第10話 逃走戦
夢心地は快晴。雲一つない空は今日の旅路を照らしている。尋と語り合ってから1日が経ち、位置的にも都街に一番近い村に泊まっていた。このまま歩いていけば今日の午後には到着するだろう。私たちは村の出入口に立ち、伸びをして体を起こす。
「さて、そろそろ行こうか。多分今日の午後くらいには着くと思うから、あと少し頑張っていこ」
「は、はい。よろしくお願いします」
そうして、私たちは街道を歩き始めた。この一帯は森林区域が多く、街道沿いもいくつかの林を抜けていくことになる。魔物の被害もそういう見通しの悪いところで起きることが多いので、一段と気を付けていかないといけない。いつもなら飛んでいくが、尋がいる今、警戒しないといけない。いつもよりも気を引き締め、整備された道を歩く。
「あの、アルマリアさん」
「どうしたの、喉乾いた?」
「い、いえ。その、今日着く予定の都街ってどんなところかなって思って」
「うーん。名前はウェサニアっていうところで、まあ特別な街ってところでもないね。正直私もそんな詳しく知ってるわけでもないから、あまり分からないけど、それなりに大きめの都街かな。地区によって治安の良し悪しがあるけど、安全な地区も多いって話し、旅人の間では有名かな」
今回向かっている都街はあまり入ったことはない所だ。だが、たいてい大きな都街には旅人ギルドも大きくて、それなりの支援を受けられる。尋が生活する場所としてはそういう色々と充実しているところの方が良いだろう。幸いギルド支部がある地区は治安も良い方と聞いてこともある。そこで尋のこれからについて考えた方が良いだろう。
そうしてしばらくは都街ウェサニアに向かう街道を歩いていた。今日も風が木々を揺らし、鳥たちの歌が風に乗って聞こえてくる平和の旅だった。だが、平原から林へと入る入り口が見えたあたりから、どこからか、視線をずっと感じ始めた。後ろを見ると、フードをかぶり俯いている人たちが5人見えた。腰には長剣、背中の方には恐らく矢筒を背負っているように見え、戦闘をするための、それなりな装備をしていた。普通の旅人とは思えなかった私は、尋に小声で話す。
「尋、そのまま話を聞いて。後ろに約5人、怪しい人たちがいる。今から尋に風魔法をかけて速く走れるようにするから、少し早く移動しよう」
「あ、えっと、分かりました。……何もないと良いですね」
「本当にね……じゃあ行くよ!」
尋に風魔法をかける。尋はふわっと髪が靡き、私は尋の背中を強く押した。その瞬間に、後ろの怪しい人たちが、駆け出してきた。彼らの顔はフードの他にスカーフで口元を隠していたため、顔が目元以外はほとんど見えない。だが、その目線は明らかに私たちを捉えていた。そして、怪しい輩たちは短弓を構え、矢を放ってきた。
「尋、全力で走って!」
「は、はい!」
尋は風魔法のおかげで通常よりも相当速く移動していく。私は風魔法の壁を作り、矢を弾きながら、氷魔法のナイフを発射して牽制した。敵の男たちは軽くいなし、駆けてくる。その姿を私たちも捉えながら、林の中に入っていった。
林の中に入った途端、木の上からも襲撃を受けた。どうやら林の中で待ち伏せをしていたようだ。しかもその攻撃の標的は尋だった。木から落下しながら長剣を振るおうと5人の輩が長剣を構える。私は魔法壁を尋の周囲に展開して敵の初撃をなんとか防ぎ、そのまま風魔法の拳をいくつか作り、5人の輩たちを弾いた。輩たちは弾かれるが地面に背中がつく前に受け身を取り、体勢を整えて木の影に再び隠れる。
「尋! そのまま止まらないで走って!」
「は、はい!」
(こいつら、戦闘慣れしてる)
直感でそう感じた。前に戦った盗賊や人さらいの雑魚たちとは比較にならないくらいの慣れがあると。
後方から来ていた5人の敵も私たちに追いつく。長剣を持つ輩と弓を持った輩で遠近の役割分担をしているようだ。しかも、長剣を持った輩は他にも魔具を使っているのか、移動速度が速く、尋と私の箒の速度にも追い付いてくる。振り下ろされる剣を私は水魔法の盾で受け止め、風魔法の小鳥で体当たりを喰らわせる。続けて地魔法で道に壁を作り、牽制した。すぐさま尋の方へ近づき、林の中から襲撃してくる敵の攻撃に対応していく。敵は恐らく風魔法の宿った魔具を身に着けているのだろう。軽やかに飛び跳ね、素早く走り、攻撃後の隙をなくすように木々の影に出たり入ったりを繰り返しながら、私と尋のことを狙ってくる。こちらも負けじと風魔法で暴風を巻き起こし、氷魔法の氷塊を放り、雷魔法の小鳥たちで追撃をした。だが、どれも有効打にならず、敵は魔法の躱し、長剣を使って防いでいた。
尋を守りながらの戦闘はかなり厳しく、今のところは何とかなっているがこの状況が続くのは非常にまずい。流石に人を守りながら多人数の波状攻撃を裁くほどの余裕は、本当はない。それでもなんとか戦えているのは、恐らくこいつらは私たちを殺すことを目的にしていないからだろう。何が目的であれ、こいつらの良いように状況を運ぶのは危険だと思った。
(とにかく林を抜けて一気に距離を離さないとやられる。攻撃を防ぐので手一杯だ)
そう考えていた矢先に、奥の方が徐々に開け、林の出口が見えた。ひとまず林を抜ければ敵の隠れる場所はなくなる。そうすれば戦略の選択肢は減るため、こちらも反撃を伺いやすくなる。私は尋に叫んだ。
「あと少しで林を抜けるよ! 頑張って!」
「は、はい!」
尋はそう言い、飛ぶようにして少しスピードを上げる。私もより一層防御を意識した魔法展開をして敵の攻撃を防いでいく。その時に気づいたが、後方から来ていた奴らはいつの間にか見えなくなっていた。
そして、周囲の木がまばらになり、再び平原の街道へと出た。見晴らしが一気に解放され、晴天が街道を照らす。
しかし、林を抜けてすぐ、前方の街道が爆発した。小規模ではあったが、それは私たちを足止めするのに十分すぎる効果を発揮した。私は箒に急ブレーキをかけ、尋の前に風魔法の壁を瞬時に作り、爆発から尋を守る。風の魔法に衝突した尋はふんわりと風に乗りながら後方へ尻餅をついた。私もスピードを緩め、尋の傍で止まる。見ると、前方に奴らの仲間が5人、恐らく後ろから追ってきていた奴らだろう。長剣を構えて私たちに睨みを利かせていた。
(まあ、そりゃ先回りするよね)
そう時間も経たずに後方から5人、林で戦闘をしていた奴らも追い付き、全員で10人の敵に囲まれてしまった。私は箒から降りて、尋の腕を持って立たせる。
「あ……アルマリアさん……」
「尋は静かに」
一瞬の油断も出来ない緊張感でその場は支配された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます