ってるから」


 尋の目は強い意志を持ち、星となって輝きを放つ。今の彼なら、どんな困難も、どうにかして乗り越えていける。そう信じられる力があった。

 夜も徐々に深まり、都街も眠りにつく。私は深呼吸をして、そして最後の導きを彼に与える。


「それじゃあ、行こう。始まりの場所に」

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異世界転移者の帰り道 後藤 悠慈 @yuji4633

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