第15話
この三年間、『聖女』として激務に励む中、優しい婚約者――ルドウィンの存在は私の心の中で大きくなり、一種の拠り所のようになっていた。……思えば、私がいつも想っていたのは、心の中の『理想の婚約者』であり、自分で考えているほど、『現実のルドウィン』とは同じ時を過ごしていないのかもしれない。
そのようなことを考えながら、なんとなく日々を過ごすうちに、実家に戻ってから一週間が経った。
牧場の仕事にもすっかり慣れ、のんびりと、平穏な暮らしを送っていると、ほんの少し前まで自分が『聖女』として魔物たちと戦っていたことが、まるで夢か何かのように思えてくる。
……結局のところ、あんな、血で血を洗うような戦いの日々は、私には向いていなかったのだ。こうして、ゆったり、のんびり、草や土と戯れながら、牛や馬の世話をするのが、性に合っている。
牧場の仕事を手伝わなくていいと言っていた父さんも、なんだかんだ言って、私が積極的に家業に取り組む姿を見て、嬉しそうにしている。父さんとは色々あったが、今では良い関係だし、遅まきながら親孝行ができて、嬉しい限りだ。
そんなある日の朝。
ちょうど朝食が終わり、後片付けをしている頃、窓の外から、『ピイィ』と甲高い鳥の声が響いてきた。
この辺りでは、野鳥が家の近くで鳴くことなど珍しくもないので、兄さんも父さんも無反応だったが、私はハッとした。この、まるで笛が鳴るような独特の鳴き声……聖騎士団の伝令に使われる、特殊な鳥のものによく似ている。
食器を拭くのもそこそこに外に出ると、やはりと言うべきか、足に手紙をくくりつけられた伝令用の鳥が、静かに待機していた。私は「ご苦労様」と言ってから手紙を取り外し、広げてみる。
両方の手のひらに収まるほどの小さな手紙には、簡潔な文面で、こう書かれていた。
『後任の聖女はまるで使い物にならん役立たずだ。怪我人が山のように出て、大変なことになった。今すぐ戻ってこい』
……これほど短い文章の節々に、差出人の傲慢な性格がありありとあらわれており、署名など見なくても、あの現聖騎士団長官――エグバートのものだとよくわかる。
手紙の最後には聖騎士団の公用書類に使われる印鑑が押されており、この手紙を運んできたのも聖騎士団が飼育している伝令鳥なのだから、疑う余地もなく、この手紙は本物だろう。
『大変なことになった』って、私が聖女をクビになってから、まだ二週間ほどよね。たった二週間で、いったい何が……
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