竜ですが人間を守るために命を懸けて戦ってます

雷烏賊

第1話 竜族

〜プロローグ〜


 多くの人には知られていないが、日本には古来から「竜」と呼ばれる生物が紛れ込んでいるらしい…。

まずはその事から話そう。

 竜は数百万年前から深海に棲む生物で、

寿命はおよそ4000年〜5000年。

人間で言い換えれば50年で1歳をとるような感じだ。

 そこまではただそこら辺にいそうな感じを醸し出しているが、ここからが一番の特徴だ。

 知能も人間と同じか少し下程度にはあり、その独特な身体の作りによって、目には見えない聖なる力である「魔力」を身体に溜めることが出来るらしい。

 彼らはその魔力で、いわゆる魔法を使うことが出来るということだ。

 え?馬鹿馬鹿しい?

 そりゃあ俺だってこんな話は信じたくないね。

魔法が使えるなんていう嘘っぱちは嫌いだ。

 ま、そんなの本当にいるわけないさ。

ネッシーやツチノコみたいなもんだろう。


       〜第一部〜


〜第一章 竜族〜


サイド:???


 プロローグでは嘘っぱちって言われたが、

竜は実際にいる。ていうか俺がそうだ。

 とりあえず名乗らせて貰おうか。

俺は"上位竜 第二位階 雷神竜 

         ミトラスフィア"

 何のこっちゃわかんねえって?

分かったよゼロから説明してやる。

 まず竜と一口に言ってもランクがある。

上から上位竜、次に中位竜、そして下位竜だ。

それらのランクは、強さで決まる。

強い順に上位竜、中位竜、下位竜だ。

なお、上位竜、中位竜、下位竜を全部ひっくるめて竜族と呼ぶんだ。

 そして上位竜の場合、位階というものが

20個に分かれている。

これも強さの順だ。

つまり、上位竜 第二位階だから俺は上から2番目、竜族の中で2番目に強いってわけだ。見直したか?

 そして基本的に上の位階の奴には逆らえない。

絶対服従ってわけだ。

それを悪用しようもんなら俺が黙ってないけどな。

 それで何だ?あぁ雷神竜か、これも上位竜だけにつけられる竜名だ。

まぁこれでだいたいどんな竜かがわかる。

 で、ミトラスフィアが名前ってわけだ。

 ちなみに竜には三つ、なれる形態がある。

人型、半竜形、竜形の三つだ。

それぞれに上位竜は全てなれるが、中位竜は

半竜形と竜形、下位竜は竜形のみとなっている。

上位竜は人型となり、人間に紛れて生活しているのがほとんどだ。

 とりあえず上位竜 全20名の位階と竜名を載せようと思う。


1.時神竜

2.雷神竜  ←俺

3.風神竜 

4.炎神竜  

5.氷神竜  

6.岩神竜  

7.結界竜  

8.爆神竜  

9.狂乱竜

10.双首竜

11.黒魔竜

12.誘惑竜

13.睡眠竜

14.瞑想竜

15.重力竜

16.千手竜

17.霊魂竜

18.久遠竜

19.針剣竜

20.淵叢竜

 

 それぞれ扱う魔法の属性や種類がザクッと分かるだろう。

やっぱり俺って出来るヤツだ。

 

 第二位階から第八位階の竜は「魂(こん)」と呼ばれる組織を作っている。

 え?そんな組織作って何してるんだって?

失礼な奴め、お前ら人間様を守ってやってるのによ…。




〜第二章 混沌の眷属(けんぞく)〜


 人間ってのは凄いよな。

ここ数千年ほどで一気に文明を発達させてきたわけだからな。

ここ数百年は特に凄まじいが…。

 人間の50倍長生きする竜でも人間ほど頭は賢くはないからここまで色々創り出したりしてきた人間達を見るとさぞかし驚くだろう。

てか、俺も驚いた。

俺も900年ほど生きているが、幼い頃でも色々びっくりしたもんだからよ。

 話は変わっちまうが、人間に天敵はいると思うか?

