第4話 疑いの目

 ブラッククロスの男は、不気味な笑顔を浮かべ、私たちに話しかける。言葉遣いは丁寧だが、圧を強く感じる言葉から、仲良くお話しをしに来ているわけではないことが分かる。


「どうしました? ナンパならもっと酔っぱらった人に行った方が成功するんじゃないんですか?」

「そうじゃねえんすよ。ちょっとそこの少年が気になったんです」

「その子? ああ、あなたはそっちの趣味の人でしたが。でも、残念ながら、その子はその気は全くないですよ。もっと他を当たった方が時間を無駄にしないと思います」

「そうじゃねえんですって。その子の服装、ちょっとこの世界の人の服じゃないって思ってね。どこの出身か聞きたいんですよ。なあ、少年、君はどこの出身だ?」

「あ……えっと、その……」


 当然ながら尋は怖がり、言葉がのどに詰まって窒息しそうだ。適当にこの場をやり過ごして宿に戻った方がいいかもしれない。


「その子は現世界の人間ですよ。見て分からないんですか?」

「ほう、現世界の人間」

「そう。現世界からこのくらいの少年たちが集団でここに来るのはよくあることでしょう。彼はその一行から逸れただけです」

「ふうん。なるほどね。だから、そういう集団が絶対に来ないであろう地域のこの村に、この少年がいたってことですか」

「そう。たったそれだけが真実。もう分かったら消えてくれます? そろそろ出るので」


 適当にあしらおうとしているのが分かったのか、男の口調は粗末なものに変わっていく。


「そうか。俺はてっきり、古代文明の文献にあった、異世界人かと思ったよ。さっきの盗賊たちが、気付いたら木の下で寝ていたって言ってな。本当に現世界の団体旅行者で、迷子だったんなら、そんなことするかと思ってな。一人で、荷物も持たず、木の下で寝てるなんてな」


 白々しい態度で話し、私を見下ろす。この様子だと、私の話しは信じていない様子だ。その古代文明の文献とやらは気になるが、こちらが質問しても詳しく答えないだろう。そもそも何故そんなことを気にしているのか分からないが、何かしらの目的はあるようだ。こういう時は逃げるのが一番良いと相場が決まっている。


「なぜあなたがその異世界人? について話しているか分からないけど、少なくとも私たちには関係ないし、そろそろ本当にどいてくれない? この村の自警団に助けを求めようかな。悪名高いブラッククロスに食事を脅かされたって」

「ふっ。まあ今回はこのくらいにしておきますか。また会うことになるかもしれないですね。旅人さん」


 そう言って、ブラッククロスの男は仲間たちのもとに戻り、盗賊たちと共に酒場を出ていく。尋の方を見ると、彼は完全に俯き、肩を縮ませていた。ああいう高圧的な人はとても苦手なのかもしれない。


「大丈夫だった? 尋。顔色がだいぶ悪いよ」

「あ、えっと、多分、大丈夫です……すごく威圧感がすごかったですね……」

「なんか嫌な感じだった。なんで異世界人を探しているの気になるし、尋のことをその異世界人と捉えてる。今日は気を付けないとまずいかもね。大丈夫、私がついてるから、安心して」

「は、はい。分かりました……すみません、なんか、会ったばかりなのに色々とお世話になってしまって」

「良いの良いの。こういうのは、旅は道連れ世は情けって、和の里でよく言われる言葉もあるから。じゃあ、そろそろ宿に戻ろうか」


 尋は頷き、私たちは酒場を後にした。夜は深まり、空は煌々と星々が輝く。そして、その一つに、青々とこの世界を照らす、地球の光も、はっきりと見えた。

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