第31話 長い夜の始まり

 曇り空は気分を重くさせる。私と尋は今日を休みの日として決め、都街近郊の街道を散歩していた。せっかくの散歩だが、尋の表情は曇り空のように沈んでいる。彼はあの日以降、何か思い悩んでいるような浮かない表情で過ごすことが増えたのだ。数日たった今日でもまだ彼の顔は曇り空。恐らくヴォルフが何かしらの仕掛けを施し、彼に何かを話したのだと推測している。奴は異様に尋のことを欲しがっている。今までの自分が持っている情報を整理して考えるのであれば、奴は異世界人としての潜在能力を狙っていると私は考えている。それで何かをしようとしているのだろう。その能力を使うための力の源泉が他人でも扱えないものだとしたら、考えられることは、何かしらのエネルギー供給のためかもしれない。

 とにかく、私は尋を奴らから守り通し、元の世界に帰すことを、今の旅の目標にしていた。


「なんか、暗い空だね。せっかくの休みなのに」

「仕方ないですよ。天気は都合よく変わらないですから。僕はこういう日があっても良いと思いますし」

「あれだね。尋は物事をありのままに受け入れようとする感じだね」

「……そうですね。そうしないと、自分が辛くなるだけですから。張り合っても無駄なことが、僕の現実には多かったんです。多分これからも……」


 尋はそう言ってもっと暗い表情となる。今までクエストを乗り越えて来た彼が、振り出しに戻ってしまったような、そんな感覚に襲われる。自信がなく弱弱しい、出会った時の彼になっているような気がしてしまう。そんな彼の表情に呼応するように、少し冷たい風が私たちの体を撫でていった。

 その時だった。私たちの頭上に黒霧の鳥が複数いるのに私は気づく。それは移動魔術の一種で、明らかに私たちの前を目掛けて下降していた。


「尋、逃げる準備して」

「えっ? は、はい」


 私は尋に逃げる準備を促した。それに気づいたのか、黒霧の鳥の1羽が魔術を解除し、黒いローブの人間に戻り、打撃の魔術を放ってきた。発動とスピードが早く頭に当たれば気絶も狙える魔術は、明らかに尋を狙っている。私は迷わず尋の頭部を無属性の防御魔法で防いだ。奴らは私たちが防御に回っている隙に地上に降り立ち、私たちの進行方向から指揮棒型の杖を私たちに向けたのだった。

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