第15話 クエストスタート
曇天に落ちる霧雨。少し冷える今日は幸先悪い予感を感じさせる嫌な天気だった。小さな雨粒が顔に当たり、少しずつ体を冷やしていく。
私と尋は昨日話した通り、今日から依頼、クエストを受注して活動をしていくことになっていた。こんな天気の中、私と尋は霧雨の霧を切り抜けて、あの大きくて立派な旅人ギルドの建物へと入っていく。天気は崩れているが、今日もギルドには旅人でにぎわっていた。受付で案内をする声や旅人同士でチームに誘う声が響き、活気にあふれている。
私は案内板を探し、クエストカウンターの場所を目指す。そこは食堂と同じ2階フロアの広い場所だった。大きなクエストボードがいくつも並び、今日も多くのクエストを紹介していた。今日は雨だからか、そこまで多くの旅人が稼ぎのために裏がる様子はなく、エントランスほどの賑わいはなかった。むしろ食堂からの雑音の方が大きいくらいだ。
「さて、ここがこのギルドのクエストカウンター、依頼受付所だね。なにか気になるものがあれば教えて。といっても、戦闘系以外の方が良いし、どうせなら人が関わるようなものが良いと思うけどね」
「は、はい。分かりました。でも、この場所の雰囲気も良いですね。こういうところはゲームとかでしか知らなかったので、とても興奮します!」
「なんか、尋にとってはこの世界のことなんでも感動しそうだね。私たちはこれが日常で、仕事で生活の一部だったから、これが当たり前の光景なんだよね。でもまあ、尋のような気持ちは大事だよね。何気ない事について感動できる気持ち」
「そ、そんな立派なものじゃないですよ。それを言うなら、多分アルマリアさんが僕の故郷に来たら色々と感動しますよ。ここには全くない景色ですから」
「そう、なのかな。多分私は空がきれいならどこでも感動できる自信あるよ。たとえ大地が荒廃してたとしてもね」
私たちはそんな会話をしながら、ボードに目を通す。だが、今貼ってあるものは大体、素材集め系か魔物討伐系、護衛系などの戦闘と採取が主なものだ。荷物運びとか、安全に人と話す機会がありそうなものは、今のボードには貼っていなかった。ボードから探すことは諦めて、カウンターの受付嬢へと声をかけた。
「あの、すみません」
「はい、ようこそ旅人さん。なにか依頼をお探しですね。それもボードに貼ってないようなもので。ボードを喰いるように見ていたのを拝見していましたよ。実は、ここのギルドのクエストボードは戦闘系のものが多いんです。だから、そこにないクエストとなったら、大体は私たち受付嬢の手元にある、こういう非戦闘系クエストが多くなるんです」
受付嬢が見せるクエストの束は、どれも者やペットなどの探し物系がほとんどだった。
「鉱石系の素材回収に落とし物回収、人探しに恋愛相談……」
「さ、流石に恋愛相談は出来ないですよ。恋人居たことないですし」
「大丈夫、私も相談は得意じゃないんだ。まあこういうのはアドバイスとかじゃなくて話聞いて思ったこと話す程度で良いのが多いイメージだけど、触らぬ神に祟りなしって、和の里の言葉にもあるから、今回は遠慮しておこう」
そう言って、次のクエストの候補を見ようとしたとき、隣に尋よりも小さな子供が、カウンターの上に顔を出した。その少年は、前髪が左目にかかり、茶色の髪がかかっていない果物のオレンジのような橙色の右目は、虚ろで今にも溜まった涙が溢れ泣き出しそうなほど潤っていた。
「あの! 依頼を、出したいんです」
「あ、はい! それじゃあ少年君、どんな依頼を出したいのかな?」
「えっと、僕のご主人様の大切な猫が、いなくなってしまって、探してほしいんです。黒猫で、しっぽに赤色のリボンが付いているんです」
「そうなんですね。それじゃあ、書類を渡すから、旅人さんも分かるように書いて……」
「早くしないと探さないといけないんです!」
少年は不意に大声を出す。すぐさま「ごめんなさい」と謝り、受付嬢から関係書類を受けとり、テーブルにとぼとぼと歩く少年。その姿はとても切ないものがあった。
「あの、アルマリアさん」
「うん、尋の言いたいことはもう分かるよ」
尋は私に真っすぐな目を向ける。澄んだ空色の瞳で見つめられるのはとても心地よい。私は少年を呼び止め、しゃがんで少年と同じ目線にして、そして言った。
「ねえ、良かったら、話しを聴かせてくれないかな。旅人として、君の依頼を受けたいんだ」
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