第13話  仏の御石の鉢

 乙姫から聞いた法具の1つ、仏の御石の鉢。

 どこぞの山の中にある寺がひっそりと管理しているらしい。

 そんな情報から、これを私にプレゼントしようって決めたのが石作皇子ね。

 なんていうか、口がうまい殿方っていうイメージはあったけど、小ずるい感じであんまり好みじゃないタイプ。


 ちなみにこの仏の御石の鉢っていうのは、宗教関係の開祖っていうのかな、この国とは別の国での話なんだけどね、とある国の王子様が開いた宗教があって、えっと、なんだったったかな、ゴータマ・シッダールタだっけ、その人へ神々からプレゼントされたっていう、別名「四天王奉鉢」とかいうらしいわ。


 この辺りは、乙姫のデータじゃなくて、石作皇子が高僧っていうのを集めて調べさせた奴ね。

 なんていうか、知る人ぞ知る伝説の品ってやつなんだって。


 もともとは金銀七宝の食器を神様からいっぱいもらったけど、自分は質素なのがいいんだ、とか言って、魔法を使って1つの石の鉢に作り替えた、とかいう、まぁわがままな話。

 でもこれって、間違いないわよね。

 うん錬金術。


 金銀財宝に作り替えるってのは、どう考えても普通だけど、そこに魔力を持ってかれるじゃない?でも逆に金銀七宝を劣化集約させたのよ?その魔力はどこへ行くって話よね?

 常識的に言って、これはもう魔力の集積機に違いないわ。

 魔力を持った物っていうより完全に集積機じゃない。



 実は、現地のものと同じ植物由来の紙を作って、欲しいものを描いたって言ってたけどね、その中に文明的な仕組みもちゃあんと仕込んでたのよねぇ。

 紙は当然波を拾う。

 てことで、一種の音声集積の魔導具としての機能も紙に持たせてたのよねぇ。

 別名盗聴、とも言う。


 受信機を前に、私、彼らの動向を密かに探っていたのよねぇ。

 これが、私が石作皇子が調べたことを私が知ってる理由ってわけ。


 今日も今日とて、石作皇子は頑張って、現物のありかを探しているようよ。



 「では、我が国に持ち込まれ、どこぞの山寺に保管されているということは間違いないのだな。」

 「はい。天竺において、それを我が国へと持ち出した僧がいるとの記述は確かめております。そしてその僧がいくつもの山寺を開基し、そのうちのいずれかへと奉納しているのは間違いありません。」

 「ではどうしていまだその山寺を特定できん!」

 「石の鉢でござりますれば、複数の寺にてこれこそ本物である、と鉢を所有しておりますれば・・・」

 「どれが本物か、分からぬ、と?」

 「御意。」

 「・・・まぁよい。して、それを手に入れることは可能か。」

 「いずれも、家宝でありますれば、なかなかに厳しいかと。」

 「ええい、ままよ!とにかく現物を持って参れ。金子に糸目はつけん。それと、持ち込まれた可能性のある山寺を網羅せよ。そのすべてに声をかけるのだ!」



 ふむふむ。石作皇子も頑張って探しているようね。

 今日も寺から断りの連絡をたくさんもらったみたいだけど。

 なかなか宝物を手放すような罰当たりはいないようね。

 けど、ちょっと聞くだけで、候補ってどれだけあるのよ。

 まぁ、外国にはなさそうだからまだましって思うべきかしら。


 とにかく、まずは石作皇子が命じた山寺の網羅したデータはコピーしなくちゃね。

 まったくの手がかりなしよりはずいぶんと範囲が狭くなったわね。

 よしよし。



 数日後


 どうやら、お金と地位の力でもって、いくつかの石の鉢は石作皇子の手元にやってきたようね。


 「これが、仏の御石の鉢、か?」

 石作皇子の不安そうな声が聞こえるわ。

 「正直申しまして、いずれも偽物か、と。」

 「分かるのか?」

 「元は金銀七宝でできているのであればそれなりの高貴な気配がしておりましょう。たとえ石に身をやつしたところで財宝は財宝、その気品を隠すことなど不可能かと。皇子様が市政の民に身をやつしたところで、すぐに高貴な御身と露見するに等しいかと思われます。」