え?いない?そうかそうか。

実はいるんだなぁこれが…。

 人間の知能は凄まじいが、人間も苦労するものだからか心に闇を持つ。

恨み、怒り、嫉妬、不満などだ。

 それらが溜まりに溜まった時、混沌というものが生まれる。

 さらにそれが集まると混沌の眷属という化け物が生まれてくるわけだ。

その化け物は生物ではなく思念体の様なものだが、本能的に人間を狙って襲う。

 ただ、コイツらは厄介なことに何の物理攻撃も効きやしない。

コイツらに効くのは魔法攻撃だ。

 おっ?もう分かったみたいだな?

そう、俺達竜族がコイツらを退治してるんだ。

人間達を守るために…。

 そのために組織化し、強い者を上位竜として讃え、強い奴が弱い奴を鍛え、人間達に害をなす混沌の眷属を倒す。

それにより人間達を守る、救う。それが俺ら竜族の目的だ。

 先人の努力あってか、未だに混沌の眷属によって命を落とした人間はいない(怪我したやつとか足を失った奴は大勢いるみたいだが)。

 それが竜族の誇りであり、名誉である事は言うまでもない。

 例え自分の命を失っても、人間は守る。

そういう考えこそ俺達なりの誇りなのだ。

 そこまでして人間を守る理由?

さぁ、遥か昔からの事だからわかんねぇ

 まぁ、昔から守ってたものだからこれからも守るって教えられたんだから仕方ねぇよ。

 俺の両親は俺が産まれてすぐに殺られちまったから、別の竜に教え込まれたのだけどよ。ま、我が親ながら情けないぜ。



 話は変わるが(変わってばっかだな)今度、混沌の大氾濫が起きると予測したんだ。

 混沌の大氾濫はその名の通り、混沌が集まって、さらにその混沌を求めて眷属が集まってくる(というより湧いてくる)大厄災だ。

 今回は今までに類を見ないバカでかいやつが起こると予測した。

いつもは上位竜の下っ端が行くんだが、もしかしたら魂から数人行くことになるかもしれないな。



〜第三章 戦闘準備〜


 元号が変わってすぐの某日に第三位階 風神竜 アルカストラが俺のところにやってきた。

 コイツは俺と歳も近く昔から仲良くやってきた親友だ。

 「そろそろ近くなってきたな。」とアルカストラが言った。近くなってきたとはそろそろ混沌の大氾濫が起きそうだという事だろう。

やはり、察知していたか。

もちろん大事にはなるだろうから、コイツが察知するのも当たり前なんだろうが…。

「ああ。」

俺はそう返して飲み終わったコーヒー缶を

くずかごへ捨てた。

「何か策を考えているのか?気難しそうな

 顔をして?」

「いや、飲んだコーヒーが苦かっただけさ」

俺はそう誤魔化し、アルカストラを家へ帰らせた。

そう、誤魔化したのだ。

 読者のみんなには伝わりにくくて本当に申し訳ないが、今回の大氾濫は想像を絶する規模なのだ。

 いつもは、何とかなるの精神で済ます竜族で2番目に強い俺が真面目に策を考え込むほど巨大なのである。

 このミトラスフィアが悩んでいると知られたらいい笑いものになるだろう。

 戦いには、第六位階と第五位階を呼び出してバックに俺がついているという感じでいいかと考えている。念のために第四位階も呼んでおこうかと考えたところで、

「考え事ですか?ミトラさん。」と急に声がかかった。

本当に急だったが慣れているので問題ない。

「いきなり声かけるのはやめてくれよ、カルフィリンネ」

 カルフィリンネとは第一位階 時神竜

竜族トップの立ち位置の竜だ。

 竜の王(女だから女王か?)といっても過言ではない。

 普通、上の位階の竜には敬語を使わないといけないが面倒なのと本人に許容してもらっているのでタメ口で話している。

ちゃんとした理由は他にもあるが…。

 彼女は時操魔法を使う竜、つまり時間を操ることが出来るチートキャラだ。

時を止めたり、戻したり、進めたり………

その気になれば時を加速させることもできるんじゃあないか………………

 とりあえず、そのおかげで俺が第一位階になる事は決してない。

 いくら俺が速く動いても時を止めたりする相手に勝てるのだろうか?

