第2話 ヴィルカイネの挑戦
〜プロローグ〜
俺の名はミトラスフィア。
上位竜 第二位階で竜族2番手の強さを持つ男である。
今日は親友である第三位階のアルカストラ
達と一緒に家で手巻き寿司パーティーする事になっていた(竜は魚が好物なのだ)。
ハク、マナリア、そしてここでは未紹介だったが第十五位階 ヴィルカイネの3人の妻達が色々と準備をしている頃、俺はひたすらに掃除をしているハクの手伝いに回っていた。
しばらくすると、アルカストラとその妻の第十位階 フーネスがやってきた。
クリフトは遅れるらしい。
アイザルスやレイタールは残念な事に都合がつかなかったようだ。
こうしてパーティーが始まった。
名義は問題なくナターシャとの戦闘を終えられたことの祝いの席なのだが、実際はただのお疲れ様会になっている。
その後、互いに労ったり後から遅れてきたクリフトが合流したりと色々あった。
俺は、ビールを飲みながら雑談に混じっていた。
見た目は18歳くらいの青年だけど、ビールくらい飲めるんだからな!900歳超えてるし…
その時、後ろからグイッと引っ張られた。
後ろを振り返ると酔っているであろうヴィルカイネがいた。
「ミトラさ〜ん。この際だから愚痴に付き合ってくださいよ〜。」
と言ってきたので、仕方なく付き合ってあげる事にした。
酔っている分、何の隔たりもなく話してくれるだろうと考え、話を聞く姿勢を取った。
「ミトラさん、私ですねぇ〜。いくら頑張っても位階が上がらないんです〜。魂までとは言いませんけど、せめて第10位階くらいにはなりたいんです。どうやったら強くなれるんですかね〜?教えて下さい〜。あ!マグロ下さい!ラー油付きで!」
相当酔っているようだ。とりあえず俺はヴィルカイネの質問の答えを探していた。
ヴィルカイネの扱う魔法は重力魔法。
上手く使いさえすればあのアルテマティアでさえも倒せるほどの魔法である。
重力が5倍にでもなればいくら時を止めたって動けるわけがないからだ。
だが、ここでこの重力魔法の一番の問題が出てくるわけだ。
それはコントロールが大変難しい事である。
例えば半径5mを無重力にすると言うことができず、あの辺りを無重力にするといった感じになってしまう。
そのせいで、位階入れ替えの決闘のときなどには自分までその魔法に巻き込まれてしまう。
ヴィルカイネはそれが怖くて、魔法が使えず、相手に対して防御一点になってしまう。
もちろん距離をかなり取れば自分は魔法に巻き込まれることはないのだが、逆に相手はあまり距離を取らせてくれないのだ。
そういった理由で、ヴィルカイネは位階が上がらずにいる。
もちろん、コントロールは難しいとはいえ集団になっている眷属相手に遠距離から一掃することができるので、強いのは確かなのだが。
「ヴィルカイネ、ただでさえ扱いづらい魔法なのは重々承知してはいるが、それを少しでもコントロールできるようになれば、強くなれるんじゃあないか?」と聞くと、
「やってますよ〜。私だって強くなろうとして頑張ってます!ただ、どうも扱いづらい魔法で……」
こういうのはもうどこまで練習するかなので今度練習に付き合ってあげる事にした。
〜第一章 ヴィルカイネの特訓〜
今日はヴィルカイネの特訓のために山奥にある空き地にやってきたぞ。
さっそくヴィルカイネと練習をしていきたいと思う。
まずは、ミトラスフィアお得意の爪で木を切り倒し、その丸太だけを持ち上げるように指示した。
これで少しは精密動作をなんとかできる。
と思ったのだが…………。
どうやら丸太だけでなく、地面に落ちている落ち葉や枝まで持ち上げてしまっているようだ。
やはり精密なコントロールができていない。
結局、そのまま本日の特訓は魔力切れという形で終わってしまった。
次の日もひたすら丸太を持ち上げる作業をし、その次の日もその次の日もひたすらに特訓を続け…………。
一週間が経った。
ヴィルカイネは丸太だけを持ち上げられるように…………………………なっていなかった。
努力はしていたが、やはり重力魔法は難しく、一筋縄では上手くいかない。
だが、まだまだとはいっても幾分かはマシになっていた。
最初に比べれば、落ち葉や枝の数は明らかに減っていた。
余計な物の重力を操作しないだけでも十分に魔力の節約になる。
さて、あともう一歩なのだが…。
この数週間、ヴィルカイネの練習中は暇だったので、俺は切り倒した内の丸太の一本の上に寝転がりながら居眠りばかりしていた。今も横になっている。
隣ではヴィルカイネが例の特訓をしている。
ヴィルカイネの様子から察するにまだ完全な習得は出来ていないようだ。
数日間練習していてもまだダメらしい。
何でかな?
