第2話 異世界人

「まあ落ち着いてよ。大丈夫? 怪我とかはしてない?」


 盗賊たちを追い払い、私は少年に手を差し伸べる。少年は、怪訝な表情をしていたが、私の手をとって立ち上がる。少年の来ている服は、少なくともこの中世界ではあまり見ない服だったため、恐らくは中世界の住民ではないのかもしれない。


「す、すみません、急に質問をしてしまって……大丈夫です。助けていただきありがとうございます……」

「いえいえ。私はアルマリア。君の名前は?」

「僕は、津野瀬 尋(つのせ じん)です」

「じゃあ、尋って呼べばいいかな。一体何があって襲われてたの?」

「それが、僕にもよく分からないんです。ついさっきまで家の部屋で寝ていたんですけど、気が付いたら、ここにいたんです。そしたら、さきほどの人たちが襲ってきたんです。そもそも今ここにいる場所も、なにもかもが不思議で、多分、これは僕の夢の中なのかって、おもってるんですけど……」

「ふうん。じゃあ、尋は、現世界の人間ってことかな?」

「えっと、げん、せかい? その言葉は初めて聞きました。日本ではなくて?」

「――いや、分かったよ。とにかく言えることは、今いるここは夢の中じゃないってことかな。そうだな~、ひとまずここにずっといるのも危ないし、近くの村を探してそこで一旦休もうか。そろそろ日も暮れ始めるからさ」


 私はそう提案し、尋は頷く。箒は一人用なので、使うわけにいかない。今回は久しぶりに徒歩で村まで行くことになる。少し億劫だったが、仕方ない。このまま尋を置いていくのも気が引ける。私は街道に沿って歩き出し、尋は隣にくっついて歩く。尋は恐らくはこの星の人間ではないのかもしれない。じゃあ、どこの人間なのかと聞かれたら、分からないが、少なくとも、先ほどの反応からして、この中世界の人間でも、現世界の人間でもないだろう。元の世界に戻すにしても、全く見当がつかないため、誰かに聞く必要があるかもしれない。


(まあ、別に良いけど)


 どうやって動くかは、村に着いてから考えよう。


「それで、先ほどの質問の続きなんですけど」

「ああ、氷とかいろいろ出してたってやつ?」

「そうです。あれって、一体どういうことなんですか? まさか、本当に魔法とかだったり……?」

「そうだね。魔法だよ。君の世界にはない?」

「ないですよ! そもそも、そんな魔法なんて存在、創作物にしかなかったんです。夢の世界じゃないのなら、とてもすごいことですよ! いやあ、僕も使えるかな~そんなすごいことが出来るなんて、本当、この世界って、僕のいる日本じゃないってことですよね! そもそも、地球じゃないのかも? 僕も使えますかね!?」

「落ち着いて。うーん。尋が使えるかどうかは分からないや。そっか、尋のいたところは地球って世界なんだ」

「えっと、はい。あれ、ここは地球じゃないんですか?」

「少なくともそう呼んだことはないかな」

「そうなんだ。それじゃ、アルマリアさんは夢じゃないって言ってましたけど、やっぱりここは僕の夢なんですよ! そう考えることにします! なるほど、これがいわゆる明晰夢ってやつか~」

「まあ、尋がそう考えるのなら、それでもいいんじゃない?」


 地球。夜に輝く青い星の名前。まさかとは思うが、そこの星から来たのか。一体、どうやって、何を理由に。色々と推測が出来るが、そんな分析、正直私は得意ではない。深く考えるのは今はやめる。


「ねえ、さっきの魔法、もう一回見せてください!」

「随分元気になったね。見せるのは良いけどさ」

「だって、魔法ですよ! 今まで現実ではありえなかった魔法という存在が、目の前にあるんです! 興奮しますよ!」

「そういうものなんだね。それじゃあ、はい」


 私は水魔法で魚を形作り、尋の周りを泳がせた。続けて炎魔法で鳥を、地魔法で犬を形作り、尋の傍を歩かせる。先ほどまでの気弱な少年から、無邪気に喜ぶ少年になり、随分顔に活気が出ている。もしかしたら、さっきまで知らない世界にいて緊張もしていたのかもしれない。そうであれば、これで解れれば良いなと、心の中で思った。


「本当に夢みたいです! こんな非現実的だったものが、今、目の前にあるなんて!」

「そんなに感動してくれたなら良かったよ。ほら、そんなはしゃぐと転ぶよ」


 尋はずっと魔法に目を奪われていた。この分では、村に着くまでずっとそのまま感動していそうと思い、魔法で形作った動物たちを増やす。尋は、目をキラキラさせて、ずっと形作った動物たちに目を奪われていた。

そんなこんなで、時間は夕暮れ。私たちは、一番近くの村にたどり着いた。尋はその村の様子を見てまた色々と感動していたようだ。


(さて、これからどうしようかな)


 これからのことについて、全く思いつかない問題はとても頭を悩ませる。まずはこの村で休んでから、解決策を考えてくれそうな人たちに声をかけよう。そう考え、今日の宿の受付へと歩くのだった。

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