いや、勝てない(反語)

 まぁ、それはそれとして…

「差し詰め、今度の大氾濫についてでしょう?」

「まぁ、そうだな。考えはまとまったが。」

「それなら良かったです。さすがミトラさんですね。」

 この人(竜)にだけは褒められても褒められた気がしないんだよな。

女性で見た目が25歳ぐらい(人基準)なのが原因かもしれないし、性格がふんわりしているのも原因かもしれない。

 「第六、五、四位階を呼ぼうかと思っている、後は俺が暴れりゃいいからな。」

「ミトラさんがいるのに3人も増援を呼ぶんですか?役不足だと思うんですけど。」

「2人だと不安かなと思ったんだよ!」

 そうしてほんの少し口論して、結局は第五と第四位階で十分だという感じでまとまったが、どうも何か気持ち悪い。

 前代未聞の事態というのは、こんなにも

とてつもなく嫌な予感がするものなのだろうか?


〜第四章 戦闘〜


一週間後


 ついに大氾濫の時がやってきた。

場所はとある山の麓にある学校だった。

 自然がある中で大きな校舎が建っているのが不釣り合いに思えるが、様々な時代を生きてきたミトラスフィアにとっては、自然と調和した感じにどこか懐かしさと新しさが混ざった大正ロマンのような斬新さを覚える景色であった。

 なぜ学校なのかと言うと人の集まるところというのは誰しもが人付き合いで思うところが出てくるものだ。

その結果、混沌の生まれる原因となる。

 学校だけでなく職場、居酒屋など愚痴が溢れるところには混沌の眷属が出てきやすい。

まぁ、そんなこんなの学校というわけだ。

 幸い休日だったので学校の授業は無いが、部活中の生徒や休日出勤の先生達を守りながら闘わなくてはならない。

 俺は、第五位階のアイザルスと第四位階のクリフトを引き連れて屋上に着地した。

 一応言っておくと、深海で生きて来たこの竜達の翼は空を飛ぶためでなく、海の中を泳ぐためにある。

空を飛ぶのにも使えるという事で空を飛んできたが…。

まぁ、ペンギンの逆だな…。

いや、ペンギンは空を飛ばないか。

 「大体、校庭のあたりですかね?」

 アイザルスが言ったのは混沌が湧いてくる

ポイントのことだろう。

 「そうだな、上空200mあたりといったところか」とクリフトが補足する。

 さすがクリフト、俺の読み通りのところを感知したようだ。

こいつの混沌の気配を察知する能力は一流といったところか。

 「そう考えていいだろう。よし、俺たちが眷属の相手だ。人間達の護衛は主に中位竜達にさせるとしよう。」

 細々とした作戦を二人に伝えるとどちらも異論は無いようだった。

 その後は中位竜達に人間に近寄る眷属を始末するよう伝えた。

 別で人間達を避難させようとしたのだが

ここのお偉いさんは頭が硬く、何を言っても竜や混沌の眷属のことを信じようとしなかったらしい。

やはり、その避難作戦はうまくいかなかったようだ。

 半竜型になって信じて貰ってもいいが、

それだと余計に怖がらせてしまう。

恐怖も混沌を生み出してしまう要素だから、こんな時に混沌を作り出す原因を作りたくなかったのだ。

 中位竜達約30名が集まり屋上に身をかためている。

混沌が湧いてきたら動く作戦だ。

 この作戦のいいところは、人間達に与える恐怖が少ない、つまり混沌が出現しにくい事だ。上位竜の人型ならまだしも、中位竜の半竜形はパッと見では、悪魔のように見える。

確かに人から角やら牙やら太い尻尾が生えてたらそうも見えるだろう。

 「ーッ!!」

 来た!何も無いはずの空中から一気に眷属が溢れ出てきた!