 いやぁ、この高僧ってのも、おべんちゃらがすごいわね。

 まぁ、鉢については当たってるとは思うけど。

 高僧っていうのは、ある種の魔術師。ぼんくらも多いみたいだけど、さすがに今話している人は、魔力を帯びた物を見分けるぐらいはできそうなのよね。

 てことで、今あるのは偽物で決定ね。


 

 時折届けられる石の鉢を高僧に偽物だと指摘され続ける日々。

 ついに石作皇子ってば、我慢ができなくなったようね。


 「これでいい。いや、これで間違いないはずだ。見ろ、この美しい意匠を。今まで見てきた鉢とは趣が全く違うではないか。よし。これだ。これこそが仏の御石の鉢だ。我が言うのだ間違いない。うむ。これを持って、かぐや殿に求婚に行こう。」



 て感じでこの男、本当に私に求婚にやってきたわ。嫌になっちゃう。


 その石の鉢は、全くもって魔力なんて帯びていなかったし、当然集積機でも何でもなかったのよね。


 「これが、仏の御石の鉢ですか?お戯れを。」

 「いえ、かぐや姫。ご覧いただけますか、この繊細な文様もんようを。これぞまさしく財宝の美しさを表したもの。ただの石にこれだけの細工ができましょうか?」


 はぁ。できましょうか?って、できるっつうの。

 今の現地人の技術でも十分できるわよ。

 だって、その石、相当柔らかいもの。花の図柄を彫り込むことぐらい簡単でしょうに。


 「はぁ。で、これはどこにあったのでしょうか。」

 「天竺まで私が出向いて取ってきた物です。」

 ・・・・・


 はぁ。


 実は、天竺って国からこの国へと高僧が持ち込んだっていうのは、天竺行きを命じられた高僧のでっちあげってネタは挙がってるのよねぇ。

 まだまだ未開のこの世界。海を越えて海外に行く、なんてのは命がけな訳よ。

 命じられた高僧ってのはそれなりに地位がある人で、まぁだからこそ皇子と話なんてできたんだろうけどさ、そんな高僧生活を捨てて、海外なんて行きたくなかったって訳。で、文献によると我が国に持ち込まれていて・・・なんてでっち上げたのよねぇ。

 

 この真実を、実は石作皇子にチクった人がいたのよ。

 高僧のライバルの別の高僧、なんだけどね。

 なんか足の引っ張り合いがひどいよねぇ。

 おかげで、石作皇子も私が欲しいって言ってるのが天竺にあるってのを知ったんだけど・・・


 なんだかんだでそこそこ日にちが経ってるからねぇ。今更天竺向けて命がけの旅、なんてのはライバルに負けちゃいそうで嫌だ、って思ったったみたい。

 そこに出てきたのがチクってきた高僧。

 「たかが元平民のおなごのことです。美しい物をこれが本物だと持って行けば、コロッと騙されて皇子の物になります。われこれなんてどうでしょう。美しい花の文様。おなごの大好物なものでござりますけば。ヒッヒッヒッ・・・」


 なんていうやりとり、昨日してたの知ってるんだからね。


 てことで断罪です。


 「これは、大和国十市郡ま山寺に収められていた、かの寺の住職作のものですよねぇ。皇子様はそれをご存じでご持参されましたね。私、嘘は嫌いです。嘘を堂々とつかれる皇子様のことを大切に思うことができません。どうぞお引き取りを。今後、私の前にお顔を見せないでくださいませ。」


 私は言うだけ言うと席を立った。

 石作皇子は、何か叫んでいたけど、他の皇子様とかもいるし、諦めて帰ったみたい。


 そうそう。


 本物だけど、それは天竺っていう国のとある寺にあることは分かったわ。

 どうして分かったって?

 嘘をついて海外へ行きたがらなかった高僧だけど、彼、優秀だったの。

 石の鉢の候補を調べ上げた巻物の冒頭に書いてあったのよね。

 『とある天竺の寺より持ち出された仏の御石の鉢は・・・』なんて寺の実名入りでね。

 これって、本当にある場所みたいで、嘘なのはそこから持ち出されたってことだけのようです。ようはまだその寺に本物がある、と。


 その寺まで、乙姫に借りたドローンを飛ばしてゲットしたのは言うまでもないことね。フフフ。

 

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