第17話 頼れなかった少年は

 街の近くにある森の中を歩く私たち。綺麗に整備された道路は歩きやすく、霧雨の中を滑らずに歩くことが出来る。土とはまた違った地面の匂いを鼻で感じ取り、心が落ち着いていく。

 ロアンの先導で歩いた先に、その屋敷はあった。大きな3階建ての家屋に、玄関までの間にも小規模な庭園があり、白いベンチも要所に置いてある。


「今日は霧雨だし、ベンチで座るのは避けた方が良いかもね。お尻が濡れて恥ずかしい恰好になるから」

「そ、そうですね。僕もそれに関して思い出したくない思い出がいくつかあります……」

「嫌な思い出はむしろ笑い飛ばした方が気が楽だよ」

「そう、ですね。そうします」


 尋はそう言って、にやっと笑った。

 私たちは玄関前に着き、ロアンは少し俯きながら、私たちの方へと向き直る。


「あの、すみません、実は、外部の人が入るには、ご主人様の許可が無いダメなんです。それに、ご主人様が帰ってくるタイミングも分からなくて、もし、もしよかったら、まずは屋敷の外周りを一緒に探してもらえませんか? 霧雨で濡れちゃうと思うんですけど、あとでちゃんとご主人様に話して湯浴び出来るようにしますので!」

「そんな必死にならなくていいよロアン君。大丈夫、良いよ。私たち旅人は雨の日でも普通に外に出て旅するし、むしろ今日のような霧雨は心地いい天候なんだよ。尋は濡れない場所を中心に探してね」

「いえ、僕も外を探します。マントがあるので大丈夫です。それに、冷たいのは慣れてるので大丈夫なんです」


 尋が言う、慣れに至った経緯については非常に気になるところだが、今回はそこには突っ込まず、私たちはさっそく屋敷の周囲を探すことにした。迷路のような形をした花壇の間を歩き、塀の上やちょっとした隙間、綺麗に整った花壇の花々の間、主に見落としをしそうな隙間を重点的に探す。だが、どの隙間にも猫の姿はなかった。箒を使って屋敷の屋上に上り、そこにもいないか確認したが、姿は見当たらず、猫探しはさっそく行き詰った。ロアンは濡れた前髪から覗く濡れた目を落しながら、つぶやく。


「やっぱり、もうお屋敷にはいないのかな……あの、僕は少し近くの川沿いを見に行くので、アルマリアさんたちは、もう少し屋敷の敷地内の方をお願いして良いですか?」

「え、それなら一緒に……」


 ロアンに一緒に探すことを提案しようとしたが、すでにロアンは川沿いの方に走って行ってしまい、こちらの声を聴いていなかった。すぐに追いかけようとしたが、それはある男性の声によって阻止された。


「おや、これはこれは怪しい旅人がお二人もいらっしゃいましたか」


 品のある声が聞こえ、振り返ると、そこには見るからに上質な素材が使われた、防水マントを羽織った男性が立っていた。男性は私たちのことを怪しい旅人と表現していたが、その表情は柔らかくにやけており、明らかに警戒している様子が無い。


「あ、えっと、ごめんなさい!」

「そんな勢いよく謝らなくても良いよ尋。多分この人はこの屋敷のご主人様、だと思う」

「その通りでございますよ、お嬢さん。さて、ひとまずは屋敷に上がってください。その様子だと、私のかわいい猫は見つからなかったでしょうね。なに、もう数日も給仕たちに探させたのです。ここ周辺で見つからないのは仕方ないのですよ。さあ、霧雨で体が冷えない内にお入りください」


 そういって、屋敷のご主人様は自ら玄関を開け、私たちを招き入れた。貴族と聞いており、今まで出会ってきた貴族とはまた違った雰囲気で、正直戸惑ったが、表は焦らず、その招きに応じた。玄関では高齢の執事と思われる人物が待っており、屋敷のご主人の召し物を預かり、そのご主人に下がるように言われ、そのまま部屋に消えていく。


「さあ、私の部屋に案内しましょう」


 そのご主人が先頭に立ち、部屋へと案内する。その部屋は落ち着いた色の家具が綺麗に整頓され、美麗な絵画が壁にかかっている。中央には丸いテーブルが置いてあり、椅子が3つ設置されていた。


