第10話 待ち人の帰宅

 屋敷に帰ると、おじじ・おばばは泣いて喜んだわ。

 なんでも、私の評判が高まりに高まって、連日、合わせてくれと貴人たちが参るらしい。

 まぁ、それが面倒で旅に出たのもあるんだけどね。

 会えなければ会えないで、募る思いが高まってるんだとか。

 そもそも、今まではなんだかんだで会って話も出来たのに、不在となればそうはいかないもんね。

 しかも、帰りはいつか分からない、祈りと巡礼の旅、なんて言われれば怒ることも出来ず、ただただまだ帰らぬか、と日参する貴人が耐えなくて、二人もほとほと対応に苦慮していたようです。

 まぁ、おかげで甘い汁もたくさん吸ったみたいだし、苦労分のペイは出来てると思うんだけどね。

 私は、二人をあしらって、たくさんの貢ぎ物や恋文の山にため息をついたの。



 私が不在の数ヶ月で多少の変化はあったよう。

 それまでは、豪商だったり豪農だったり、貴人といっても、まぁそこそこのお人が日参していたのよね。

 それが、不在の間に、かなりランクアップしていたもよう。

 どうやら評判が評判を呼び、特に貴人は、浮かれている部下から上司が聞き出し、その上司が浮かれ出して、さらにその上司が・・・なんていうループができちゃったみたいで、なんと、官位持ちなんてもんじゃないことになっていた。


 中納言に大納言、それどころか皇子なんていう肩書きが乱舞する恋文に、もうおじじたちも舞い上がるだけじゃ済まないってことだったみたいね。一度も会えずトボトボ帰るそんなビッグネームを見ながら、いつ切れて殺されるかっておじじたちヒヤヒヤして眠れない日々を過ごしてる、って言ってた。

 そうは言っても、その艶々お肌を見れば、大げさに言ってるのは丸わかり、なんだけどね。



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 やれやれ、やっと帰ってきたわい。

 儂が、竹藪から拾ってきた神の女童。

 あれよあれよと大きくなって、その美しさは都でも大評判になっているらしい。


 はじめは庄屋の小せがれが見初めて、嫁にと言い出したんじゃ。

 じゃがな、あの一族は色狂いじゃて、さすがに神の子だろうかぐやを差し出すのは、と思っておったら、親の方まで息子にはもったいない、自分の妾に、などと年甲斐もなく言い出しよった。

 その騒動を聞きつけた武家様、お公家様、と、どんどん騒がしくなったが、それだけ集まってくると、お互いが牽制し合って、贈り物合戦。いやぁ、まことにありがたいことじゃ。

 ついには、儂もまさかのお貴族様。


 なんでも、お貴族様の嫁になるにはお貴族様の子供じゃないと無理だという。そこでかぐやをある貴族の娘としてから、婚姻だ、とおっしゃるお大臣様が現れたんじゃ。

 姫はそれをきっぱりと断った。あんときは嬉しゅうて涙が出たなぁ。

 「私はおじじとおばばの子です。他の人のこどもになるつもりはありません。」

 そう、お大臣様に啖呵を切りよった。

 その時は生きた心地がせんなんだが、結果は、儂らが貴族となる、そうしてそこから嫁に出す、そういう結論になったんじゃったなぁ。


 おかげで儂らは貴族。

 晴れて、庄屋のもんにかぐやをくれてやる必要はのうなった。

 しかも、今度は貴族同士で牽制を始めた。

 おかけで、すぐにかぐやを嫁に出す必要はなくなり、そうこうしているうちに、姫はもう一度巡礼の旅に出て、各地の神々を奉じたいと申し出たんじゃ。

 おおおお、行ってこい行ってこい。

 ゆっくりしておいで。その間に貴族様がたに見劣りのしない大貴族になっておるでなぁ。

 そんな風に気楽に送り出したのは良かったんじゃが、姫がいなくなったあとは、そりゃもう大変だったんじゃ。



 気がつくと、日参する人はいるものの、その人数は徐々に落ち着いてきた。

 かぐや不在が知れ渡ったためじゃと思っとったが、それが間違いじゃった、そう知ったのは、季節がそろそろ変わろうとした時分じゃったか。

 毎日参られる方のご身分が、都のお公家様中心になっていたと言うから驚きじゃ。田舎の下っ端貴族では、同じように並ぶのは失礼と、みんな諦めていったらしい。

 気がつくと、日参するのは5,6人の貴人だけになっておったのじゃが、その皆様がいと尊きお方とかで、もし機嫌をそこねるようなことでもあれば、物理時に容易に首が飛ぶのは間違いなし。

 なんとか、日々宴会なんかでご機嫌伺いをしつつ姫の帰宅を一日千秋の思いでまちわびておった。


 帰ってきた時、ほんとうにどれだけありがたかったか、たおやかに微笑まれる姫などには、みじんも知らないだろう。



 やっと、明日からは命の不安もなく、どうどうと尊きお方々と相対することができるわい。やれやれ。


 

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