第4話 冒険者
俺はポーラに連れられて、ポーラの部屋を訪れた。まあ、特にいい部屋というものでもなく、ベッドが一つとテーブルに椅子が一つ。簡素な部屋だ。俺は椅子に腰かけ、ポーラがベッドに座り、改めて俺をゆっくり観察している。
「それで、あなたは何処から来たのかしら?見たところ、この辺の人とは思えないのだけど。そんな服見たこと無いし」
どこから説明すればいいのだろう……。
別の世界から召喚されて来たと言ったら信じてもらえるのだろうか? 変な奴と思われるのも嫌だし、そこは伏せておいた方がいいか。
「実は気が付いたら、外の平原で倒れていて。ここが何処なのかも分からない時に、モンスターが出て来て。俺、モンスター見るのも初めてで、慌てて逃げ出したら、この村があるのに気が付いてここに来たんです」
「モンスターを見たことが無い人なんて初めて聞いたわ。それに会った時から気になっていたのだけど、何であなた、自分の事を俺って言うの? そんな体で俺っ子なの?」
「え? あ、いや、うーん。信じてもらえないと思いますけど、俺、こう見えて男ですから」
「は?」
あー、やっぱり変な目で見られている。そうだよな。誰がどう見ても、今の俺は立派な女だ。あのエストとかいうおっさんが発情するくらい。
「そんな立派なもの持っていて、男とか私を馬鹿にしているわけ? 親切で話を聞いてあげているのに」
ポーラが俺の体をじっと見つめている。うん、見ているのはおっぱいだな……。目立つし……。
「馬鹿になんかしていませんって。本当です。大体、俺、この世界の人間じゃないし」
あっ、やべ。口が滑った。ほらまた変な目で見られている。ああ、ポーラさん、親切にしてくれていたけど、これは変人扱いで追い出されてしまうかな。
「今、何て言った? この世界の人間じゃない?」
俺は、言ってしまった事を否定するのもおかしいだろうから、肯定して頷く。
「まさか。あなたが今噂になっている異世界人なの?」
あれ? 予想していたのと反応が違う。
「でも、エスティレに召喚された異世界人は女性だって聞いていたけど。あ、でもあなたも見た目は女性なのか」
うん? 今聞き捨てならない事を。異世界人が召喚された? 俺は今ここに来たばかりだ。そんなすぐに噂が出るなんて事あるわけない。この世界はどう見たって文明レベルが地球の中世レベルだ。情報がすぐに伝わる訳がない。ということは、俺以外にも召喚された人がいて、それは正真正銘の女性ということなのか。
「いや、俺はさっきここに来たばかりだから、噂になっている異世界人とは別人だと思います」
「そうなの? まあでも、あなたが異世界人ならモンスターを見たことが無いって言うのもあり得る訳ね。じゃあ、あなたひょっとして、自分の職業が何かも知らないのかな?」
「職業?」
「ええ。この世界はみんな何かしらの職業を持っているわ。私は見ての通り剣士ね。だから、この職業を活かせる冒険者になって生活をしているの」
それはつまり、俺にも何かの職業というものがあって、それ次第でこの世界で生きていく為の方向性が変わってくるという事か。
「その職業ってどうやったら分かるんですか?」
「そうね。例えばこのステータスプレートかな」
ポーラは自分の胸から一枚の銀色のプレートを取り出し、俺に手渡してきた。いや、どこから取り出しているんだよ! 俺はそのプレートを見てみると、見たことも無い文字だったが、何故か読めた。
名前:ポーラ・クラン(女)(22)
種族:人間
職業:剣士
レベル:20
HP(体力):120
MP(魔力):70
STR(筋力):25
AGI(敏捷):10
VIT(耐久力):15
INT(知力):13
MND(精神力):12
DEX(器用):9
LUK(幸運):20
AP(魅力):20
マジですか。この世界、レベルとかあるの? それに何かこの右下にあるマークは、まだ次のページがあるって事なのか? 俺がまじまじとポーラさんのステータスプレートを見ていると、ポーラさんが恥ずかしそうに俺の手からプレートを取り上げた。
「あまりじっくり見ないで。恥ずかしいから」
「あ、すみません。このステータスプレートって、どこに行けば貰えるんですか?」
「そうね。普通の人は持ってないわ。自分の職業は生まれた時に神父が鑑定してくれるから。これは、冒険者が自分の実力を知る上で必要だから、冒険者ギルドで登録すれば発行してもらえるわよ。そうね。職業は知っておいた方がいいし、何よりあなたがこの世界で生活するのにも冒険者になっておいて損はないと思うわよ」
職業次第だろうけど、確かに冒険者になってステータスプレートを貰うのは、今後の事を決めるのにも参考に出来る。よし、決めた。俺は冒険者になる。
「ポーラさん、冒険者ギルドの場所を教えてもらってもいいですか?」
「いいわよ。じゃあ、付いて来て」
俺はポーラさんの後を付いていき冒険者ギルドへとやって来た。中に入ると、酒場も兼ねているのだろうか、昼間から酒を飲んでいる人もいるようだ。
「うん? ポーラじゃねぇか。お? 誰だ? その後ろにいるねえちゃんは?」
「何だ、みすぼらしいけど、色っぺぇじゃねぇか。よう姉ちゃん、俺と今から良いことしねぇかい? 悪いようにはしねぇぜ。ガハハハ」
うわぁ。絵に描いたような荒くれ者だよ。絡みたくねぇ。ポーラさんが気にするなと奥へと進んで行った。
「おい、無視かよ。連れねぇなぁ」
ポーラさんは、俺にちょっと待っていてと手で合図すると男のテーブルに歩いて行った。
「何だ? ポーラ。お前が相手してくれるのかい? 俺はお前でも構わないぜ」
「黙っていなさい」
ポーラさんが、腰の剣を抜き、男の首に突きつける。
「お、おい。ポーラ。冗談だよ。冗談。酔っ払いの言うことなんだから、勘弁してくれよ……」
「分かってくれればいいわ」
剣を収め、ポーラさんは俺の所に戻って来ると、奥のカウンターの方に俺を連れていく。
「ポーラさん、面倒事は勘弁してくださいね」
「ごめんなさい。今日は、この人の登録に来たの」
俺をカウンター越しに立っている受付嬢さんは俺を見ると、
「こんなふしだらな女性が冒険者に? 女郎ギルドの方がお似合いでは?」
何この冷たい態度。なんか軽蔑の眼差しが刺さるんですけど。
「この恰好には事情があるのよ。お願い」
「分かりました。じゃあ、そこの人、登録するのでこの水晶に手を置いてください」
俺は言われた通りに差し出された水晶に手を置いた。
「これは?」
「あなたの魔力と相性の良い属性を調べるついでにステータスプレートにあなたの魂情報を書き込む物です」
魂の情報を書き込むか。それが意味するのはステータスプレートを偽造出来ないという事なのだろう。嘘を付けない。自身の証明となるプレート。そして、水晶が輝きこの場にいる全員が驚愕するのだった。
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