第43話 蒼穹の世界にまた手を伸ばして


「尋がこの世界にきて少しの時間がたったよね。最初あった時と今の君は大きく変わったって、私は思ってる。びくびくしていた君はもういなかった。積極的にクエストに進んでいく姿はかっこよかったよ」


 私の問いかけに、すぐの反応はなかったが、少しして彼の声が聞こえた。


「確かに、少し慣れてきて頑張れるようになった。でも、結局それで自分が強くなったわけじゃない。同じような行動を、出来る自信もない。取り繕って、その場の勢いで勝手に動いて、気付いたら結果的に良い結果で終わってただけなんだ。大元の心が変わってないんじゃ、この先も結局弱い自分を繰り返していくだけなんだ。それに気づいて、絶望しないわけないよ……」


 今にも崩れ落ちそうな声が私の耳に明確に入る。


「この根本的な問題に影の彼が気付かせてくれた。それを聞いた僕は、もう何もかもが嫌になって、その時にあの人が言ってくれたんだ。この中に入れば、この辛い心の気持ちも魔法で綺麗に吸い取ってくれるって。実際、少し良くなってる気がするんだ。その分、頭がぼうっとして眠気がすごいんだけどね。何も考えずに寝られるのがこんなにも穏やかな気持ちにさせるなんて、気付かなかったな……」

「それは……君の潜在能力のエネルギーを吸い取って、疲労状態が続いてるってことだよ。この世界で言う摩耗症状に近い。この状態が続くともっと体の状態が悪くなって、いずれ死んじゃうよ」

「ううん、もう、生きる希望もないんだ。それに、どうせここは夢の世界だし、死んで暗闇の中で目を覚ますよ」


 尋の声は地の底に落ちている。抱えている絶望は深く、希望の光はない。暗闇の中、目を開けても閉じても変わらない状況に、彼は諦めを選択していた。


「確かに、人って誰でもすぐに変わることって出来ない。結局、経験したことは少し時間を置いてから学び始めるものなんだよね。でも、それでも良いと私は思ってる。変わりたいと願って、少しでも行動に移したなら、今はそれだけでもすごいことだし、それだけでももう変わり始めてるんだよ。私たちが一緒にクエストをこなしたのは、いつか尋が変わるきっかけの経験にしてほしかったんだ。一人で抱えずに人に頼って、一緒に解決する。多分、尋が苦しまない、現状で唯一の方法だと、私は思うよ」


 私は優しく、想いの丈を伝えた。少しの沈黙の後、彼は話し始める。


「僕は、苦しかったんです。どうせこんなことしても変わらないって思う自分がいたから。でも、アルマリアさんは真っすぐでいた。僕はアルマリアさんのような人が理想にあったけど、でもそれは不可能だって分かってて、ないものねだりの気持ちで心が潰されそうなんです」

「私を目指してくれるのは嬉しいよ。でも、完全な私は目指せない。結局そこには、尋の良さも混ざったものになる。それで良いと思うんだ。他人の良い所を取り入れて、自分自身が思う理想の自分像を作っていくんだよ。正直、私はそういう青春は過ごしてなかったけど、周りの友達とかはまさにそういう流れを汲んで、時間をかけて自分の想う自分自身を作っていったよ」

「……いろんな人から無責任に頼み事や責任を押し付けられる。そんな自分でも、変われますか」

「変われる。少なくともこの世界での君は、頼もしかったよ。あとは、解決するために一人で悩まないで、誰かに相談とか、雑談でも良いからそのことを話せる人を見つけられるかどうかだよ。コミュニケーション自体は、多分もう大丈夫だから、どんな環境だったとしても、実力を発揮すれば大丈夫だって、私は信じてる」


 私の言葉はすべて本心で、それを私なりに全力で彼に伝える。彼は静かでいる。少しして、彼は弱弱しい声で、だがしっかりと声を届けようと必死に声をひねり出す。


「僕は、あの街を壊したくないんです。お願いです。僕をここから出して、これを止めてください!」

「もちろん。君の想いに応えるよ」


 彼は魔導兵器にある出入り口に手を振れる。彼の想いの応えるかのように彼が持つエネルギーが反応し、本来なら開けられないように細工されていたであろうドアが開いた。私は手を伸ばし、彼の手を取る。そして彼は、私の手を握り、再び世界へと飛び出したのだった。


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