「さて、君たちがこの屋敷に来た理由は大体予測はついている。ロアン君から依頼を受けたんだろう」

「ええ、そうですね。あなたの召使から依頼を受けて、あなたの飼い猫を探しに来ました。どうやら数日も姿が見えないようで、大層ご主人様が焦っていると伺ったので」

「そうか。まあそれは間違っていない。私はあの猫がいなくなって、心が寂しくてたまらなくなったのだ。幼児のように退行して泣きわめたくなるほどにね」

「普通はその役目って、最後に世話をしていた召使君が負うべき責だと思うのですけれど、なぜロアン君にその重責を課したのですか?」

「何故、か。その答えはもうここに存在している。正直、君たちがこの屋敷に来た時点で私がロアン君に期待した動きをしてくれたのだよ」

「……それって、つまり、ロアン君が誰かに依頼をすることを期待していたってことですか?」

「そうだ。私はロアン君が誰かに頼ることを期待したのだよ。私は貴族だが、恐らくは珍しいタイプだろうな。ただの奴隷商から買った召使たちだが、私は彼らをちゃんと理解しようとしてるのだよ」

「り、理解、ですか?」

「そう。私は人を理解することが好きでね。完全な理解は出来ずとも、それを目指したくなるのだよ。最近特に目立った召使が、ロアン君だったのだよ。私に仕えている少年たちの中で最も新しく買った奴隷だ」

「奴隷売買の話しはあまり好きではないですね。まだ続きます?」

「いやいや、そう長くないよ。彼は、寡黙に仕事をする子だった。だが、そのせいで傲慢な召使たちに色々と押し付けられてしまうようだった。だから、私は彼に誰かに頼ることを知ってほしかったのだよ」

「随分荒っぽいやり方ですね。ロアン君は追放されてしまうと怯えてましたよ。居場所がなくなると不安になっていましたよ」

「いやはや、そこまで我が屋敷から追放されることに不安を覚えてくれて私は嬉しいのだよ。普通の貴族の奴隷給仕少年たちは、劣悪な環境だから勝手に出て行ってまた奴隷商に拾われて買われてというサイクルを繰り返すものだがね」

「なるほど。つまりはこの屋敷での扱いはそう悪いものではない、とロアン君は思っているってことなんですね。まあ、確かにあなたは貴族としては親しみやすいし、他人を見下しているような感じはしないでけど」

「そうだろう。自分が思うに、貴族というのは生まれつきの地位だけであって、私の性格ではないのだよ。というより、貴族という地位に性格まで影響されたくないと思っているのだよ。さて、少しお茶の時間にしようか。少し話して喉が渇いただろう」


 そう言ってご主人は手をかざす。すると、カップとポッドがどこかしこから宙に浮きながらテーブルまでやってきて、紅茶を入れる。紅茶からは心地よい香りが流れてきて、鼻が幸せになる。

 ご主人と私たちは1口2口紅茶を喉に流し、そしてそのご主人は話を続ける。


「ロアン君が依頼を出したところまでは私の想定通りだ。後は、君たちがロアン君の依頼を完遂してくれるかどうかにかかってる。完遂すれば、ロアン君は人に頼ることを覚えてくれるだろう。もし失敗したら、彼はより一層、人に頼ることはなくなる。私の知らないところで体を壊してしまうだろう」

「もちろん、私たちもロアン君からもらった依頼は成し遂げるつもりです。だからこそ伺いたいんです。あなたの猫の特徴を。どんな場所を好んで、いつもはどこにいるのかとかを、聴きたいんです」

「そうだろうね。少なくとも私があの飼い猫を見る時は私の部屋以外にいない。つまりこの部屋にいないとなれば、彼女のお気に入りの場所は他に知らないと言うことになる」

「……えっと、すみません、つまり、分からない、ということですよね?」

「そうなる。なので、手がかりを聞くなら私の奴隷給仕少年たちに聞くのが早いのだよ。彼らは今は掃除をしているはずだ。なので、君たちはこの屋敷を自由に散策することを許可するよ。フロアの地図が必要なら執事に言いなさい。私に聞いても良いが、私が説明するとフロアごとのこだわりを話して日が暮れてしまうだろうね。君たちが良ければ屋敷の部屋に泊まってもいいがね。君たち旅人は沼の中で爆睡出来るのだろう?」

