第34話 小さな導き

 私たちが出現した場所はとある森の中、少し開けた場所だった。ポプラが前に出て、周囲を見渡す。


「うん、移動完了。さて、彼の痕跡を集中して探すから、周囲の警戒をお願い」

「分かった! アルマリアは向こうを見てて!」


 ベリーは元気にそう言い、彼女は別の方へと小走りで行ってしまう。私は箒を握り直し、帽子を被りなおして周囲を見渡す。見る限りは何もいない。魔物さえも、不自然なほどに感じない。私は少し歩く。木の幹や草花、地面を見る。明らかに踏まれた痕跡などが見える。これは、明らかに何かの存在達がここに居た痕跡だ。しかし、大きく暴れた様子はない。もう少し見ると、ある一部の草花はある大きさに沿って倒れている。私が良く旅で遭遇した魔物、ウルフの形状に見える。大きく争った形跡はない。ただ寝ていただけだろうか、となると、まだ近くにいる可能性もある。気になってそのウルフが寝ていたであろう場所にしゃがみ込む。すると、草の合間から、牙や爪、毛が落ちていることに気づいた。それは明らかに、魔物を倒した後、消滅後に残る魔物の素材のそれだと、旅人の直感で理解した。つまり、ウルフは寝ていたのでなく、倒された。では一体誰に。

 少なくとも私の視点で考えると、可能性は一つだ。その状況を理解したと同時に、ベリーの声が近くからした。


「アルマリア、準備して。奴らがいる」

「やっぱり。ポプラの推測エリアはドンピシャだったってこと?」

「そうだろうね。少なくとも警戒ルートの中には入ってるってことだと思う」


 その時、背後から魔術の気配を感じた。同じようにベリーも反応し、魔具による防御魔法を発動させた。あっけなく散った魔術の光の向こう側に、黒いローブ姿の人間が2人いた。


 私たちはすぐさまポプラの元へと戻る。ポプラは完全に目を閉じて集中している。しかし、周囲の状況についてある程度把握しているようだ。


「やっぱり読みは当たったでしょ。ほら、さっさとやっちゃって、居場所を吐かせようよ。絶対にそっちの方が早いし正確だからさ」

「分かってるよ! 行くよ、アルマリア!」

「うん、やろう」


 私はすぐに返事をして、1人に狙いをつける。相手も私に狙いをつけ、指揮棒型の杖をこちらに向けた。

 

 先に動いたのは相手だった。杖から黄色い魔術の光を私に向けて放つ。私は無属性防御魔法を無意識に発動し、最小限の大きさでそれを防ぐ。相手の放った魔術は麻痺の魔術だ。当たれば体は麻痺して動けなくなる。強く作用すれば呼吸器系も麻痺させて窒息させることも可能だ。油断すると命取りになる。

 相手は今度は炎属性魔法を発動し、小型の狼に変えて突撃させ、同時に気絶魔術を連続で放ってくる。私は無意識に無属性防御魔法を発動して気絶魔術を防ぎつつ、水属性魔法を発動し、炎の狼の動きに合わせて亀に変え、炎の牙を防ぐ。水に負けた炎は瞬時に消え失せる。

 すぐに私は雷属性魔法を発動し、小鳥の形にして相手の足元の地面に放つ。相手はその雷属性魔法を避け、雷の小鳥たちは嘴を地面に突き刺して止まる。

 再び炎属性魔法を発動して同じように気絶魔術と組み合わせて攻撃を仕掛けて来た。私は無意識で発動出来る無属性防御魔法で防御しつつ、水属性魔法の球で応戦する。散っていく水は徐々に相手の地面を濡らしていく。押され気味になった相手は属性を変え、地属性魔法を使い、地面からの攻撃に変えて来た。私はその攻撃を回避しつつ、攻撃の手を緩めない。相手の地面を水浸しにしていく。相手は私が何をしようとしているのかに気づき、その水たまりから距離を取ろうとした。私はその一瞬の動きを見逃さず、得意の風魔法で速攻を仕掛ける。風属性小魔法の小鳥を作り出し、速度重視で撃ち出した。見切れなかった相手は風の小鳥に体をどつかれ、バランスを崩す。すぐに風の小鳥を中魔法に強化し、相手の背後からさらに強い力を持った風の鳥に変えて突撃させ、背中に衝突させた。完全にバランスを失い、腹から水たまりに倒れる相手を、地面に突き刺した雷魔法の電撃を水に流した。

