第20話 長い一日の振り返り
私は一人、バーのカウンターに寄りかかり、片手で甘いカクテルを一口ずつ飲んでいた。お酒は強いわけではないが、嫌いなわけではなく、一人で飲むことも苦ではない。お酒を飲みながら、自分の思考を整理する。
(尋のような生き方は私には出来なかった。縛られることはあまり好きじゃないし、他人から押し付けられるのは、うんざりだし)
(これからもクエストをこなしていくけど、それがどこまで続くだろうか。彼が元の世界に帰りたいと明確に言ってくれた時、ちゃんと戻れる環境を考えていけるだろうか。……まあ、その時になったらベリーに相談すればいいかな。一人で悩んでても答えなんて出てこないし)
その時、私のピアスに連絡が入った。相手はベリーで、私は応答する。
《もしもし! アルマリア、お疲れ様!》
《お疲れ様、ベリー。どうしたの、一人の夜が寂しくて誰かの声が聴きたくなった?》
《そうだね! アルマリアの声は夜に聞きたくなる声なんだよ! あと、尋の様子も気になってね! 元気にしてる?》
《尋の事? うん、そうだね。元気だよ。……まあ、色々とあって、今は旅人ギルドの依頼を一緒にやってるよ》
《そうだったんだ! それはあれかな、クエストを通して自己成長をしたい、みたいな、そんな感じなことがあったのかな?》
《……よく分かったね。まさにそんな感じだよ。尋は元居た世界で色々と辛いことがあったみたい。だから、変わるきっかけが欲しいみたいだったんだ。それで、まあ役に立つか分かんないけど、その話を聞いた時になにか手助けしたいって思って、とりあえずクエストをやっていこうってことになったんだ》
《いいね! アルマリアは無関心そうに見えてちゃんと考えてくれてるのがよく分かるよ! でも、そっかそっか、やっぱりそうだったんだ》
《やっぱり?》
《ああいや、ほら、彼の表情が何か思い詰めてそうな感じしたからね! 変わるきっかけがあればいいね! 応援してる! なにか困ったことあったら、出来る限り協力もするから!》
《ありがとう。また何かあったら相談する。あ、だから、騎士団の仕事はしばらく出来ないかな》
《大丈夫だよ! アルマリアの状況はもう団長たちに伝えてるよ! 想定済みだって言ってた!》
《流石は国境なき騎士団長だね。仕事が早い》
《ね! 本当、信頼できる団長だよね! ――そうそう、アルマリアに一つ、尋に関わることで忠告があるんだよね》
《どうしたの? 流石に10代の子に恋愛感情持つ私じゃないけど》
《違うよ! もう耳には入ってるかもしれないけど、最近、ブラッククロスっていう組織が活発化してるんだ。その組織は、なんだか、異世界の人間を探してるみたいでね。これが、現世界の人のことを示してるのかは分からないけど、尋も少なくともこちらの世界の人じゃないと思うから、もしかしたら狙われるかもしれない》
《ああ、何か都街に来る前に軽く絡まれた気がする。大丈夫だよ。私がちゃんと守るから。私の実力、ベリーは知ってるでしょ》
《知ってるけど、ブラッククロスは魔術師の集まりだし、油断できない組織だと思う。だから、気を付けてね》
《ベリーがそこまで深刻そうに言うの珍しいね。分かった。気にしておくよ》
《良かった! それじゃあ、また連絡するね! お休み!》
ベリーは明るい声で連絡を終えた。私は残っていたカクテルを飲み干し、お金をチップと合わせてグラスの傍に置いて席を立つ。その時に店内を少し見渡すと、黒いローブをかぶった2人が、奥のテーブル席に座っているのが見えた。彼らを横目に私は店を出る。今日は少し冷える夜で、夜風が頬を冷やす。
(直感だけど、多分ブラッククロスが狙っているのは尋だ。でも、尋には何か魔力とか、そういう力があると思えない。なにかをきっかけに出てくるのかな。とにかく、尋に被害が無いようにしないと)
私はそう考え、尋が眠る部屋へと戻って行った。
―― 尋
アルマリアさんは外に散歩に出かけ、僕は真っ暗な天井を眺める。今日はとても長い一日だったが、眠気が来ない。なので、両手を枕の下に入れ、改めて自分の心に向き合うことにした。
今日得られたことは一言で言えば、頼ることだった。今まで人助けとして手伝うという感覚でやってきていたから、自分が頼るというよりかは、人に頼られるという感覚で居た。だから、色々なことを自分に押し付けて来られても、人に頼るという考えが全くなかった。ロアン君のように、ちょっとでも人に頼ろうかと思えれば、自分自身の心持ちも変わるだろうか。
(いや、結局、この世界だと旅人のギルドに依頼するっていう手続きが広まってるから他人に頼れただけで、あっちじゃ誰に依頼すればいいんだろう)
身近で味方になってくれる人たちといえば、両親だろうけど、話しにくい。姉は自分の生活で忙しそうだし、兄は、絶対に相談したくない。となれば、まずはそういう味方になってくれる人を探すしかない。アルマリアさんは、身近にそういう人はいるものだって言っていたけど、家族以外にいるかどうか、不安になる。だから、もしこの大層な夢から覚めた時は、頼れそうな人を探すことにしよう。
そんなことを考えていると、いつの間にか眠気が目元まで迫ってきていて、瞼が重くなっていく。僕はその眠気に逆らわず、そのまま夢の中で夢に落ちていった。
――
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