第33話 心の温かさ
彼女たちの戦いはすぐに終了した。ベリーの風属性魔法を纏った超高速機動で的を絞らせず、回避をしながら徒手格闘によって敵をなぎ倒す。ポプラは何かあった時に構えていたが、特に何もせずにそのまま戦闘は終了した。
私は防御魔法を解除し、一息ついた。
「全く、アルマリアがこんな情けない姿、晒すなんてさ」
「ポプラ! アルマリアも大変だったんだよ。ほら、飲み物あげる!」
ベリーは水筒を私に差し向ける。私は疲労の中水筒を受け取り、喉を潤す。隣にベリーが座り、下から私の顔を覗く。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう、ベリー」
「良かった! 状況は、まあ大体は理解してるよ。私たちの方でも独自に調べたり動いていたからね」
「そっか……流石は国境なき騎士団。情報網が強いね」
「ほめても何も出ないよ! さて、まずは街に戻ろう。ここに居ても何も解決しないし、なにより」
ベリーは屈託のない笑顔で言う。
「女子の秘密の会話はオシャレなカフェでするのが普通、だもんね!」
私はベリーとポプラに連れられて、街へと戻る。行きはキラキラしていた街も、今は暗くどんよりと曇り空のように重く見える。
街の戻った私たちは、おしゃれなカフェへと入り、甘いコーヒーをすすることにした。元気のない私にベリーはスイーツも頼んでくれた。私はコーヒーとスイーツを少し食べ、心を落ち着かせてから、状況について話し始めた。
「さて、アルマリアも落ち着いた感じだし、状況でも整理しよっか! といっても、大体は分かってるんだけどね!」
「本当、すごいと思うよ。二人の情報取集の力ね」
「まあ、伊達に私立騎士団で活動してないよ。それで、ベリー、状況を整理しようよ」
「そうだね! ひとまず言えることは、今はすぐに彼を追っても追い付けないから、今はタイミングを見るしかないんだよね! だからアルマリアは安心して休んでね!」
「う、うん。分かった。でも、それって、どういう?」
「やつらは何重にも重なった時空間移動魔法を準備してる。だから彼の居場所を探知しても、結局次の場所にすぐ飛ばれるから、やつらの移動が止まるまで待つ方が確実に追えるってこと」
「ポプラは彼と会ってるから、探知魔術で大体の位置を感じることが出来るんだよね!」
「ネタ晴らしが早すぎ。でもまあそんな感じ。今も奴らは移動してるから、まだ休んでて大丈夫」
「今こうやってのんびりしてて大丈夫なことは分かったよ。それで、やっぱり奴らは尋が持ってる潜在能力を狙って、今回行動してるんだと考えてるけど、二人はどう思う?」
私は喉を潤し、スイーツを頬張りながら、二人に質問をする。彼らの目的を理解してから動く方が良いと思う。
「そうだね。私たちもそう考えてる。尋のこと以外にもね、奴らは色々とやらかしてたんだよ」
「全くもう、本当にあいつらはヤバいことしかしてないんだからさ。魔導兵器の設計図を盗んだのもあいつらだし、技術者を誘拐したのもあいつらだし、完全な国際犯罪組織だよほんと」
「魔導兵器……それを使って、何かするってことだよね。脅迫とか、取引だとか、そういうのかな」
「それは直接聞くしかないね! でも、少なくともブラッククロスの構成員の経歴を見ると、多分、人間社会に対して恨みを持ってる人が多いから、復讐に使うかもしれない。特にあのヴォルフは明らかな敵意を持ってる。あいつが主導なら確実に使うだろうね」
ベリーの表情が険しくなる。それほどにヴォルフは危険人物なのだろう。私は飲み物を飲み干し、スイーツを食べきる。
「さて、ポプラ、そろそろこっちも動く?」
「そうだね。回数的にこちらが予測している数に近くなってる。それじゃ、私たちも一旦飛ぼうか」
ポプラとベリーが立ち上がる。私も遅れて箒を手に取り、彼女たちの後を追う。彼女たちが移動した場所は裏路地にある小さな公園。そこの中心に移動した。
「はい、手をつないで! 瞬間移動の魔術を準備してたんだ!」
「やつらの行動範囲と思われるエリアのほぼ中心に行く。そこからなら移動もだいぶ楽になる」
「予測が外れてたら?」
「全力で移動する」
「良いね。その時は二人とも置いていくよ」
「ナビの声だけは聴いててね!」
私はベリーの手をつなぐ。優しくもしっかりと握る彼女の手は、少し冷えていた。そういえば中学時代のある時の同級生に言われたことがあった。手が冷たい人は心が温かいと。私の手は、尋にとって冷たいのだろうか。
「それじゃあ、奪還作戦、開始!」
ベリーの合図とともにポプラが魔術を発動する。魔方陣に囲まれた私たちは光に包まれ、そして一瞬のうちにその場から移動したのだった。
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