第3話 とある竜の過去

〜プロローグ〜


サイド:ミトラスフィア


 どうも毎度お馴染みミトラスフィアです。

 今日は、上位竜の何人かと集まって雑談をしているぞ。

 最近の出来事、眷属退治、家族のことなど話題は尽きない。

 今の話題は、第十四位階 瞑想竜のムーンテスラの魔法で色んな奴の記憶を覗くことだ。

 他人の記憶を覗くのは楽しいが、あまり踏み込み過ぎてはいけない。

あくまでも本人が許す範囲でという条件で覗き見ている。

 俺はまだ体験していないが、記憶を見せる本人は夢を見ているように感じ、他人は自分が実際にその記憶を体験しているように感じるのだと言う。

まぁ、まだ何のこっちゃ分からねぇが………

 さっきまではマナリアが幼い頃の記憶を覗き見ていたが、可愛らしかった(小並感)。

 「次はミトラさん、どうです?」

と誘われたので俺も記憶を他人に覗かれるとするか…正直言ってこういうの好きじゃないのだが…。

 俺はあぐらをかいて壁にもたれかかった。

そのまま、ムーンテスラの魔法で段々と意識が無くなっていった。


〜第一章 とある竜の過去〜


サイド:幼き頃のミトラスフィア


 僕はミトラスフィア。

中位竜で、平安時代の終わりに生まれたまだ300歳くらいの子供です。

僕の家族もついでに紹介しとくね。

僕らは5人家族なんだ。

 僕と結界の姉ちゃんと盾の姉ちゃんと石の姉ちゃん、そして火の姉ちゃん。

僕らはみんな血が繋がってはいないんだけど、一緒に生活してる家族なんだ。

 ちなみに結界の姉ちゃんは魂の一人なんだ。他の姉ちゃん達も上位竜でとっても強いんだよ。

 姉ちゃん達は、親がいないひとりぼっちの僕を拾ってくれたんだ。

そして、一緒に人間達のために混沌の眷属を倒しているんだ。

もちろんそのために稽古だってつけて貰ってるんだよ。

 今日は結界の姉ちゃんに結界について教えてもらったりしたんだ。

 え?一番仲のいい姉ちゃんは誰かって?

それはもちろん火の姉ちゃんだよ!

いつも僕と遊んでくれたり、帰ってきたりした時に頭を撫でてくれるんだ。

 まぁ、今は眷属退治に出ていていないんだけどね。


〜第ニ章 不穏〜


 僕ら5人の家族は浜辺にある木造のほったて小屋に住んでいる。

意外と広い造りになっているが、しっかりと建てられているわけではないので、いつ崩れるか分からない。

外から見れば形もぐちゃぐちゃだ。

 周りには家もないし、人も滅多に来ない。

ごくたまに、釣り人が釣りをしにやってくるくらいで、この家には目もくれずに帰って行く。

 最も、中位竜である僕の姿を見られるわけにもいかず、ずっと昼は家で寝ているが……。

 とある日の早朝、眷属退治に出ていた石の姉ちゃんと火の姉ちゃんが帰ってきた。

 火の姉ちゃんは僕を見るなり、「ただいま〜、ミトラ〜」と抱きついてきて頭を撫でてくる。

意外と力が強くて苦しい。

 石の姉ちゃんにも挨拶をした後、僕らは海に魚を食べに行き、帰ってきては眠りについた。



夜になった頃、目が覚めた。

 居間に行くと4人の姉ちゃんが話をしていた。

 「最近、眷属が減ったと思いませんか?」

と、盾の姉ちゃんが言う。

 「確かに前よりは少ないと思うが、何かあるのだろうか」

「嵐の前の静けさってこと?」と他の姉ちゃんの意味深長な言葉を聞き取ったところで、

「ああ、ミトラ。起きたのですか」

盾の姉ちゃんが僕に気づいた。

 すると、結界の姉ちゃんが僕に言った。

 「おい、ガキ。今話していたんだが、最近眷属どもの様子がおかしい。気をつけろ」

 結界の姉ちゃんの口調が厳しいのはいつもの事だけど………

話している内容に少し嫌な予感がした。



〜第三章 悪夢〜


 それから3日後、それは突然やってきた。

何の前触れもなく…………。

いや、今考える前触れはあったのだろう。

 僕は、夕暮れ時に火の姉ちゃんと浜辺で追いかけっこをしていた。(もちろんただの追いかけっこではなく、翼を使った空中追いかけっこだが)

 そして、さぁ帰ろうと家に向かって歩き始めた時だった………。

 悪夢が始まったのだ!


