第40話 闇の魔術師との決戦 ②
ヴォルフは高密度の闇属性魔法に包まれる。それはまさに悪魔が顕現したような、そんな錯覚に襲われるほど明確なオーラを放っていた。ポプラが牽制に炎属性魔法を発動して放ったが、それは奴に届く前に闇に消えた。
「悪魔の
「近づければ物理的攻撃はある程度通るけどかなり軽減されるし、魔法も生半可な制御じゃかき消されるってやつだよね! アルマリア、やれそう?」
「ああいうのは初めてだけど、でも、やれると思う。行くよ」
私は二人に合図する。ヴォルフは雄たけびを上げながら、闇の腕をいくつか作り出し、杖を持たせて縛りや痛みの魔術を撃ち放ち、闇属性魔法で作られた動物たちを解き放つ。私は無属性防御魔法を息を吐くように展開しながら、走り出した。合わせて二人も走り出す。
襲い掛かる闇属性の動物攻撃を光属性や風属性の近接武器攻撃でかき消し、着実に中距離までの間合いまで詰めようと走りまわる。ベリーとポプラも巧みに奴の攻撃を躱し、着実に距離を詰めていく。間合いを詰められないようにとヴォルフは逆に私たちから距離を取るようにして移動をしていた。
「有効射程距離に行かないと有効打は無理だよ。動きを止めないと」
「全く、なんなのもう! わたしがなんとかして止めるからベリーは私の防衛して!」
「分かってるよポプラ! 大丈夫だから!」
ポプラは地属性魔法を主に攻撃方法を変え、ヴォルフの足止めを開始した。それに気づいたヴォルフは当然、ポプラへの攻撃を強くしていくが、それを全てベリーの大型短剣の逆手二刀流で斬り伏せる。飛び交う魔術をも切り裂く、舞い剣術は、流石の聖騎士なだけあった。
私への攻撃が薄くなったところを見計らい、私は大穴の開いた天井を見上げる。光が差し込み、空を青と雲で彩っている。そして風が吹き下ろされた。
私はその風を中型の鳥へと変え、試しにヴォルフへと撃ち出した。こちらの攻撃に気づいたヴォルフは片手を向ける。闇属性の魔力が私の属性攻撃を喰らおうと出てきたが、その闇属性を全て弾き飛ばし、悪魔のオーラ体へと突き刺さり、すぐに闇に消えた。
「ベリー、ポプラ!」
私は彼女たちに声をかける。私の声の調子を聞き取った彼女たちは頷き、さらに攻撃の手を強める。
「さて、少し頑張っていこうかな! やるよ『グラウヘル!』」
ベリーの持っている大型短剣が淡い緑色に光り、その光は刀身へと変化した。
「ベリーがそうなら、私もやらなきゃじゃん。全くもう、本当にさ」
ポプラはもう一つのアルテロッドを取り出し、こちらも二刀流となる。彼女は地属性と水属性の二つをメインに属性魔法攻撃を開始した。
ベリーとポプラの高速戦闘は苛烈を極めた。目で追うのがやっとのスピードでベリーは移動しきりかかる。ポプラは常人の発動速度をはるかに凌ぐ速さで属性魔法を展開し、ヴォルフを追い詰める。ヴォルフも負けじと物量と高密度で消されにくい戦闘スタイルに変えて適応する。私は移動に集中し、少なからず私を標的に襲ってくる闇属性魔法と魔術を対処しながら前進する。
3人の攻防は拮抗していたかに見えたが、ベリーが間合いに入った瞬間、その均衡は崩れる。彼女の光の剣がヴォルフの悪魔のオーラ体を明確に捉え、斬り飛ばした。大きくのけ反るヴォルフに向け、ポプラは追撃の鉄槌を地属性と水属性で下す。今度はかき消されずに思い切り衝突し、地面に倒れ込むヴォルフ。その隙を私は見逃さなかった。大穴から差し込む光を受け、その大魔法を唱える。
「数多の希望を光に込め、暗闇払う果てに飛べ。『イリス・リミットホライズン!』」
七色の光り輝く希望の橋は一直線にヴォルフの悪魔オーラ体に飛ぶ。衝突し、光と共に魔力の衝突の爆散が発生、拡散して闇は払われた。ヴォルフは地面に倒れたまま起き上がらない。
「ヴォルフ・エルミート! あなたを騎士団に引き渡すよ! もうこれ以上の悪事が出来ないようにね!」
ベリーは高らかに宣言する。そうしてゆっくりと彼に近づいていたその時だった。急にヴォルフは杖を上空へ向けて叫んだ。
「ここで終わりでも、せめて、お前たちの思い出の街を破壊してやるっすよ!!」
ヴォルフはそう言い、杖を再び尋を入れた魔導兵器に向ける。宙に浮いていた魔導兵器は稼働し小刻みに動き出す。不気味な雰囲気を醸し出す魔導兵器は、少しだけ光を放った後、そこから時空間属性魔法によって一瞬にして姿を消してしまったのだった。
「アルマリア!」
ベリーの声に私は振り向く。ポプラがすでに何かの魔法の準備をしていた。
「あんまり得意じゃないし、準備してた最後の時空間魔法だけど、あんたに使ってあげる。彼の声を聴いてあげなよ」
「――うん、分かってる。お願い」
私の足元に時空間魔法の魔方陣が出現する。そして、私は目を閉じた。次の瞬間に目を開けた時、そこは、彼と短い時間を過ごした部屋だった。
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