「それは爆睡してるのでなくて永眠しているだけです。分かりました。それでは私たちは給仕の少年たちに聞いていきます。宿泊については、そうですね。どうしても今日中に見つからないようならまたお話しします」

「よろしい。では頼んだよ」「


 そうして私たちは椅子から立ち上がり、ドアへと向かう。部屋から出る直前、そのご主人は一つ付け加えるように話す。


「――ああそうだ。見つかった時はロアン君の報酬とは別に、私からも報酬を出すから、期待しておいてくれよ」


 私は会釈だけして、部屋を後にした。

 私たちは屋敷の中を探すことにした。恐らくはいないと思うが、なにか痕跡がないかどうかも見たかったからだ。だが、1階の隙間という隙間も目を通してみたが、猫の毛1本も見つからない。私たちは2階に上がり、そのフロアを探すことにした。

 2階に上がると、廊下に3人の少年が居た。片手にモップや箒、雑巾を持った少年たちは、だるそうに壁に寄りかかって談笑している。


「アルマリアさん、もしかしてあのちょっと不真面目そうな彼らが奴隷給仕少年たち、でしょうか」

「多分そうだね。何か知ってるかもしれないし、話しを聴いてみようか」


 私たちは少年たちに歩み寄る。私たちに気づいた少年たちは、少し驚いたが取り乱すことはなかった。


「あんたら、この屋敷に盗みに入っても何も高価なものはないぜ。ここのご主人は貴族だけど意外に高価なものは置かない主義なんだよ」


 どうやら盗賊と間違われたようだ。口ぶりからしてよく盗賊が入り込むようだ。


「私にはここに置いてあるものはどれもそれなりの値段しそうに見えるけどね。まあそもそも私たちは盗賊でもないよ」

「そ、そうなんだよ。僕たちは、ロアン君の依頼で、君たちのご主人様の猫を探しに来たんだ。何か知ってることがあったら、教えてほしいな、なんて」

「ご主人さまの猫の事? なんでそんなことあんたたちに話さないといけないんだよ」


 少年たちのリーダー格と思われる少年が、箒を肩に乗せて言う。明らかに迷惑がっている表情で私たちを見ていた。


「そもそも俺たちもご主人さまの猫がいなくなったのはご主人様と同じ時期に気づいたんだ。最後に世話してたのは誰か知らないけど、でも俺たちよりも先にいなくなったことを知ってたのはロアンだった。だから猫がいなくなったのはあいつのせいさ。なあ、そうだよな」

「あ、う、うん、そうだね」


 リーダー格の少年は取り巻きの少年の一人に同意を求め、その少年はとっさに同調する。どうやらこのリーダー格の少年が、ロアンに飼い猫失踪の責任を押し付けたようだ。


「分かったよ。それじゃあ、お仕事の邪魔してごめんね」

「ちょっと待てよ。あんたら、ロアンから依頼があったから探してるって言ってたけどさ。探しても見つからないんじゃない? わざわざ見つからない猫を探しても意味ないって」

「ふうん。まあそうかもしれないね。でも、私は人から依頼を受けて自分の判断で受けるって決めたら、どんな結果になろうとも行動するタイプなんだ。見つからないってことをはっきりと、依頼者と認め合って、そこで初めて見つからないねってするんだ。まだそれをするには早すぎるから、私たちは探すよ。お邪魔しました」


 私と尋はそうそうにその少年たちから離れた。背後からは舌打ちする音が聞こえたが無視して、フロアを上がる。廊下を見ると、このフロアには給仕の少年はいないようだ。静かな廊下が長く続いている。


「尋、気を取り直して、ここもなにかないか探そうか」

「そうですね。探しましょう」


 そうして少しの間、この廊下に猫が隠れていないかを確認することにした。置物の裏やちょっとした隙間、普通では細かく見ないようなところを見たが、やはり猫はいない。その時、背後から女の子の声が聞こえた。


「あの、もしかして、ご主人さまの猫を探してる旅人さんたちですか?」


 声のした方を見ると、そこにはメイド姿の少女が一人、掃除用具を手にもってそこに立っていた。


「こんにちは。そうだね、ここの給仕のロアン君から依頼を受けたんだ。ご主人様の猫は随分分かくれんぼが好きなようで、みんな苦労してるみたいだね。私たちも見つけるのに苦労してるよ」