 突然に僕たちの近くに現れたそいつは鬼のような形相でこっちをチラリと見た。

 体つきはがっしりしているように見えるそいつは、猫背で手を垂らしたまま、一歩踏み出した。

 すると、もう僕の目の前にいた!

一歩踏み込んで一瞬で距離を詰めてきたのだ。

まずい!殺される!

 すると火の姉ちゃんが僕を突き飛ばし、相手の攻撃を防御した。

 僕は一旦体勢を整えると、雷速で敵に殴りかかった。

 しかし、すんでのところで相手の手に弾かれた。

雷速を見切っただと……………!

 結界の姉ちゃん達も混沌の気配を感じたのか家から飛び出してやってきた。

 すると結界の姉ちゃんが言った。

「お前は下がっていろ!」

言われるがまま僕は下がり、姉ちゃん達にその場を任せる事にした。

4対1となり、圧倒的に有利な状況。

 しかも4人は歴戦を戦い抜いてきた上位竜。

負けることなど考えられなかった。


〜第四章 絶望〜


 敵の眷属(ここではその形相から"鬼"と呼ぶ事にする)は4人を前にして一度動きが止まった。

 すると無であるはずの空中から刀を取り出した。

取り出した本数は2本だった。

まさかの二刀流!

 両手に刀を持ち、相手は屈んだ。

すぐさま石の姉ちゃんの方に斬りかかった。

と同時に盾の姉ちゃんも石の姉ちゃんの前に立ち「絶対防壁[イージス]!」と透明なバリアを張る。

 絶対防壁[イージス]に鬼は刀を突き立てるが、破れはしない。

何度か攻撃してもそれは変わらなかった。

すると鬼は相手を変え、火の姉ちゃんの方に向かった。

 火の姉ちゃんも相手の斬撃交わしながら炎を纏った鉄拳食らわせる。

 後ろからも石の姉ちゃんが砂浜の砂を固めて石に変え、さらにそれに多量の魔力を込め、それを音速で叩きつける。

が、どちらも大して効果がないようだった。

 いや、効いてはいるが今一つ鋭い一撃とまではいかない攻撃だったのだろう。

 そこで、結界の姉ちゃんが長時間かけて作り上げた範囲型の結界が完成し、相手を弱体化させた。

 しかし、相手は怯まず、とうとう火の姉ちゃんに斬撃を当てた。

 火の姉ちゃんは一度距離を取り、傷口を熱して止血する。

 その間、鬼は石の姉ちゃんの方に目標を変えて突撃した。

 石の姉ちゃんは、地面から勢いよく棘を作り出し、鬼を串刺しにする。

 それでも、相手は止まらない。

 最終的に鬼は大きく飛び上がり、石の姉ちゃんの上に落ちた。

 その後、刀を石の姉ちゃんの胸に突き立てたのである。

 僕は恐怖を感じながら石の姉ちゃんの名を叫んだ!

「クレーツ姉ちゃん!!!」


〜第五章 無力〜

 

 鬼は石の姉ちゃんを殺した後、結界の姉ちゃんを狙った。

 結界の姉ちゃんは結界を作り出すために

時間を必要とする。

そのためすぐに鬼に向かっての攻撃ができない。

 それを嗅ぎ取られたのか、鬼は結界の姉ちゃんを狙い始めたのだ。

 すると、結界の姉ちゃんの前に盾の姉ちゃんが立ちはだかった。

「クレーツさんは殺されてしまいましたが、これ以上犠牲者は出させません!!」

と言い放ち、絶対防壁[イージス]を展開した。

 これで、盾の姉ちゃんと結界の姉ちゃんに手出しは出来なくなった。

 はずなのだが、何故か鬼は再び絶対防壁[イージス]に刀を突き立てた。

 火の姉ちゃんがすかさず背後を取り、業火で鬼を焼いていく。

 鬼は熱で苦しみながら悶えている。

が、その瞬間、僕は目を疑った。

絶対防壁[イージス]にヒビが入っているのだ。

 鬼が盾をこじ開けようとし、その後ろで火の姉ちゃんが鬼を燃やそうとしている。

 盾の姉ちゃんも必死になって絶対防壁[イージス]を展開しながら修復しようとしている。

言わば三つ巴のような状態になっている中で

、とうとう絶対防壁[イージス]が鬼によって破られてしまった!

 鈍いガラスが割れたような音を立てながら絶対防壁[イージス]は消えていった。

 「馬鹿な、絶対防壁[イージス]を破るなんて!なんて奴なんだ!!」と僕は驚きを隠せずに叫んだ。

 絶対防壁[イージス]が消え、盾の姉ちゃんの一瞬の隙をついて鬼が刀を振った。

と、同時に盾の姉ちゃんの首が落ちた。

 前代未聞だ………たった一体で上位竜の二人を一気に葬ったのだ。

 僕はもう涙を流して盾の姉ちゃんの名前を呼んだ!

