第17話 燕の産んだ子安貝
うん、妥当よね。
あのなぜなに君、燕の産んだ子安貝をゲットするつもりみたいね。
私は、渡したコピーから得た情報でうんうんと頷いたわ。
なぜなに君っていうのは中納言石上麻呂君のこと。
ずっとサロンに来て、話題に参加しているんだけど、いっつも人に質問するばっかりで、自分で考えようとしないことが玉に瑕。
でもまぁ、あんまりガツガツこないところは好感を持てるかなぁ。
その中納言石上麻呂君はどうやら部下の意見を聞いて、一番簡単そうな燕の産んだ子安貝をゲットすることにしたって訳。
まぁ、他のは外国から手に入れる、とか、伝説のとか、龍とか、まぁ難しいわよね。
燕っていうのはこの土地の鳥の一種。
町中じゃ屋根の下、自然の中だと崖なんかに巣を作るんだって。
巣は春先に作るらしく、ちょうど食堂付近の屋根の下に毎年作るから、そこで卵が生まれるのを待とう、なんて話しているわ。
「しかし坊ちゃん、私ゃたまあに燕を捌きますがね、子安貝なんて腹から出たのを見たことないです。」
誰かがそんなことを言ってるわ。
「そりゃあ貴重なもんですからね。お金の代わりになる物です。そう簡単には手に入らないでしょう。ごくまれに卵を産むときに出てくる、って聞いたことがあります。雛がかえると卵の殻に紛れて見つからないんじゃないですか?」
別の人が言う。
「だったら、雛がかえる前、卵が出てきたときに探せば見つかるのでは?せっかく食堂に巣を作るのです。卵が生まれるのを待ちませんか。」
「うむ、それ、採用。交代で巣を作って卵が生まれるのを見張ってて。」
どうやら方針が決まったようだけど大丈夫かしらねえ。
私の心配は当たったみたい。
そりゃ20名もが交互に見張っていたら巣作りだって落ち着かないわよねぇ。
「人を減らして見張りをたてるべきです。ここはもう警戒されていますが、幸い倉の方はまだ大丈夫。屋根が高いですからね、人が側に寄れないから燕も安心して卵を産めるでしょう。」
「人が側に寄れないとなると、どうやって子安貝を手に入れるのじゃ?」
「なあに、遠くからロープを張って、かごを吊り下げ、そのかごに乗って様子見をすればいいでしょう。卵が生まれて子安貝がないかを確認するのも、そうやれば目の前でできますよ。」
「それ採用!」
そうして、ロープを引っ張ってかごを上げ下げする装置が倉の前に作られたみたい。
どうもその倉が本当に燕にとっていい環境みたいで、たくさんの巣があるようよ。
でもまぁ、燕が貝なんて産むわけも無く、かごを何回も上げ下ろしするのに辟易しだしてきているようね。たった一人、当の中納言石上麻呂君を除いては。
「もうあきらめませんか、坊ちゃん。」
「いいや。みんな疲れたんなら我が見てくるよ。さ、引っ張って!」
あらら、ついにご本人がかごに乗って確かめる、なんて言い出したわ。
みんなが辟易しているのを見て、申し訳なくなったのかしらね。
部下の人たちも、ずっと燕の巣作りや子作りの番をしてて、辟易しているようで、テンションだだ下がり、って感じだし。
でもまぁ、じぶんの主の言いつけには従うようで、ちょうど卵を産んでそうな燕に向かって、かごを上げていってるみたい。
ん?
ぎゃあーーーー
ヒュルルルルル
「ぼっちゃぁん!」
ドーン
不穏な音が続いたのよ。
「や、やったよ、かぐちゃん・・・」
そうして最後につぶやかれた言葉。
どうやら、かごが揺れて危なかったにもかかわらず、中納言石上麻呂君は卵を産み終わった直後の燕の巣に手を伸ばしたよう。
けど揺れが激しく何にも見えなかったみたい。
ただ何かを死に物狂いでゲット・・・・したのはいいけれど、かごの揺れがマックス、かごをつないでいたロープが切れ地面に落下、したみたいね。
なんてこと。
腰が立たなくなっちゃったみたい。
大丈夫かしら。
結論を言うと、彼が死に物狂いでゲットしたのは子安貝じゃなくて、燕の糞だったみたい。
落ちた衝撃で脊髄損傷。でもそれは私の魔法で治したわ。
一応そのぐらいはできるようになっていたから。
でもこの力は秘密にしてね。
家臣の人はうんうんとうなずいたわ。
お忍びできて治療した私に感動してくれたみたい。
私は、この地の文化でもある歌を残し、去ることにしたの。
和歌の返事が届いてしばらく後。
残念な話が届いた。
中納言石上麻呂君が亡くなった。
え?脊髄は大丈夫にしたよね。
私は慌てて彼の家に行って、自分の不備を呪ったわ。
彼は亡くなっていた。
それはあきらかに病死で。
どうやら、糞をつかんだからか、巣に手を触れたからか、ばい菌が傷から入ったことが原因だったよう。
外科的なことだけ注視して、ちゃんと内科的な検診をしなかった自分が悔やまれる。
彼の死は、なぜか呪いだと、噂された。
私は癒やしてくれる現地人を失い、子安貝の情報をゲットした。
それは異国で貨幣として使われる珍しい貝で、その生息域は魔力が多いと分かったの。
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