第38話 悪魔の兵器

「蒼き海溝を宿し要塞、燃ゆる悪意から全てを覆う。『ターコイズスヴェル・フォートレス』」


 ポプラの防御型大魔法はすぐに爆発前に展開し、私たちを青く巨大な盾で覆う。輝きの中から全てを燃やす爆炎とその衝撃波は瞬く間に辺りを覆いつくし、凄まじい爆音を響かせた。破壊の光の中で私たちは地面にしがみ付きながら終わるのを待った。


 随分長く感じた爆発は徐々に光を失っていく。煙が滞留し、私は風属性で煙を吹き飛ばす。そこは荒廃した空間が存在していた。地面は焼け焦げ、洞窟の壁は大きく崩れて空間が広がっている。天井には巨大な穴が空き、そこから青空がのぞき、風が吹いていた。


「こんな、こんな威力の兵器が……」

「実際に見ると、本当にやばいね……これほどの魔導兵器を、あんな過激派の人間が使ったら、本当に世界が壊れちゃうよ」

「全く、なんなのもう。むちゃくちゃじゃん。これでフルパワーじゃないってのがふざけてるよ」


 私たちはゆっくりと体勢を整える。視線の先には、闇属性の盾で爆発を防いだヴォルフがいる。


「これが、悪魔の兵器が答えた、この少年が持つ反撃の心っすよ。この爆発の規模が、彼の抱えていた、燻っている爆弾の一つなんすわ。到底きれいごとで洗えるような規模じゃないって、分かったっすかよ」


 ヴォルフは声高らかに言葉を投げつける。彼の言葉には仄かに怒りが感じられ、それに呼応して闇属性が周囲で弾ける。彼の抱える怒りも、実力も凄まじいものだと、肌で感じる。

 

「あなたの境遇は全然分からない。でも、少なくとも彼は、尋はそんな攻撃的な想いを表現しようと思ってなかったよ。抱えてるものはあったけど、それでも前に進もうとしていた。あなたみたいに、永遠に晴れない雷雲を、自分の力で抜けようともがいていた。彼の想いを、あなたが勝手に決めないで」


 私は負けじと投げ返す。彼の今までの葛藤を全て知ってるわけではないが、それでも傍で見てきている。少なくとも、尋は奴の同類ではないのだと、確信している。


「アルマリア、3人であいつを止めよう! メインがアルマリアで、私とポプラがサブに回るよ!」

「ちょっと癪だけど、まあ今回はあんたにメインを譲ってあげる。思いっきりぶっ放してきなよ」

「――うん、お願い、二人とも」


 私は構える。ヴォルフは不気味に笑みを浮かべる。


 「このまま俺がやられるととでも? 見せてやるっすよ。才能がない凡才でも気軽に強くなれる、他の方法をな」


 そう言うとヴォルフは懐から小さな丸い何かを取り出し、それを飲み込んだ。その瞬間、激しい闇属性の衝撃波が辺りを襲い、私たちはしゃがんでその衝撃に耐える。奴を見ると、背中から見るからに禍々しい闇属性の翼を生やし、眼光は真っ赤になっていた。


「悪魔的な悲鳴を響かせてやる」


 悪魔との闘いが幕を開けた。


 


 

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