 「総員!配置につけ!」

俺の一声で一斉に竜達が動く。

 作戦はこう、大氾濫が起こりギリギリの量まで眷属が現れたら、俺が一気に範囲魔法を

ぶっ放して数を減らす。残った奴らを3人で消しとばしていくわけだ。

 俺は早速、「雷霧[サンダーミスト]!」と勢いよく叫び、両手を前へ突き出した。

そして霧のように稲妻を空中へ走らせた。

半径がおよそ150mの球状に一気に放電する。

すると、およそ7割が無に帰った。

 一応説明しておくと、魔法とは身体に溜めた魔力を流れにして発する物なのだ。

そして混沌はその魔力に弱い。

魔力に触れると奴らの身体は蒸発するのだ。

 さて、残った奴らを片付けようかと空に飛び立った。

アイザルスとクリフトも別々の方向へ飛び立ち、それぞれ敵を倒そうと向かって行った。


サイド:アイザルス


ミトラスフィア様が雷霧[サンダーミスト]を

放った後、僕たちは大空へ飛び上がった。

北側の校舎側を背にして、ミトラ様は南側に向かい、クリフト様は東側へ向かって行った。

 続いて僕は西側へと翼をはためかせた。

 「水圧砲[アクアプレッシャー]!」

高圧により、勢いよく噴射した水のカッターが眷属達の腹を真っ二つにしていく。

真っ二つになった眷属はそのまま、体が消えていった。

 魔力によって噴射された水は勢いを落とすことなく、次々と眷属達に向かっていく。

 水圧砲で倒しきれなかった眷属もいるが、

水を被っているのならこちらのものだ。

 手を振って一気に周りの水分という水分を凍らせた。

 水というのは凍った時、すなわち氷になった時に体積が増える。

その氷の膨らみ方を魔力で操作し、眷属を押し潰す。

 魔力を大量に含んだ氷に押し潰されるのだから眷属からすれば、堪ったもんじゃない。

 これでも氷神皇と言われているのだから、

この程度は朝飯前だ。

 あらかた、西側は片付いてきた。

その時だった!

とてつもない混沌の反応がここから南側に現れたのは…。


〜第五章 突然に〜


サイド:ミトラスフィア


 それは目の前に突然現れた…。

蛇のような目をした女が目に写った。

 ニタリと笑っているのが見える。

この状況を楽しんでいるのが見える。

 すかさず俺は"ヤツ"から距離を取った。

やはり前代未聞の事態には変なことが起きやすい、と考えていると"ヤツ"は喋りだした。

「おや、逃げるのかい?臆病者め…」

 眷属ながら美しい声をしているなと思う。

 眷属はただ本能のままに人間を襲う奴らが大半だが、ほんの一部だけ知能があるやつがいるという。

今回の女は(本来、生物ではないから性別もないはずなのだが)それと同じものかと考えた。

 「臆病者で悪かったな」と言い放つと同時に体制を整えると拳を握り込み、雷と同じ速さで敵に殴りかかった。

 ミトラスフィアは、拳からも電流を流すことができるため、相手を消し飛ばすにはこれが一番手っ取り早い。増してやスピードも付いている。普通なら敵が消し飛ぶことは間違いない。

"普通なら"だ。その点ヤツは普通では無い。

ダメージは入っただろうが、ヤツにとっての致命傷とはならないだろう。

 「クソッ!硬ぇ!」

「第二位階というからどんなものかと思えば、大したことないね…」

 ヤツは吐き捨てるように言い、術を繰り出した。

「不死竜[ナターシャ]」

俺は正直耳を疑った。

「不死竜だと…」

 不死竜[ナターシャ]といえば、数百年前に病気が理由で竜族を引退した黄泉竜 ナターシャが使っていた最高位の魔法だ。そんな物をヤツが使うかどうか考える前に、俺は身を守ることだけを考えた。

 「立体像[ホログラム]!」

身体をホログラムのような像にして、攻撃を貫通させた。

 いくつか攻撃を防ぎきれなかったところもあるが、致命傷ではない。

 ヤツは「フンッ」と鼻で笑うとくだらなさそうに消えて行った。

 「ヤツは一体何者だ?」

 真っ先に考えたのが、ヤツの正体だ…。

ヤツは魔法を使っていた、つまり竜だ。

では、なぜ混沌の側についていたのか?

