第12話 紙に描かれたお宝

 機は熟した、なんて大げさな話でもないけどね、私は、私が欲しいお宝の情報を、それとなく大胆に、サロンで開示したの。


 いちおう、この文明では文字が存在している。

 紙として使用しているのは、どうやら、植物系の繊維みたいね。

 さすがに使いにくいので、同じ植物を錬成して、書きやすい紙にしてみました。

 一応、この文明にのったった仕様だし、これくらいなら問題ないわよね?

 筆記具は、どうやら煤を固めたものを使用してるみたい。

 これは、なかなか面白いわね。

 化学物質を使うわけにはいかないので、筆記具は現地のものを使用したの。


 「まるで絹だ。」


 私の作った紙を見たサロン参加者たちは、驚いて紙をなで回し始めたわ。

 何で出来てる?って案の定聞くから、これと同じものですよ、ってその人が持ってきた手紙の紙をちらつかせた。

 本当に材料は同じなんだけどね。

 製法が違うだけ。錬金術万歳ってわけよね。

 それでも気になる人達はさらに問い詰めたんだけどね、そういう時は天下の宝刀の出番。

 「一族の秘伝です。」


 前に言ってた、未開の星にフィールドワークに行くっていう友人が言ってたの。未開であればあるほど「一族の秘伝」って言ってにっこりしてれば、だいたいは忖度してくれるって。

 たまに、貴族的な上位者が強引な手段に出る場合もあるけど、その場合は、強引な手段がとれないだけの力を見せつけろ、これでだいたいは美味くいく、なんて言ってたわ。

 そんなことしてるから、やれ神の使いだ、とか勇者だ救世主だ、と、騒がれて、強制連行からの厳重注意が待ってるのにねぇ。

 うん。

 力を見せつけるより、逃げの一手ね、私の場合。



 まぁ、今回は、私に嫌われたくない人ばかりだし、「一族の秘伝」で収まったけどね。すごいスーパーワードね、これ。


 でもまぁ、気に入ってくれたのはいいけどさ、紙だけじゃなくて、中身にも注意をむけてくれないかなぁ。

 そわそわしつつ、見守ってたら、やっと一人が気付いたよ。


 「これって蓬莱の玉の枝では?」


 そうそうそれよ。それに気付いて欲しかったの。紙の質なんてどうでもいいのよ。


 私が満足してにっこりするのを見て、集まった人達は慌てて他の紙の絵も見始めたわ。


 蓬莱の玉の枝だけじゃなく、今私が集めるべき対象、仏の御石の鉢、火鼠の裘、流離首の珠、燕の産んだ子安貝。

 私は、それらを、乙姫から見せられたリアル情報を参考に書き写したのよね。一緒にその存在場所も、載せておいた。

 それぞれコピーもして、全部10部ずつ刷ったのよねぇ。もちろん、インクはここで使われている墨ってやつで、ね。


 「かぐや姫、これらは?」

 「フフフ。一目見てみたいですわねぇ。」

 「もし・・・もしも、これをこちらにお持ちすれば・・・?」

 そうよそうよ、その期待に満ちた目。

 すばらしい。


 「フフフ。わたくし、惚れてしまうかも知れませんわ、オホホホホ・・・」


 ゴクリ。


 何人か生唾飲み込んだわね。

 おやおや何を想像したのかなぁ。フフフ。役に立つなら、私をおかずにしてもいいわよ。ただし頭の中でだけね。



 血走った目をしている人。

 シミュレーションでもしてるのか、何か考えちゃってる人。

 大慌てで、一種類ずつ紙を回収する人。

 人の回収するのを見て、慌てて自分も参戦する人。


 そんな様子を目の端でしっかりと捉えながら、私は、手元に残しておいた、その絵を見ながら、思わせぶりなため息をついて上げたわ。

 ほらほら、私を見てごらん。

 こんな女神様が、あなたのものになるかもしれなくてよ?


 男たちは、手に手にかき集めた紙を握りしめ、早口で挨拶しつつ、慌てて出ていった。


 作戦どおり。


 これで、お宝は手に入るでしょう。

 いずれも採集難易度はかなり高い。

 だから失敗の可能性だって大いにあるわ。

 だからこそ・・・

 実際にはどんな風に難しいのか、誰かがトライしてくれれば、ゲットするノウハウが手に入るでしょう。

 しっかりとした露払い、やってくれたら、デートぐらいしてあげようかしら、そんな風に考えられる私って、やっぱり、いい女だと思わない?

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