「あはは……でも、そっか、ロアン君、他人に頼れたんだ。よかった」

「ロアン君、すごい勢いでしたよ。ギルドに駆けこんで、依頼をしたいんですって真剣なまなざしで受付嬢さんに話してました。その真剣な様子を見て、助けたいって思ったんです」

「そうだったんですね……あ、すみません、私はモルガナと申します」

「私はアルマリア。この子は尋って名前だよ」

「どうも」

「あの、猫は見つかりそうですか?」

「まだこれと言って手がかりも見つかっていないね。そもそも屋敷の君たちも探しただろうし、それで見つからないんだから、簡単には見つからないと思う」

「そう、ですよね……。でも、このまま見つからなかったら、ロアン君は、この屋敷を追放されてしまうんです。私は、ロアン君がいなくなるのは嫌なんです……その、だから……」

「まあ保障は出来ないけど、全力で探す手伝いをするから」


 この少女は先ほどの少年たちとは違い、ロアンを気にかけているようだった。少女は手に持っていた掃除用具を一度端に置く。


「さっき別の少年たちにも話を聞いたよ。なんかまあ、あまり協力的じゃなかったけどね」

「ああ、あの人たちですよね。全く、あの人たちはひどいんです。面倒なことはほとんどロアン君に押し付けて、ロアン君はロアン君で、それらを簡単に受け入れてしまうし、見ていても辛いんですよね。私も手伝おうとするんですけど、大丈夫だって言って、拒否されてしまうんです。逆にロアン君は私の仕事も手伝ってくれて、私も大丈夫だって言って仕事するんですけど、気付いたら色々とやってくれてたりして、なんだか他人にばかり動いている子なんです」

「受け入れてしまうのと、他人に対して色々と動く、ねぇ」


 私は尋をちらりと見る。尋は表情変えずに少女の話しに耳を傾けていた。


「今回のご主人様の猫の騒動は私も絶対に手伝うんだって、そう決めてたんです。だから、旅人さんたちと一緒に探させてください!」

「それはありがたいね。それじゃあさっそくなんだけど、その飼い猫についてなにか知ってることがあったら、何でも教えてほしい。なにか手がかりが掴めるかもしれないからね」

「そうですねぇ。あの猫は、実はよくふらっと外に出ていくんです。巧みに窓を開けて、外に出るんです。私もあんなふうに器用になれればと思うんですけどね。それで、よく川沿いに寝ているんです。気持ちよさそうというか、恋焦がれた様子で」

「恋焦がれてるっていい表現だね。猫が川に恋をしてるなら、それはそれで不思議が深まるけど、具体的にはどんな感じなの?」

「じっと川を見つめてるんです。しっぽをゆっくりと揺らして。なんだか、その姿が、恋をしてる自分に似てる気がして、私までもその猫をじっと遠くから眺めてしまうんです」


 モルガナはもじもじと手をこすり、少し照れる。どうやらモルガナは恋しているらしく、猫の所作が自分と重なるようだ。メイド姿も相まって、照れている姿はとても可愛らしい。


「それで、その猫のお気に入りの場所は探したんだよね?」

「はい。それでも、探した時は足跡があったんですけど、姿は見えなくて、周辺を探したんですけど、その時は結局見つからなかったんですよね」

「足跡だけ残ってたね。その足跡は、湿ってた?」

「え? あ、そういえば、そうですね。湿ってた気がします。ただ、川で遊んだのかと思いましたけど」

「まあ、普通はそう考えるよね。ちなみに、その猫は水遊びは好きな方だった?」

「えーっと、流石に好きかどうかまでは……」

「そっか。そうだよね、ごめん」

「いえいえ。それに、その飼い猫のお気に入りの場所はそこだけじゃないんですよね。屋敷にもそういうお気に入りの場所は多くて、でも、ロアン君が探していないところを探したんですけど、見つからなかったんです。そこに一度でもいれば、毛が落ちてたりするんですけど、毛も落ちてなかったんです」

「そうなんだよね。君たち給仕の子たちが掃除をしているなら、普段掃除しないような場所で、一度猫がそこにいれば、毛くらいあるかなって思ったんだけど、落ちてないんだよね。つまり、少なくとも屋敷の隙間とかには移動していないんじゃないかなって思ってる」