謎だらけだ。しかし、一つ分かりきっていたのは彼女が本物の最高魔法の一つである、不死竜[ナターシャ]を使ったことである。

 彼女はナターシャだったのだろうか?



〜第六章 不死竜の行方〜


 先日の大氾濫は特に犠牲者もなく、速やかに片付けた。

 その後、ナターシャの行方を聞くために様々な守護竜達の元へ向かっていた。

 守護竜とは竜族を引退した竜達のことだ。

ナターシャもこれにあたる。年齢や病気、

四肢の欠損等で闘えなくなった事が元でこの立場になる竜がほとんどだ。俺の師匠も守護竜だしな。

 さて、俺も一度海に久しぶりに帰り、

ナターシャの同期の竜達や彼女をよく知る竜達に話を聞いたが、しばらく会っていないと口々に言われた。

 俺はナターシャに会ったことがないため(名前はどこかで聞いたことはあるが)、どんな竜かも知らないし、この前現れた"ヤツ"がナターシャなのかもわからない。

 とりあえず俺は陸に戻った後、一息つこうと喫茶店に入りコーヒーを注文した。

 クリフトやアイザルスも彼女が誰かは分からなかったらしい。彼らは一応俺より少し年上で俺より前に上位竜になっていたから、ナターシャと面識があるかもしれないと考えたのだが当てが外れたらしい。

 コーヒーを飲みながらどうしたものかと考えた。

 カルフィリンネもナターシャの行方を知らないと言っていた。ナターシャに会えば"ヤツ"の正体も明らかになるはずなのにそれができないからもどかしい。

 もしかすると、やはり彼女がナターシャなのだろうか。不死竜[ナターシャ]の強さは本当だった。あのような魔法は彼女もしくは

彼女から直接魔法を教わる存在しか使えないだろう。

 守護竜の竜の皆さんはナターシャに弟子がいたかどうかは知らなかった。こっそり弟子を取っていたという事もあるのであり得ない話ではないが…。

 考えていても埒があかないので、そのうちミトラは考えるのをやめた。

 喫茶店を出て、俺は自宅に向かう。

 やけに多く信号に引っかかったが、俺の頭は"ヤツ"の事でいっぱいだった。



 「おかえり…」

 「ただいま」

自宅に帰ると第七位階 界神竜 ハクが出迎えてくれた。

 彼女には実は名前がない。なので、みんなは髪の色が白い事から「ハク」と呼んでいる。

 恥ずかしい事だが、俺とハクは婚姻を結んでいる。なので、やはり一緒に暮らしているのだ。

 実はもう二人と婚姻を結んでいるのだが、

今日は眷属退治でいない。

 え?重婚だ?貴様この野郎…

俺らは人間じゃあないから法律なんて知ったこっちゃねぇ!

 知ってるか?!哺乳類の99%はハーレムとか逆ハーレムを作るんだぜ!人間がおかしいだけだ!

 話が逸れちまった。

 とりあえず、ハクの作った夕食を食べようと席につく。ハクはクールというか無愛想というか…感情表現が豊かでないというか…

なので特にチラとこちらを見ただけで特に何か変な様子は無かった。

 ハクの作った今日の夕食はハンバーグだった。ハクは変なところで不器用なので少し形が悪かったが、味は全く問題なかった。

すごくおいしい。

 その日は夕食後、風呂に入ってすぐ寝た。

ハクは中々寝付けないようで隣でゴソゴソしていた。昼寝でもしていたのだろうか。

 竜は本来、夜行性で昼に寝るのが当たり前である。彼女もそのルーティーンから抜け出せていないのだろう。そう考えているうちに

俺は深い眠りに落ちて行った。

 

 〜第七章 第二、第三、第四波〜


 前回、混沌の大氾濫があったがそれと同レベルのものが再び起こる事が分かった。

あのレベルがまた起こるのはどういった事なのだろう。

それもこんなすぐに…。

 今回は、俺が参加しない代わりに第三位階のアルカストラが参加する。他にもメンバーを変えて作戦を立てているらしい。

 まぁ、しょっちゅう駆り出されてたら堪らないなとボーッと考えていた。


 今回の大氾濫も犠牲者はいなかったようだが問題はやはり"ヤツ"であった。

 今回も現れたらしい。

 アルカストラと数十発殴り合ったところで消え去ったようだ。

 一体なんなのだろう?

