第27話 衝突する想い

「なるほどね! 要は宣戦布告を受けたってことだ!」


 エルヴィラは明るい声でそんな物騒なことを言う。


「まあ、つまりはそういうことだね。そんな明るく言えることじゃないとは思うけどさ」

「そうだね! でもまあ、私とマリアがいれば多分大丈夫だよ!」

「そうだと良いけど」

「それじゃあ、二人とも、その人が待ってるところにいこっか!」

「そうだね。それと、歩きながら作戦でも立てようか。今回はあくまで救出がメインなんだからさ」


 私はそう言って歩き出し、エルヴィラと尋もつられて歩きだす。


「それで、その人は、奥にある建物にいるって言ったんだよね! それなら、人質は多分その建物の中のどこかにいるんじゃない?」

「どうだろう。そんな簡単に見つかるところに置くかな」

「うーん、まあ普通ならしないだろうけどさ。なんかその人、マリア達のことを試してるっていうか、シンプルな敵対してるって感じ、しないんだよね。だから、何となく私たちが手の届く範囲に人質、おいてそうだなって、なんとなく思ったんだ!」

「なるほどね。うん、確かにそんな感じはしたよ。それじゃ、待ってると言われた建物を偵察して作戦を考えよう」


 尋は静かに頷き、私の後ろを付いてくる。正直なところ、尋をそこに連れていくことには反対な気持ちがあるが、絶対に助けに行くという意志が、その表情に出ていた。その表情を横目に、私たちは目的地へと歩く。


 そうしてたどり着いた先は、ポツンと佇む屋敷だった。3階建ての建物は、所々塗装が剥げ、中が見えているところがあるが、比較的原型は保たれていた。


「さてと、中にどのくらいの敵がいるか、頑張って偵察しようか!」

「エルヴィラの得意な、ね」


 私とエルヴィラは小魔法で風の小鳥を出現させ、建物へと飛ばす。敵にバレる前に建物を集会し、少しして自分たちの元へと戻す。そして、その小鳥たちが見た記憶を、魔力を経由して見ていく。


「うーん。もしかして、誰もいない?」

「いや、少なくとも、あの人はいるよ。でも、もしかしたら仲間は連れてきてないかもね」

「じゃあ、どうやってやってく?」

「私とエルヴィラが分かれて、私があいつをおびき寄せて、エルヴィラが人質を探す、とか?」

「そうだね~それじゃあ、それで行こうか! 尋君は待機して……」

「いえ、その人質を探す役目は僕が請け負いたいです」


  話が纏まろうとしたその時、尋ははっきりと、そして強く言った。彼は続ける。


「僕は、戦えないんです。それなら、僕が成すべきことは、戦わずに人質を救出することだと、思うんです。お二人は、屋敷にいる魔術師の人たちをおびき出してください。その隙に、僕が人質の子を助けます」

「ふんふん、なるほどね! じゃあ、どうする、マリア?」


 エルヴィラは、勝手に何かを理解し、私に意見を求める。私は、尋の視線と同じ高さまでしゃがみ、話す。


「尋、君の言っていることがどういうことかは分かるよね。私たち二人が君につかない。君は戦えない。それでも、人質を助けに行く。もしかしたら、見張りの人がいるかもしれない環境に、君は飛び込んでく。言っている意味はつまりはこういうことなんだよ」

「はい。戦わない方法を考えつつ、人質を助けに行きます。僕の出来ることを、やりたいんです」


 尋の目は強い炎が宿っているように感じた。彼は彼なりに出来ることをやり遂げたいのだと分かる。今までの経験で、出来ることをやる気持ちを、勇気を持って前に出る力を、試したいのかもしれない。


「分かった。それじゃあ、私たちが陽動をやるよ。尋はタイミングを見計らって、人質の子を助けに行こう」

「はい!」


 尋の声がお腹の仲間で響く。私は頷き、そして彼の頭に手を置いた。


「それじゃあ、行こうか」


 そうして、私たちは細かな動きについて確認し、作戦を開始したのだった。

 