「シルレラルド姉ちゃん!」



〜第六章 哀傷〜


 盾の姉ちゃんが鬼によって倒された後、鬼は後ろから業火を浴びせてきていた火の姉ちゃんを狙うようだった。

 そこで、ようやく結界の姉ちゃんの攻撃用結界が完成し、鬼に対して光線のようにして放った。

 すると、鬼の左腕に直撃し、腕はちぎれ飛んだ。

 鬼の腕は一本だけとなった。

これだけでも、大分火の姉ちゃんは楽になるはずだ。

 これほどの強さをもつ鬼は、回復にも時間がかかる。

 片手しか使えない今が攻めるチャンスのはず……。

 なのに、奴の体は攻撃を通しもせず、少しも怯む動作も見せない。

 火の姉ちゃんは、拳を燃やしながら必死に交戦している。

 それに比べて自分はどうか……何もしていない。

 鬼に数発、落雷させる事はできるが、それだと火の姉ちゃんまで巻き添えになる。

最も、鬼に落雷が効くのかすら怪しい。

 何かやろうとしても何もできない状態に僕は涙を飲んだ。

 と、その時鬼の振った刀が火の姉ちゃんの左腕を切り落とした。

 鬼、そして火の姉ちゃんはお互いに腕が一本ずつとなった。

 姉ちゃんは一瞬で身を焼き止血すると、次の一撃を入れようと鬼に急接近する。

 火の姉ちゃんは華麗に斬撃を躱しながら確実に一撃を入れていく。

 鬼にもダメージが溜まってきているのか、戦闘開始時のようなキレがない。

 もしかしたら倒せるかもしれない。

倒して石の姉ちゃんと盾の姉ちゃんを弔ってあげたい。

 残されたそんな希望を打ち砕くように、鬼は火の姉ちゃんの左足を膝のあたりで斬り落とした。

 もう火の姉ちゃんは鬼の攻撃から逃げられない。

 鬼は刀を火の姉ちゃんの腹に突き刺した。

 火の姉ちゃんの叫び声が辺り一面に木霊する。

 そして、火の姉ちゃんは残された最後の力を振り絞るかのように叫んだ。

「トルーナ!!ミトラを連れて逃げて!!」

 すると結界の姉ちゃんがこちらに凄いスピードで走ってきて、僕を抱き抱えた。

 そして、転移結界を起動させた。

 瞬時に火の姉ちゃんを見捨てるということを察した僕は、助かる筈もないのに思いっきり火の姉ちゃんの名前を叫んだ。

「フレイト姉ちゃーーん!!!!!!!!」

「生き延びて!!!ミトラ!!!!」

という声が聞こえたところで、僕らは転移した。


 

 人間が周りにいなかったため、僕たちは逃亡できた。

もし人間があの場にいて、それを見捨てて転移したとなれば、僕らは即刻に処刑されていただろう。

 結界の姉ちゃんも周りに人間がいない事、そして鬼に勝てる可能性もなくなった事で逃亡したと言った。

 でも…………それでも火の姉ちゃんだけでも助けたかった。

 まだ……転移した時は生きていたのだから………


〜エピローグ 悪夢のあとに〜


サイド:現在のミトラスフィア


 酷い夢を見た。

まさか自分のトラウマを掘り起こされるとは………。

 顔を上げると、俺の記憶を見ていた竜達がしんみりとして物悲しげな表情を浮かべていた。

あんな話を知ったら無理もないだろう。

 すると、ムーンテスラが謝ってきた。

「すみません、ミトラさん。幼少期にあんな記憶をお持ちだとは思わなくて…」

「いや、気にするな。もう過ぎた昔のことだ。いつまでも思い出に囚われるわけにもいかないしな」

 ムーンテスラ曰く、俺の幼少期の記憶を見ようとして、あの記憶に辿り着いたらしい。

 その後、記憶を見た竜達から何度も謝られたが、どの竜にも

「気にするな」

の一言で片付けてきた。

 


 あの記憶の時以来、鬼には会っていないし、鬼らしき眷属を倒したという報告も上がっていない。

 もしかすると、鬼はまだこの世に存在しているかもしれない。

 大好きな姉ちゃん達を葬った鬼を俺は憎んでいる。

 今後もし鬼が出てくるようであれば、竜族最強とも呼ばれるこのミトラスフィアが人間達に害を加える前に始末する事になるだろう。

 姉ちゃん達の敵討ちを兼ねて………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る