やはり分からないことばかりだ。

 ただ何個かわかった事もあった。

ヤツからは魔力と混沌のどちらの反応も有ったという事だ。

 本来相容れないこの二つが存在する。

そんな事はやはり前代未聞だ。

 それと大きな事がもう一つわかったのは

"ヤツ"の正体についてだ。

 今回の大氾濫にはとある守護竜が、参戦していた。彼はナターシャの旧友らしい。

その彼がこう証言した。「あれは間違いなくナターシャだった」と。

謎は一つ解けた。が、謎がまた出てきた。

 それはヤツがナターシャだったとすれば、何故こんな事をするのか?

 ナターシャは元上位竜で人間を守る存在であるはずなのに、何故人間を襲う存在になっているのか?

 今回、一歩進んだと同時に再び謎に包まれている事が出てきた。謎が謎を呼んでいる。

 

二週間後


 「第三波か…。最近ずっとだな。」

ハクがそう言うと俺は溜め息をついた。

 ハクの言うとおり、ここ最近ずっとだ。

 そもそも氾濫の規模がもう少し小さくてもこんなに頻繁に起こることはなかった。やはり前代未聞が繰り返している状態である。

 どうしたものか…。

 第三波は今から数日後に起こると感じ取った。それまでには準備を整えなければならない。

 今回の大氾濫はナターシャの事もあり、俺も参加するつもりだ。

 とりあえず不死竜[ナターシャ]を再び撃ってきてもおかしくないので、対策も考えておくことにした。不死竜[ナターシャ]を放ってきたら、こちらも最高魔法である雷神竜[ミトラスフィア]を放とうか……それで対抗できるか?などと考えていると、ハクが突然、「私も大氾濫の戦いに参加する」と言い出した。

 何故なのかハクに理由を聞いた。すると「ミトラは今すごく悩んでいるのだろう…

私もミトラの助けになりたいんだ………………だから…」と言ったので、ハクも参戦する気なのだろう。

とりあえず本人がやる気なので参戦させる事にした。

 そして2日経ち、大都会にやって来た。今度はここで大氾濫が起こる。

 今回は上位竜から4名が戦闘に参加する事になっている。

 第二位階 雷神竜ミトラスフィア、第四位階 炎神竜クリフト、第六位階 岩神竜レイタール、第七位階 界神竜ハクだ。

 それぞれが眷属の湧きポイントの東西南北を担当する。ただ、ナターシャが現れた時は俺がすぐに駆けつけるという作戦を立てた。

 都会なので今回も人を守りながら闘う事になるだろう。やはりそれは中位竜に任せた。

 後は敵が現れるのを待つだけだ。



 ポイントに待機して1時間近く経過したとき、眷属が湧いてきた。

 俺達は一斉に飛び上がり戦闘を開始した。

 眷属を消し飛ばしながら周りを見る。

ナターシャがいるか確認するためだが、まだ現れてはいない。

 1回目の大氾濫も10分くらいしてから現れたので、まだ出て来てないのだろう。

とりあえず目の前の敵に集中した。

 俺は手の甲から爪を伸ばした。

この爪は鋼鉄でさえ切り裂くほど鋭い。

誰がウルヴァリンじゃ!

 そんなことはどうでもいい。俺は爪にも電流を流しながら、眷属を切り裂いていく。

 数百は切り裂いた後、混沌の眷属は現れなくなった。一般人達も無事なようだ。

 こうして第三波は終わった。

ん?あれ?ナターシャは?



