第18話 頼れる人はすぐそばに
「はい、依頼通り、見つけたよ。多分、あの猫が君たちのご主人の猫だよね」
水鏡に映る猫を指さし、ロアンとモルガナに確認を取る。
「はい、間違いないです。ご主人様の猫です。でも、どうしてこの鏡に映った姿しか見えないんですか? 全く理解が追い付かなくて……」
ロアンは当然の疑問を質問する。私は状況から考えられることを出来るだけシンプルに話す。
「多分なんだけど、その猫の天性属性が水属性なんだと思うんだ。だから水に本能的に惹かれていて、川沿いによく来てたんだろうね。しかもちょうど成長期だったんだね。体と共に大きく成長していた時に、水魔法が制御しきれずに勝手に発動したんだよ。その猫の場合は、体を透明な水性体に変化させる魔法が勝手に発動したんだよ」
「な、なるほど……つまり、魔法の制御が出来ずに透明になってたってことですね、アルマリアさん」
「まあ、そうだね、尋。簡単に言うとそんな感じ。さらに言えば、今日みたいな霧雨の日は雨に馴染んでさらに見づらくなるから、肉眼で探すには最悪の日だったね」
猫は私が作った水鏡に気づき、鏡に近づいてきた。私は猫に触れ、水魔法の魔力の流れを綺麗に整えてやる。すると、徐々に猫の体は透明から元の体へと戻っていき、そして元通りに肉眼でも見える姿へと戻った。もとに戻った猫は、そのまま屋敷の方へと勝手に歩き出した。私たちも後を追い、屋敷の中に入っていった猫を見届けて、やっと完全な安心感を獲得した。
「よ、良かった……見つかってよかったです……まさかあの猫がそんな状態になっていたなんて、気付かなかったですよ」
「まあ普通は気づかないよ。でもまあ、ほんの数日でもしたらもとに戻ってたと思うよ。あの状態はそもそもそんな長時間続くものじゃないから」
「それでも、少しでも早い段階で見つかって良かったです……あの、アルマリアさん、尋さん、ありがとうございました。たくさんお礼をしたいんですけど、その、正直、高価なものとか、お金とか持ってなくて……」
「大丈夫だよ。ロアン君からお金は取らない。その代わり、今から話しを聴いてほしい。あくまで私の意見だけど、でも聞くだけ聞いてほしいんだ」
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
「モルガナから色々と聞いたんだ。ロアン君は色々と一人で頑張ろうとすることをね。確かに人に頼るより自分で動いた方が楽なのはすごく気持ちは分かる。でも、今回のように、一人じゃ絶対に解決できないことって、必ずあるんだよ。だから、絶対にやれってわけじゃないけど、これから何か困ったことがあったら、人に頼ることも選択肢に入れて良いんじゃないかなって、そう思う。君を助けてくれる人は、意外にも身近にいるんだよ」
私はモルガナの方を見る。モルガナは私の言葉に続けて、彼女の気持ちを表に出した。
「私は、ロアン君に助けられたばかりで、それで、その、私は、ロアン君の力になりたい、助けたいんだよ――」
モルガナはロアンの手を握り、気持ちをはっきりと伝えた。言った後に照れくさくなったのか、顔を背ける。ロアンは、そんなモルガナの姿をみて、なんて言えば良いのか迷っているような、複雑な表情をしながら、それでもしっかりと気持ちを話す。
「えっと、その……そうですね。僕も、そろそろ一人で何とかしなきゃいけないって思う癖を直そうと思うよ。すぐには無理だと思うけど、多分、モルガナさんと一緒なら、直していけると思う」
ロアンはそう言い、モルガナの手を握り返した。静かに見つめ合う二人の邪魔をしないように、私と尋は屋敷を後にしたのだった。帰り道の尋は、何か深く考え事をしているように、顎に指を添えてやや下を見て歩いていた。
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