第44話 前を向く者への手向け
世界へ飛び出した尋の手を握り、すぐに彼に風属性を付与する。こうすれば空中でも姿勢が安定させやすい。
「中からあの人の話していることは聞いていました。あの街を破壊するって。だから、あの兵器を何とかしたいです。僕に出来ることはないと思いますけど、でも、アルマリアさん、お願いします!」
「分かってるよ。このまま攻撃するから……」
言葉の途中で、私は攻撃を察知し、咄嗟に防御魔法を展開した。しかし、強度は間に合わず、防御魔法と共に衝撃波で弾かれる。尋と一瞬離れたが、すぐに助けに行く。見ると、もはや闇のオーラが濃すぎて、闇の化身と呼ぶにふさわしい存在がこちらを睨んでいた。しかも、その顔は数秒ごとに色々な人の顔に変化している。
「あれは、多分僕の心の闇を反映させてるんです。あの色んな顔も、見たことがある。どの人も僕に嫌なことを押し付けてきた人たちの顔。心の闇に影響してきた人たちの顔……」
「辛かったら見なくていいよ。まさにあれは、君の心の闇の化身ってことか」
「はい、でも、今は顔をそむけたくないです。ちゃんと、その人たちの顔を見ます」
今も闇の化身は絶えず色んな人間の顔に変化し、尋に訴えかける。しかし、微かに胸の辺りに光が宿っていたことに気づく。よく見ると、その光の中に、女性が見える。彼女は手招きし、自分自身を指さしていた。
「副委員長……」
「彼女は君にとっての光なんだね。多分、彼女が示している胸の部分が弱点なんだと思う。迷ってる時間はないし、やろう!」
「はい!」
私は尋を後ろに乗せ、攻撃の射程圏内を目掛けて接近する。闇の化身の激しい抵抗は防御魔法を貫通し、私の体を掠めるまで強力なものに変わり、少しずつ体力が削られ、頬にかすり傷が出来て出血する。
「アルマリアさん!」
尋の声と共に、彼の腕から何かしらのエネルギーの動きを感じた。私は瞬時にそのエネルギーを自分の魔力と混ぜ合わせ、防御魔法を展開した。その防御魔法はとてつもない強度を誇り、闇の化身からの攻撃を無効化していく。
「これが、君の中に眠る潜在的能力のエネルギー……。尋、君の力と一緒に、あの闇の化身を兵器を破壊しよう。2人で力を合わせればやれると思う」
「はい、やりましょう! あの街を壊させないために!」
スピードを上げ、確実に当てられる距離まで接近した。尋は腕に力を込め、私は彼から流れるエネルギーの動きに集中して再び自身の魔力と混ぜ、光属性魔法で攻撃する。闇の化身の攻撃をかき消し、すべての攻撃が命中する。
「くっ! どうしてそうやって抗うんだ。現実に戻って苦しい想いをするだけなのに。尋、お前の心はすでに闇に染まってきているというのに。それ以上現実に戻って人の悪意に晒されたら、いずれはお前も人知れず人を傷つけるくだらない大人になるだけだ。それが分かり切っているのに、なんでそうやって前に進もうとするんだ」
「確かに、現実に戻っても辛い状況はあるかもしれない。でも、僕は諦めたくない。だって、これが僕の今の生き方だって、心から思えるから。人の悪意で責任を押し付けられるとしても、それを包み込めるような人に、なりたいんだ。だから、前に進むことを、僕は諦めたくない!」
「残念だってね闇の化身。もう心の闇と自称する偽物の言葉に揺らぐ彼じゃないよ。だから、大人しく消滅してよね。彼の進む道の邪魔になるから!」
「それなら、そんなことを言えないように、また闇の淵に沈めてやるまで。無限なる暗闇のカーテン、すべてを覆いつくし寒き安寧の黒海へと誘え。『イビルハーツ・プルエレボス』」
闇の化身は闇属性の大魔法を放って勝負を決めに来る。おぞましい漆黒の闇が一直線に飛来する。それは尋を再び闇に引き込む手を意味していた。
私は大魔法を構える。彼のエネルギーと共に、彼が歩もうとする希望の道を光で示すために。
「果てなき七色の天橋、光を突き進む者に祝福を示せ。『オネストハーツ・ビフレストアーク!』」
七色の希望の光はすべてを照らしながら闇の化身へと放たれる。その七色の光に陣との思い出が込められているような、そんな錯覚を覚えるほどに心地よい光は普段よりもより激しく輝き、闇の化身の大魔法と衝突した。かき消されないように踏ん張る私の背中を尋が支えてくれる。私は全力で力を込め、そしてその光は、闇の大魔法を打ち負かし、かき消した。その勢いのまま闇の化身と魔導兵器へと飛び、微かな光が指し示す場所を中心に光で覆う。そのまま魔導兵器をも貫き、七色の光と共に爆散したのだった。
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