 自宅に帰るとハクが近くによって来た。

ハクは今回の大氾濫を通して、俺が悩んでいる理由を見つけようと思っていたみたいだが

ナターシャがいなかったため、結局何に悩んでいるのか分からず終いだったのだろう。

 「ミトラは最近の大氾濫で悩んでいるようだったが、まさかあれくらいの眷属に悩まされてるわけではないのだろう。何かあるのなら教えてほしい」とハクが言ったので、俺はハクにナターシャについて話した。ハクもナターシャを知らないわけではないので、黙って話を聞いていたが、なぜ大氾濫の度に現れて、眷属の味方をするのかはやはり分からないらしい。

 そんなこんなで第三波は特に問題も起こらず、続いて第四波が来る事になった。

 第四波は今までとは少しだけ規模が小さくなっているようなので、そこまで本気の布陣の必要は無さそうだ。しかし、ナターシャの事がやはり引っかかる。前回現れなかったからと言って今回も現れないと言うことはないだろう。やはり俺も行くしかないようだ。

 「おい、マナリア。次の大氾濫はお前も参加しろ。」

「え?あたし?マジで?」

「魂の中でお前だけが大氾濫に参加していないんだよ。いい加減に仕事しろよ。」

「やだやだやだ〜怖いよ〜。」

「駄々をこねるな、人間を守るために死ぬ事だって名誉な事じゃあないか。もちろん簡単に死なせはしないが。」

「でも〜〜〜〜」

と、いつまで経っても駄々をこねていたが、

結局、第二位階の権限で大氾濫に参加させた。本人は乗り気じゃないらしいが。

 と言う事で、今度の今度こそナターシャが出るかもしれないので、上位竜からは雷神竜 ミトラスフィア、氷神竜 アイザルス、

爆神竜 マナリアが参加する事にした。

 

サイド:マナリア


 最悪な事になっちゃった…。今度の大氾濫に参加する事になっちゃったよ〜!

どうしてくれるの?!こちとら家でグーグー寝ていたいだけなのに!

お菓子食べながらゲームとかテレビとか映画とか見せてくれてもいいじゃん!

激しい喜びはいらない、その代わり深い絶望もない、そんな植物の心のような人生…………そんな平穏な生活こそ私の目標だったのに…。まったく…。


そんなことを主張しても、ミトラは許してくれなかった。我が夫ながら手厳しい…。

 ミトラは「それだったら竜に生まれたことを悔やむんだな」と言ってたけど確かにその通りだ。

 人間に生まれたかったなぁ…………でもそれじゃあ眷属にやられてばっかりになる。

それもやだなぁ…やり返してこそアタシなのに………

 何でこうアタシってグーたらする事に一生懸命なんだろ……何でこう変なところで欲張りなんだろう…………人間までとはいかなくてもせめて頑張り屋とかになりたかったなぁと色々考える。

 いや、大切なのはやろうとする意志だ。

私にはそれが必要なんだ。生まれもった才能だけで第八位階まで登り詰めたけど、ここからは努力の時代なんだ。アタシにはその努力が足りないだけ。だから、頑張らないといけない!よし、次の大氾濫は精一杯頑張ろう!

 そう心に決め、布団に横になって寝た。


サイド:ミトラスフィア


 第四波が起こる当日、俺達は浜辺にやってきた。なぜか面倒くさがりのマナリアが妙にやる気になっている。

明日はきっと大雨だ。槍も降るかもしれない。それはともかく…。

 今回は、人はいないのと故郷である海がすぐそこなのが楽なところだ。ただ問題点をあげるとすれば、今日は晴れ過ぎているのだ。

 本来なら深海にいる竜は太陽光に弱い。

 酷い時は下位竜なら簡単に蒸発してしまう。防御力や回復力が強い上位竜でも力が7割ほどしか出せない。

 水の魔法を扱うアイザルスに雲を作ってもらう事もできるが、時間も手間もかかりすぎるから良い方法とは言えない。日光は我慢するしかないようだ。

 そうして大氾濫が始まった。

 だが、眷属を排除するのは難しいものではなかった。

 アイザルスが海から無尽蔵に水を供給しているので、彼のお得意の魔法である水圧砲[アクアプレッシャー]も撃ち放題というわけだ。

 簡単に眷属を片付けてもう大氾濫も終わりに近づく頃、ヤツは現れた。いや、気づいたらもう既にそこにいた。

 ヤツは大体200m離れた海の上で羽ばたいており、こっちの方をじっと見ていた。いつからいたんだ?