「な、なるほど。アルマリアさんはそういう視点で探してたんですね」

「そんな大したものじゃないよ。でも、そうなるとやっぱり外を探すしかないし、もう屋敷近くにはいなくて遠いところに行ってしまってるかも」


 そう言うと、モルガナは寂しい表情を浮かべて言う。


「もしかして、自分が生まれた場所に行っちゃったのかも」

「飼い猫が生まれた場所? この屋敷がそうじゃないってこと?」

「そうなんです。実は、あの飼い猫はご主人様が野良の時に見つけて拾って来たんです。ウェサニアでお仕事がある時の帰り道に、足元で餌をもらおうとすり寄ってきたみたいで、その姿に一目ぼれしたご主人様が持ち帰ったんです」

「へえ、屋敷の主人はかわいいものに目がないみたいだね。いや、ただ癒されたい欲求があるだけかな」

「た、多分両方の理由はあるかもですね。拾ってきた後はとても溺愛していましたからね。本当ならお世話もご自身でやりたいみたいなんですけど、どうしてもお仕事があると、お世話は給仕係の私たちが担当することになるんです」

「なるほどね。それで、輪番でお世話をすることになったんだ」

「そうなんです。でも、拾ってきた当時はどう見ても子猫なくらい小さかったんですけど、もうあっという間に成長してましたね。前は片手で持ち上げられたのに、最近ではもう両手じゃないと持てないくらい大きくなりましたから」

「結構成長も早かったんだね」

「そうなんです。ごはんはいつも定量を上げてたので、単純に太ったわけじゃないとは思うんですけどね。あ、あと、最近はなんか、水面に触れてるような、触るとひんやりと冷たかったり、少し湿ってたりしてましたね。まあその時から川沿いに行くようになっていたので、その水しぶきを浴びてたのかもしれないですけど」


 モルガナのその言葉で、私は一つの可能性にピンとひらめきを感じた。頭脳派ではない私が久しぶりの頭の回転が回った感覚に気持ちよさを覚えながら、私は頭にひらめいた可能性を整理し、それを実演するため、二人に言った。


「多分、分かったよ。ロアン君を呼びに行こう」

「え? あの、分かったって、一体何が分かったんですか? アルマリアさん」

「猫の居場所、というか、見つからなかった理由、かな」

「見つからなかった理由、ですか? なにか見落としがあったとかですかね?」


「ううん、そうじゃない。生きとし生けるものに必ず魔力の泉が宿るんだ。だから、人間だけじゃなくて、植物、動物、万物に魔力が宿るんだよ。意識して扱うのは人間がほとんどだけど、動物だって魔法を扱わないわけじゃない。多分、今回見つからなかった理由はこれなんだよ。モルガナちゃん、その猫のお気に入りの川沿いに案内して。多分、ロアンもそこで猫を探してるはず」

「わ、分かりました」


 私たちは屋敷を出て、猫のお気に入りとされる川沿いへ行く。やはりロアンはそこに居て、茂みの中をかき分けていた。


「あ、アルマリアさん達と、モルガナさん……。あの、屋敷の方にはやはりいなかった、ですよね……」

「そうだね。屋敷の方は見た限りいなかった。ロアン君の方はどう?」

「こっちも見つからなかったです……ただ、なんとなく、この辺にいるんじゃないかって、感覚ではあるんですけど、でもそれもしょせん自分が勝手に感じてる希望なだけですよね……はあ、一体どこにいるんだろう。追放されるのは嫌だけど、見つからずにこのまま終わるのが一番嫌だよ。ごはん食べてないかもしれないし、寂しくしてるかもしれないし、なによりご主人様が悲しむのが嫌だよ……」

「ロアン君……」

「大丈夫。ロアン君が感じてた直感は、多分希望的観測だけじゃない。良い感覚を持ってると思うよ」

「それって、ここのどこかに飼い猫がいるってことですか? でも、一体どこに?」

「こっちに来て。皆に見えるように準備する」


 ロアンたちが私の隣に来るのを確認して、私は水魔法で大きな水鏡を作り、自分たちの前にセットする。そして、その水鏡を通して後ろを見ると、そこには一匹の猫が居た。その猫はあくびをしてしっぽを揺らめかせていた。その猫のしっぽは、ロアンの言っていたリボンが付いていた。私たちが探していた猫は、そこにいたのだった。

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