それにしても、ふわふわと寝心地がよくて非常に眠りやすい。
このまま眠りに落ちてもいいかもしれない。
と考えると同時に一つ思い出した。
なぜ丸太の上で寝ているのにこんなに寝心地がいいのか?…と。
ハッとして起き上がり目を開けると、俺は宙に浮いていた。ヴィルカイネを見ると、こっちを見ながらニヤニヤと笑っている。
そのまま数メートル下に俺は落っこちてしまった。
丸太にお尻をぶつけるように落ちたため、痛みのあまりのたうったが、一段落した後に俺は指をポキポキ鳴らしながらヴィルカイネを睨みつけた。
「随分と上達したようじゃあないか?
俺だけを綺麗に持ち上げて………。今までのは苦労しているように見せていただけか」
「そうですね、うまく騙せましたよ。ミトラさんはいつも居眠りしてますから、その間に猛練習してました。ミトラさんが起きてる時はあまりできていないように見せてたんです。」
ヴィルカイネは鬼の首を取ったように誇らしげにしていた。
お尻あたりがまだ痛むが、ヴィルカイネの魔法の上達もできたので、目を瞑ってあげようと思う。
ヴィルカイネはある対象物だけを無重力状態にしたり、何倍もの重力をかけられるようになっていた。
とてつもない努力の賜物だろう。
この状態なら魂は無理でもかなり上の位階になれると考え、また別の機会に「位階入れ替えの決闘」をすればいいとヴィルカイネに伝えた。
コントロールが精密にできるようになった事でかなり有利になったはずだ。
こうして、俺の妻の一人は強さを増したのである。
〜第二章 位階入れ替えの決闘〜
サイド:ヴィルカイネ
位階入れ替えの決闘の日の朝、ミトラさんからは魔法の技術を(コレは前からだけど)、ハクさんからはスクランブルエッグを、マナリアさんからは勝利のためのお守りをもらった。
私は、とても良い家族に囲まれてるなと思った。
自分に期待してくれている、自分を信じてくれている身近な仲間こそ家族と呼べるのではないかと私は思う。
みんなから応援の言葉を貰って私は、決闘の場である砂浜にやってきた。
取り決めの時間の15分前に来たのにそこには既に決闘の相手である第十三位階 睡眠竜 ケイセヌラと審判役の第十二位階 誘惑竜 サートラがいた。
サートラは、二人が揃ったのを見て「じゃあ、ちょっと早いけど始めちゃう?それとも時間通りが良い?」言った。
二人の回答はどちらでも良いだったので
早めに始まる事になった。
私とケイセヌラが10メートルの幅を空けて向き合ってお互いに一礼をした。
それをサートラが確認すると「始め!!」
と叫び、決闘が始まった。
始まると同時に、ケイセヌラは一気に距離を詰めようとしてきた。
きっと私が距離をとらないと魔法が使えないと思っているのだろう。
だけど、今は……。
私は構えると、凄いスピードで接近してくるケイセヌラに魔法を放った。
「無重力[ゼログラビティ]」
するとケイセヌラは、驚いたかと思うと
宙に浮いた。
こちらに近づいてきながらも上昇している。
近づいてくる時の地面を蹴った反動だろう。
ケイセヌラはもがいているが何もできない。
そうしてケイセヌラは、私の頭上にきた。
私はそのまま、急に飛び上がりアッパーの様な鋭い一撃を繰り出した。
相手が怯んだ隙に、「過重力[オーバーグラビティ]!!」と死なない程度で、だが何倍もの重力でケイセヌラを地面に押し付けた。
おそらく8、9Gは掛かっているに違いない。
ケイセヌラは倒れたまま起き上がってこない。否、この状態なら起き上がろうにも起き上がれないだろう。
この決闘はルール上、相手が降参するか、相手が倒れて10カウント経たないと勝利にならない。
また、その間は魔法で縛る事などもできない。私の場合、このまま10カウント経つまで
過重力[オーバーグラビティ]で押さえつけておくという事はできないのだ。
私は警戒しながら魔法を解いた。
ケイセヌラは起き上がってこないままだ。
失神しているのだろうか?