 するとヤツは、「不死竜[ナターシャ]」と叫び、いきなり魔法を放ってきた!

 俺はすかさず反撃に出た。

「雷神竜[ミトラスフィア]!」と叫ぶと同時に自らの最高位魔法を展開した。

 雷神竜[ミトラスフィア]の強力な電撃と、不死竜[ナターシャ]の強力な黄泉の攻撃が激しくぶつかり合う。

 一度目に不死竜[ナターシャ]を食らった時、立体像[ホログラム]でかろうじて避けたが、今回は正面からの魔法の殴り合いに行く。今回は逃げない。否、逃げられない!

やらなければ、今度こそやられてしまう。

 「ーッ!」

押、押される!押し通される!ナターシャの不死竜[ナターシャ]にこれほどのパワーがあるとは……!もう………限界……だ……。


その時、ナターシャの付近で大爆発が起こった。あの爆発は……………………マナリア?

 俺にはあの爆発がマナリアの爆裂魔法にしか見えなかった。あの子がやったのか?!

「アタシだってやる時はやるんだから!」

後ろでマナリアが叫んでいるのが聞こえる。

 爆発に巻き込まれてナターシャの展開している魔法に乱れが生じた。その一瞬の隙を突き、俺は雷神竜[ミトラスフィア]の一撃をナターシャに直撃させた。

やった!命中した!

 ナターシャは海に落ちた。遠目から見るにプカ〜と浮かんでいる。気を失っているようだ。俺は空を飛び、ナターシャを抱きかかえて砂浜に降り立った。



〜エピローグ 正体〜


 ナターシャが目を覚ますまでグルグルに縛り上げ、転移魔法を使えないようにハクに頼んで浜辺に結界をはり、その中に放り込んでおいた。

 ついでにナターシャの体を調べ尽くしていたところ、喉の奥から小さな混沌の眷属が見つかった。

速攻、電流を流して消滅させた。

 恐らく、コイツがナターシャに取り憑いて操っていたのだろう。

ナターシャの奇行の正体がわかった。

 しかし、こんなタイプの眷属は見たことがない。

相手に取り憑くだなんて。

 かつて決して死なない"不死竜"とまで言われたナターシャがこんな小さく弱い眷属に不覚を取ったのは気になるが目を覚ましてから聞こうと思い、その場を後にした。

 結界から出ると、マナリアが座っていた。

「ありがとう、君のおかげで事なきを得たよ。」と告げると、マナリアは「いいのいいの、そんなこと。アタシだってさ、いつまでも怠け者になってるのは嫌だし、誰かの助けになりたかったしさ」と言った。

 今日は彼女をしっかり労ってやろう。


 目を覚ましたナターシャに話を聞くと、

ここ数ヶ月の記憶が無くなっているようだった。

 最後に覚えている記憶を聞くと、眷属に意識が乗っ取られる記憶を話してくれた。

眠っているところを急に襲われたらしい。

 まぁ、一件落着したという事で竜族には、安堵の空気が流れた。

 やはり一番安心したのは、ナターシャが現れ、暴れたのに対して犠牲者が一人もいなかった事だ。竜族でありながら人間を殺すことになったら、竜族の名を穢すどころの話では無かったからだ。


 俺は、いつかの喫茶店に入ってコーヒーを注文した。

 前に来た時は、悩みが心を埋め尽くしていたが、今はそんな事はない。

調子に乗って砂糖を多めに入れてしまったのだが……。

でもサッパリした気分で飲むコーヒーは苦く、そしてかなり甘かった。

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