第19話 初めての依頼達成後
昼の時間を過ぎ、夜を迎える時間。私たちは総合都市ウェサニアに戻ってきた。夜でも相変わらずお祭りの活気が止まず、往来する人々の声がこだまする。そんな大通り抜け、街灯に照らされる旅人ギルドへと入っていく。そして、クエストカウンターへと向かい、受付嬢の元へと向かう。受付嬢は私たちを見て、とびっきりの営業スマイルをしながら会釈した。
「こんばんは、旅人さん! 無事に依頼を達成しましたね! 流石、ランク制度に登録していれば最上位ランク間違いなしと言われている魔術師、アルマリアさんですね!」
「え、そうなの? 私ギルドからそんな風に思われてるんだ。あまり嬉しくないかも」
「恐らくギルド内では共通の認識になってますよ! 最近新しく出来たランク制度に興味を示さず、古き良き自由を愛す旅人を体現していると高評価なんですよ!」
「そこまで高評価なら、報酬も少し上乗せしてくれてもいいんじゃない? 今回の依頼は別に良いけど、これからのもので」
「それが出来れば無法地帯になっちゃうんですよねー。だからこそのランク制度なんですけど、これを機会に登録してみては? 私からしたらメリットしかないと思いますよ!」
「あ~、いや、じゃあやめとく。今回の報酬をお願い」
「そうですか、まあそこも自由を愛する旅人の体現なのでしょうね! はいこちらが今回の報酬になります! ちょうどお二人が到着する前に届いたんですよ! お疲れさまでした」
受付嬢から報酬袋を受けとる。中には報酬金と、青リボンが入っていた。そのリボンには紙がひと切れ入っており、そこには「ありがとうございました」と書いてあった。
「わあ、そのリボンって、もしかしてロアン君が作ったものですかね」
「うん、そうだね。結構いい出来だし、手先が器用なんだね。――じゃあ、はい」
私たちは受付から歩き出し、報酬袋を尋に渡す。尋は首を傾げて困惑している様子だ。
「えっと、これはアルマリアさんが受け取るべきものだと……」
「まあ、本来はそうだけど、尋も頑張ったから、ちゃんと尋のための報酬でもあることを理解してほしくてね。なんなら、欲しい分だけ持って行ってもいいし、全部持って行っても良いよ」
「い、いえ、そんな、もらうだなんて。これはアルマリアさんが受け取ってください。僕はただお手伝いしただけで、成果もなにもだしてないんです」
予想はしていたが、想像以上に力強く突き返される。そういうお金の面もしっかりとしたいタイプなのだろうか、いや、もしかしたら私がぶっきらぼうなだけなのかもしれない。
「分かった。それじゃあお金は私が持ってる。でも、このリボンは、尋が持つべきだと思うんだ。だから、お守り代わりにでも尋が持っていてほしい」
そういって私はリボンを尋に差し出す。これでお互い報酬はもらったことになるだろう。尋は納得していない様子だが、リボンを受け取り、ポケットへとしまった。
旅人ギルドを出た後、空腹の唸りが尋から聞こえ、私たちはまた露店でごはんを買い、歩きながら腹を満たす。今日も一日の終わりに向けて人々は歩き、談笑する。この街は毎日がお祭りのような活気を見せる。旅人たちだけでなくこの街の住人たちもがこの通りに集い、お祭りの雰囲気に陶酔する。そして世界は徐々に夜へと沈んでいく。
夜風は今日も涼しい風を運び、顔を撫でる。依頼から帰ってきた旅人たちはそれぞれの宿に戻り、この街の住民たちは自宅に帰る。夜の店を商う人たちはすでに店に入り、客をもてなしている。その声がどこかしこからも漏れ、街灯を揺らす。
私たちは休める場所として、この通りを抜けた先にある、高台となっている広場へと向かう。人は少なく、静かな空気の音だけがそこに響く。街を少しだけ見渡せる位置のベンチに座り、私は尋に話しかけた。
「今日の依頼はどうだった? 疲れたよね。尋もすごく親身になって探してたし」
「は、はい、そうですね。でも、まさか、透明になってるとは想像もつきませんでしたよ」
「正直私もまさかとは思ったよ。予想が当たって良かったよかった」
「――今日動いてみて、なんだか、人に押し付けられることよりも、すごく、頭がすっきりして動けた気がします。気持ちの持ち方が違う、という感じなのか分からないですが、自分の中で、達成感が違うというか、満足感が違う、みたいな」
「そっか。なるほど満足感ねぇ。確かに、今回は押し付けられたものじゃなくて、自分で助けたいって気持ちを持って動いてたからね」
「でも、今日考えたのはそれだけじゃないんです。なんだか、ロアン君の状況が、僕の最近の状況に結構似てるなって、思ったんです」
「確かに、そうかもしれないね」
「ロアン君もいろんなことを押し付けられて、しかも彼に至っては率先して背負っていたりもして、僕とは全然違くて、そんなロアン君がすごいなって、思ったりして……彼を助けたいって思っている人が傍にいて、でも頼れなくて。今回のように、人に頼るという選択を取れるようになるのが、成長する一つなのかなって思ったんです。まあ、僕にはそういう存在がいないし、この世界のように依頼を出すということも出来ないので、まずはその頼れる存在を探すところからかもしれないですけどね……」
流石は尋だろう。自身のことを省みて、解決策についても考えている。それが現実的に可能かどうかは別にして、理想だとしても、考えられている。そこまで考えられているのなら、もう少し客観的な視点を話せば、尋も心が楽になるのではないかと思った。
「流石尋だね。今日の一件でそこまで考えられるなんて、私には出来ないよ」
「いえ、あくまで考えだけでで、行動とか、そういうのに繋げないといけないんですよね……」
「まあそうだけど、考えているかどうかだけでも大事なことだよ。ちなみに、周りに相談できそうな人はいる?」
「多分、いない、かもしれないです……」
「そっか。でももしかしたら、今回のように気づいていないだけで、相談に乗ってくれそうな人は身近にいるかもしれないね」
この言葉は気休めではなく、過去の経験による言葉だ。最も、自身が経験したものではないが。
「そう、ですね。そこについてはもうちょっと振り返って考えてみます。――あの、アルマリアさん」
「ん?」
「本当に、ありがとうございます。こんな僕のことで、こんなにも考えて頂いて」
「いやいや、私は大したことはしてないよ。さて、明日はどうしようか。今日は頑張ったし、明日はのんびりと過ごす?」
「いえ、明日も、僕にできそうな依頼をやりましょう。やりたいんです」
「そっか、分かったよ。それじゃあ、明日もまたクエストカウンターに行こうか」
また明日も、少し先の一歩を探すために動いていく。今日の一歩を非常に大きく、毎回このような一歩は歩めないと思うが、それでも、少しでも尋が前に進むために出来ることをやっていく。私たちは少し夜景を堪能したのち、夜風に背中を押されながら、部屋に戻ったのだった。
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