第5話 呪い

 冒険者の登録をするために冒険者ギルドでステータスプレートを作る。俺は属性相性とステータスプレートへ魂の情報を書き込むための水晶に手を触れていた。水晶が輝き、光が落ち着くと透明だった水晶が濃い灰色に変化した。良く言えば霞んだ銀とも言える。その水晶を見たギルドの受付が驚き大声を上げた。


「はぁっ?! 何ですか?! この色は??? こんなの見たことも聞いた事もありませんよ!」

「おいおい、ポーラぁ。どんな変わった奴を連れてきたんだよ。そんな見たことも無い色、相性属性が無い雑魚中の雑魚なんじゃないのか?」

「そうだな。やっぱり、冒険者なんかより娼婦の方がお似合いなんだよ。どうだ、今からでも俺と」


 さっきの二人が俺の水晶の色を見て馬鹿にする。ポーラはというと、流石に俺の事を馬鹿にしてくる素振りは見せないが、何か哀れみの目で俺の事を見ている。


「な、何だよ。この色が何か悪いのか?」

「悪いのかどうかは分からないわ。ただ、見たことも無い色だから、あなたは無属性なのかもしれない。そんな人、聞いた事も無いけど……」


 俺をそんな哀れみの目で見ないでくれ。ただでさえ、こんな知らない世界に呼ばれて、女に変わって落ち込んでいるってのに、益々、自分が可哀そうになってくる。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


ステータスプレートを確認した受付が再び大声を出す。何だ? 今度は何があった?


「あなた、その恰好で男って、しかも異世界人、挙句には何ですかこの職業? またまた聞いた事も無い職業ですよ」


 受付の言葉を聞いて、二人の男が立ち上がり俺をまじまじと見る。


「「は? これで男?」」


 ポーラも俺が男だと主張していたとはいえ、信じていなかったのだろう。驚いた表情をしている。


「どうぞ。確認をお願いします」


 俺は受付から出来上がったステータスプレートを受け取り、確認してみる。


名前:アスカ・ナギサ(男)(19)

 種族:人間(異世界人)

 職業:拳士

 レベル:1

 HP(体力):21

 OP(闘気):21

 MP(魔力):20

 STR(筋力):6

 AGI(敏捷):4

 VIT(耐久力):4

 INT(知力):3

 MND(精神力):3

 DEX(器用):4

 LUK(幸運):20

 AP(魅力):200


 何? このステータス。っていうか、レベル1? よくある小説なんかの異世界召喚や転生と言えば、チートで最初から強いのが当たり前だろ。


 だというのに、レベル1。それに見た事も無いと言われたこの職業の拳士って、要するに体を武器にするモンクみたいなものなのか? こっちの世界じゃないんだな。体を武器にする職業というのは。ポーラが俺のステータスプレートを覗き込んできた。


「何? この拳士って? それに本当に異世界人で男だったのね……」


 ポーラと受付は自分の体と俺を交互に見ながらため息をついた。


「「男に負けた……」」


 あ、これはあれか。胸か。確かに俺の胸の方がでかい。ポーラはまだともかく、受付はぺったんこだ。俺が見ていると、俺の視線に気付いたのか受付がキッと俺を睨んできた。


「うっ」


 すぐにステータスプレートについて、ポーラに質問をして何も無かった事にする。


「な、なあ、ポーラ。このステータスってどうなんだ? この世界ではレベル1とはいえ高い方なのか?」

「そうね。まず、レベル1。これは生まれたばかりの赤ちゃんと同じだわ。私たちみたいな冒険者じゃなくても、普通に生活していれば、レベルはそうね10前後くらいにはなるだろうから、赤ちゃんと比べれば高いのかもしれないけど、さっきあなたを連れ込もうとしていたエストの方が筋力高いはずよ」


 成程。レベル1の比較対象が赤ちゃんでは、参考にならない。ただ、あのおっさんの方が筋力は高いのか。道理で手を振り払おうとしても無理だったわけだ。


「それより、気になるのは何? この闘気って? こんなステータス情報見たことないわよ」


 ポーラに言われてもう一度見てみる。そう言われたら、ポーラのステータスプレートを見た時、こんなパラメータ無かったな。


「あと、この魅力の数値。レベル1で二百って異常よ」


 ポーラはその後に小さな声で呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。


『私の十倍。だから、あんなに胸が大きいのね……』


 あー。やっぱり胸の事気にしていたのか……。今後、胸の事を言うのは控えておこう……。


 ステータスプレートを見ていると、右下にあるマークが目に入った。そういえば、このマークを見ていた時にポーラのプレートを返したから、これが何なのか知らないな。俺は、右下の三角のマークに手を触れてみる。するとステータスプレートの表示が切り替わった。見ると、状態、スキルと書いてある。


 状態:性別反転の呪い

 スキル:無し


 俺が使えるスキルは今はまだ無いらしい。まあ、レベル1だししょうがないか。だが、この状態に書いているこれは何だ。


「何だよ。この性別反転の呪いって?」

「え?」


 ポーラが俺のプレートを見て、首を傾げた。


「あら、本当だ。聞いた事も無いわね」


 まあ、言葉の通り俺が女になったのは、この性別反転の呪いのせいなのは間違いないだろう。ポーラが呪いの文字に触れてみる。すると、呪いの詳細情報が表示された。成程、詳細情報を見るには、その文字に触れればいいんだな。俺は表示された情報を見て思わず声を上げてしまった。


 性別反転の呪い:

 本人の性別が反転する呪い。この呪いの影響でステータスが変動する。

 男→女 魅力以外のステータスが減少する代わり、魅力が大幅に増加

 女→男 魅力が大幅に減少する代わり、それ以外のステータスが増加

 この呪いを受けた者は五年以内に解除しなければ、性別が反転したままとなる


「ちょっと待て! 何だよこれ。五年以内に呪いを解除しないとこのままって!」


 しかも肝心の解除の方法は載っていない。


「ポーラ、呪いを解除する方法知っているか?」

「そうね。この呪いは初めて聞くけれど、一般的な呪いは教会や呪術師に頼んで解除してもらうわ」

「そうか。この村に教会はあるのか?」

「それは勿論あるわよ。でも……」

「よし、今すぐ連れて行ってくれ」


 ポーラは少し考えてから、小さく頷き、


「うん。そうね。とりあえず行ってみましょうか。その前にギルドの登録はどうするの?」

「あ、そうか。ごめん。冒険者ギルドの登録を頼むよ」


 俺は、ずっと待っていた受付に冒険者ギルドへの登録を頼む。


「はい。それじゃあ、登録しますね。ステータスプレートをお願いします」


 俺は、受付にプレートを渡すと、そこに冒険者の情報を登録された。


「ありがとうございました。まずは最低ランクのFランクからです。頑張ってくださいね」


 俺はプレートを受け取り、冒険者ギルドから出るとポーラの案内で村の教会へとやって来た。


「すみません。解呪をお願いしたいのですが」

「おや、解呪ですか。それは大変ですね。では、こちらに」


 教会にいた神父に案内され、解呪を行うという部屋に入った。神父は聖水を棚から取り出し、俺に振りかけ何かブツブツと呟き始めた。どうやら解呪の呪文を唱えているみたいだ。呪文を唱え終わると、俺の体がパァーっと白く輝き始める。


「終わりました。如何ですか?」


 ステータスプレートで解呪が成功したかの確認なんかするまでもない。そう、俺の体は女のままだった…………。

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