 私とエルヴィラは尋と別れ、約束の家屋の方へと歩く。視界に入る限りの情報だと、敵は見えない。警戒しつつそのまま近づくと、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「ようっす。来たな」


 家屋からブラッククロスの男が現れる。仲間も少女の姿もなく、一人だけだ。


「へえ、あなたがブラッククロスの? 初めまして、あたし、エルヴィラって言います! あなたを捕まえる騎士の名前だし、ちゃんと覚えてね!」

「ああ、知っているとも。裏社会じゃあんたは有名ですぜ。騎士様と直接やり合うのはあんまりよくないが、まあここまで来ちまったらしょうがないよなぁ」

「そうだよ、仕方ないよ! だから、ボロボロにされて捕まってね! えっと、あなたのことはなんて言えば良い? まだ幹部程度の名前は騎士団でも広まってなくてね!」

「……ヴォルフ・エルミート。これが俺の名前っすよ。これから、裏社会を牛耳る男の名前なんで、しかと覚えておくと良いですぜ」


 男はにやりと笑いながら名乗る。そして、その手には指揮棒型の杖が握られた。これ以上は話すことはないと言うことだろう。私は箒を構え、エルヴィラは小型杖を構え、戦闘態勢を取った。

 世界が停止したかのよう沈黙が一息の間に流れた。そして、ついにその火蓋は切られる。


 最初に動いたのは、3人だった。ヴォルフの杖から激痛を与える、特徴的な赤い魔術光が走り、エルヴィラは氷属性の魔法光、私は水属性の魔法光を放つ。それぞれの光が衝突し、その衝撃が発動元の箒に感じる。拮抗した状態は、ヴォルフの目くらましと魔法強制解除の魔術を追加発動したところで終わった。お互いの攻撃が衝突しているところにその追加魔術が弾け、全員の攻撃が消滅し、そこから濃い煙が沸き上がる。その煙を合図に、戦闘は次のステージへと移行していく。

 煙の中から放たれる激痛は弾き飛ばしの魔術の光。それらを魔法壁でいなし、小魔法で牽制、中魔法で攻撃を仕掛ける私とエルヴィラ。お互いの得意属性で俊敏に移動し魔法を放っていく。氷の狼の牙に鳥たちの強襲、剣とハンマーによる一点攻撃。風の槍に水の魚類たちによる拘束攻撃、光による目くらまし。それぞれの強みを生かした戦法を用いて攻め立てる。激しい攻防の中、私は風の槍を出現させ、エルヴィラは氷の狼を作り出し、同時の近接攻撃を仕掛ける。しかし、ヴォルフはそれを爆破魔法を使ってルートを爆破して接近を許さず、そこで攻防も途切れた。


「流石っすな。……あんたら、俺たちの仲間にならないか? その力があれば、裏社会のトップを張れる。そうすれば、バカにする奴らをぶちのめせる。あんたらだって、学生時代に卑下にされたことがあっただろう? 今だって、騎士として人に尽くしても文句は言われ、旅人は雑な扱いを受ける。そんな世の中を、力で黙らせる。俺は、世界に復讐する。どうです? 心の奥底に眠る怒りを、解放して……」

「うーん、あんまり興味ないかな!」

「そんな些細な事、全く気にしたことない」


 私たちはヴォルフの提案を即否定した。彼は特に驚く様子もなく、にやりと不気味な笑顔を浮かべる。


「それなら、ここで朽ち果てるんすね。あんたらを殺し、あの少年を使って世界に復讐するっすわ」


 そう言い、ヴォルフは杖を上空に掲げ、詠唱を始める。私とエルヴィラも対抗し、背中合わせになり、詠唱を始める。


「『激情滾る復讐の心、負の感情を支配し、夜に沈ませる。マンガル・グラッジオブリベンジ!』」

「『母なる冬神、慈愛なる御心を以て悪を滅する。アルモロウケウス・イルマタル!』」

「『清き清流、静かなる刃となり悪意を切り裂かん。トウレンストーム・セイレーン!』」


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