 全身を感電させる相手の気絶させるように雷魔法を制御し、そして相手は沈黙したのだった。


「流石はアルマリア! 余裕の勝利だね!」


 ベリーの声がしてそちらを見ると、ちょうどベリーの足元に敵が倒れ込んでいるのが見えた。ベリーの方はあっと言う間に気絶させていたようだ。


「ベリーこそ、素手で良くやるよ」

「まあ、いろんな人と戦ってきたからね! さて、それじゃあ、私の方の人を起こして、尋の居場所を聞こうか!」


 そう言って、ベリーは倒れている敵を仰向けにさせ、頬を叩く。すぐに気づいたその輩は、にやりと笑う。


「さて、私たちが何を聞きたいか、もう分かるんじゃない? 早く答えた方が良いよ。この子は結構怖いからね」

「あなたたちが誘拐した子を探してるんだ。どこにいるの? あんたたちの幹部が連れ去った子だよ」


 しかし、男からは何も回答は得られなかった。いつかに見たのと同じ、口が完全に閉じていた。口封じの魔術が発動したのだ。


「ま、やっぱりこうなるよね!」

「全く、なんなのもう。こいつらほんと、趣味悪い魔術使ってさ。無理やりナイフ入れて喋れるようにしてやってもいいんだけど」

「まあそう言わないの! ポプラなら、痕跡、追えるでしょ!」


 敵からの情報は得られない分かったベリーとポプラは、すでに次の動きに移行していた。私は二人のテンポに1歩遅れて、彼女たちの話題に追いつく。


「痕跡追えたの?」

「もちろん。ただ、完璧じゃない。もう少しエリアを絞れたってだけ。ここから歩いて近いよ」


 そう言ってポプラは小走りで移動を始める。ベリーも続き、私も箒に乗ってそのエリアへと向かい、そこからは怪しいと思われるところを探すことになった。

 私は箒から降りて歩いて周囲を探す。いつも空を眺めていた私が、今日はひたすら地面を見ている。それくらいに、私はかなり必死になっていたのだ。内心ではかなり焦っているのだ。何事もなく、彼を探し、元の世界に帰したいと、本当の意味で願っているのだ。気づくと私は駆け足で探していた。口呼吸が荒くなる。気づくと私は小石に躓き、転びそうになった。無意識に風属性魔法をちょっと発動してバランスを取り、転ばずに済んだ。少し落ち着こうと両手を膝に着く。すると何やら見覚えのある物体が、視線の中に入った気がした。


 きょろきょろと辺りを見渡して歩くと、そこには、地下洞窟の入り口が口を開けていた。そしてその真ん前に、尋が初めて依頼を達成したときの報酬である、あのリボンが落ちていた。私は一瞬で状況について察する。


「ねえ、二人とも、多分、この地下洞窟が、あいつらに続いてる入り口だと思う」

「お、良いね! アルマリアがそう言う時は大体当たってるもんね!」

「なんなの、ベリーのその理論は。でもまあ、あたしもアルマリアの言うことは信じられる。少なくともベリーの言葉よりもね」

「あ、ひどいなぁもう! 私もちゃんとしたことをいうときあるよ!」

「はいはい。それで、アルマリア、その洞窟に入る? アルマリアの判断は尊重するよ」

「うん、行こう。絶対にこの洞窟を通ったって言えるから」


 私はそう言い、先頭に立って洞窟へと入る。外気温よりも低いひんやりとした空気が、私の体温を奪っていくのだった。

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