魔法を解いた事で、サートラのカウントが始まった。
「1、2、3、4」とカウントが進む中、ピクリともケイセヌラは動かなかった。
「5、6、7」……まだカウントは続く。
サートラが8を数えたと思った瞬間、とてつもないスピードでケイセヌラが飛び上がりこちらに魔法かけてきた!。
「睡眠気[スリープオーラ!!」
最後の最後に仕掛けてきた攻撃に私は防御が出来なかった。
私は眠ってしまったのだ。
〜第三章 形勢逆転〜
サイド:ケイセヌラ
危ないところだった………。
恐らくだがもう少し長く、そして強く過重力[オーバーグラビティ]をかけられていたら……気を失って俺は負けていた……。
油断していた!重力魔法はそこまで精密にコントロールできないと思い込んでいた!
距離を詰めれば勝てると思っていた!
ヴィルカイネがここまで成長しているとは夢にも思わなかった…。
だが、俺も相手の隙をつきダウンを取った。これは魔法で眠らせている状態だからカウントはされないが、ヴィルカイネは無防備な状態だ。
このタイミングでボコボコにしてやれば、俺は勝てる。
俺は寝ているヴィルカイネに一歩ずつ近寄り、彼女を蹴っ飛ばした。
彼女は5メートルほど吹っ飛び、目を覚ましたようだ。
だが、起きた瞬間に睡眠気[スリープオーラ]でもう一度寝かしつけた。
「勝った!上手くルーティーンに嵌めたぞ!もう逃げられまい!」
そこから5分程同じ事を繰り返した。
寝かせては攻撃して、起きたら寝かせる。
こうして、少しずつ体力と気力を削り取っていく。
気づくとヴィルカイネは泣いていた。
策に嵌められたのが悔しかったのだろうか、それともただ痛みに涙を流したのか。
これ以上は流石に良心が許さないと考えた。
考えてしまった。
そろそろいいかと思いっきり蹴りを入れて起こそうとした瞬間、俺は地面に引っ張られた。
え?た…………立てない!寝転んだ状態から体が動かない。
ヴィルカイネの過重力[オーバーグラビティ]か!
しかし、彼女は眠ってるはず!
力を振り絞って顔を上げると、なんとサートラまでもが術に掛かっている。
まさか、寝ながら範囲攻撃を仕掛けているのか!
そんな事ができるはずが…。
「うぐぐぐぐ……………」
俺は油断して受けてしまった攻撃のあまりのしんどさに耐える事が出来なかった。
俺は気を失ってしまったのだ…
〜第四章 結果〜
サイド:ヴィルカイネ
夢を見ていた。
詳しくは覚えていないけど、マナリアさんもハクさんもイタームさんもアイザルスさんもクリフトさんもアルカストラさんも……………ついにはミトラさんまで、たった一体の眷属にやられてしまう夢。
魂の皆さんが一体の眷属にやられてしまうなんてあり得ない話だなと思うけど、夢を見ているときはそんなこと考えられずに、泣いて泣いてとにかく放てる魔法を放った夢だった。多分寝ているときに涙を流したんじゃないかってくらい、悲しく悔しい夢だった。
起きたときは砂浜にいて、隣でケイセヌラが横になっていた。
サートラさんは、私が起きたのに気がつくと「おめでとう、あなたの勝ちよ」と教えてくれた。
判定としては、ヴィルカイネは睡眠気[スリープオーラ]によって眠らされたのに対し、ケイセヌラは過重力[オーバーグラビティ]で気を失い、その後魔法が解けたことからケイセヌラが10カウントで負けたらしい。私は覚えてないけど…
ケイセヌラが目を覚ました後、ケイセヌラは結果を聞き、私と固い握手をした。
そのとき、「次は必ず勝ちますよ」と彼は言った。私は「受けて立ちます」と返し、帰路についた。
家に帰り、みんなに報告するとミトラさんたちは「13位階おめでとう!」と言ってくれた。
お祝いとしてショートケーキを食べさせてもらい、ミトラさんから「これからも人間達のために力を尽くせよ」とありがたいお言葉を貰った。
〜エピローグ 進歩〜
サイド:ミトラスフィア
こうしてヴィルカイネは、実力と調子をつけて、どんどん位階が上がっていった。
確か第10位階くらいまで上がってたな。
それ以上は、流石に無理があったようだ。
でも、こうして強くなる事は悪い事じゃないし、逆に誇らしいことだ。
今後も彼女の活躍を見せて貰いたいと思う。
話は少し変わるが、アルカストラの嫁である元第10位階で現第11位階 フーネスが非常に悔しがっていて近々もう一度決闘を申し込むようだ。
ヴィルカイネには俺が、フーネスにはアルカストラがついてるからどうなるかわからないなぁ。ある意味楽しみだ。
とりあえず、ヴィルカイネのお話は一旦ここでお終いとなる。まぁ、また後々出てくる事にはなるかもしれないけど。
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