第15話 火鼠の裘
右大臣阿部御主人は、かぐや姫の欲しいと言っていた物のうち火鼠の裘について聞いたことがあった。どこかの宴で話をした唐人が火にくべても焼けない裘の話をしていたのを思い出したのだ。
「王慶殿を召されよ。とく早う、とく早う!!」
唐土よりの客人王慶がその人で、右大臣としての役職柄、異人の接客はお手の物。
そんな中、唐よりもたらされたユニークな話題として頭の隅に入れていた自分を褒めたい右大臣阿部御主人。
「ああそれは確かに火鼠の裘ですな。」
召喚に応じた王慶は言った。
「それは良きかな良きかな。して、それは手に入れられようか。」
「私も聞いただけの身であれば・・・手配はしてみまするが、その幾ばくかの・・・」
王慶は口を濁す。が、どう考えても
手に入れられるならかまわない。
そう折衝し、王慶の言い値で取引に応じた。
しばらく経って、と言っても船も使っての、唐への往復かつ探す時間もあるのだからそれなりの時間後の話だが、王慶が右大臣阿部御主人のもとを訪れた。
「おお久しぶりだな。して、守備は?」
大仰な挨拶の応酬の後、待ちきれない右大臣が身を乗り出す。
「実はそれが・・火鼠の裘は唐の物ではなかったようで。なんでも天竺でしか手に入らない、と・・・」
「なんだと!では我が意は得ずと申すのか!!」
無い袖は振れない。
右大臣は無体なことを言う性格でも無く、ただ嘆き悲しむのだったが・・・
「いえ、右大臣殿。天竺に参れば手に入れることはできまする。ただ・・・」
「金、か?」
「是。」
うーん、と右大臣は悩んだ。
先に渡した金ですら、たとえ天竺から手に入れたとしても十分なほど。
なのに、王慶が言う額はさらに巨額なものだったから。
「南無三!かぐや殿のためじゃ。良い。その額を出す。なんとしても手に入れてまいれ!!」
「御意。」
が、王慶の目が怪しげにぎろりと光ったのに、右大臣阿部御主人は全く気づかなかった。
「しっかし、井の中の蛙。小国の大臣なんてチョロいもんだぜ。」
王慶は右大臣の屋敷を出て、自分の逗留中に与えられた屋敷に到着すると、仲間達と大笑いをした。
「そんな伝説の宝物が簡単に手に入るわけ無いだろうになぁ、ギャハハハハ・・・」
はい、ギルティ!
まったくやになるわねぇ。
ちゃんと右大臣の様子も私としては探っていたのよねぇ。
けど、ま、こんなもんですか。
悪い人じゃ無いけど、お金の力に頼って人に丸投げの偉い人って、いるのよねぇ。
まぁ失ったお金は勉強料として諦めてもらいましょ。
でもあの王慶の一味、やな奴よねぇ。
ふむふむ。偽物を用意して金だけもらってとっとと自国に逃げる、なんて算段をしているみたい。
けど、まぁ、集めた情報だけは正確みたいね。
また天竺、か。
ん?製法まで?
って、これって石綿?身体に悪そう。
でもそうね。鉱物が繊維状になるのが石綿でしょ?
埋蔵先に魔力ががっぽがっぽってあり得るか。
うん。
この生産地っぽいデータはゲットして、ドローンで調査して・・・・
うんうん。
思った通り。
ここに乙姫にもらった魔力集積魔導具の箱を設置して、っと。
しばらく放置で完璧ね。
なんてしてたら、王慶から現物を手に入れた右大臣阿部御主人が意気揚々とやってきたわ。
自信満々に、「手に入れましたぞ。」なんてニコニコしてるけど・・・
ごめんねぇ。
お勉強の時間よ。
私は、裘を火鉢の中にドボン。
あーら不思議。
燃えないはずの火鼠の裘は瞬く間に灰になっちゃいましたとさ。
ついでに右大臣も灰のように真っ白な様子。
慌てて部下の人に運ばれちゃった。
でもね、安心して。
敵は取ってあげたから。
王慶?
帰りのお船、無事にどこかの島にたどり着くと良いわねぇ、うふふ・・・
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