第8話 乙姫
《《》》 結論からいえば、この乙姫ってやつ、なかなか良い奴って分かったわ。
なんていうか、乙女の何が悪いって話よね。
用意された、文明的な食事を堪能しつつ、まぁ、いろいろ話したわ。
もちろん私が、禁断の精神干渉系魔法の開発&使用で追放刑を喰らった話もした。
乙姫の場合も似たような感じで、彼女はなんて言うか、肉体の時間を止めたり進めたりっていう魔法の開発&使用をしたらしい。
いわゆる肉体を持ったままの不老不死とその逆、ね。
実際、彼女の容姿は、この星の少女ぐらいの年齢に見える。
けど、ほんとは、まぁ、ばばあもばばあ。
流されてからもう300年、とか言ってるわ。
魔法の開発をその前にしてて、しかも成功してるんでしょ?本当の年齢は推して知るべし、ってところよね。
まぁ、私も女。どこの星だろうが変わらぬ真実。女に年齢を聞くのは御法度。ってことで、流されて300年、ってところだけを、聞き出せたってわけ。
彼女の場合、実はME値、つまり刑を終えるに必要な魔力の収集事態は、とっくに終わってるんですって。
バレれば、あっという間に、元の社会に連れ戻される、そうすると今のせっかく築いた楽園から引き離される、そういうことで、バレないようにこんな海底に住処をつくって隠れてるんだって。
少女の姿のままでいるのもそのためでもある、とか。
本当は、追放された原因の魔法を使用し続けてるってだけで、だめじゃん!
そうはいっても、ってところね。
やっぱり魔法の研究は楽しいし、ライフワークよ、だそうだ。
こりゃ見つかったら、また別の星に送られそうね。
乙姫が言うには、地上で文明を築きかけてる人間よりも、海の中のほ乳類で、もっと賢くて使える現地人がたくさんいる、とのこと。いるかっていうらしい。
彼らはそもそも水中で暮らしていて、会話は高音からのテレパシーなんだって。
彼らは文明を築かず、回遊生活をしていたんだけど、それは、単にこの星自体を一つの家と設定しての行動だからであり、各所に拠点はあるんだそうよ。
人類皆兄弟じゃないけど、争うことがあまりない優しい種族なんだって。
乙姫はこの星に追放されて、すぐに彼らと出会ったんだって。
地上で原始文明を築き始めていたほ乳類よりも、海の中である程度のネットワークを築いている彼らの方がよっぽど安心できたらしい。
調査団、辺境の星だからってサボってたのかしらね。
見た目、文明感がないけど、立派な文明が海中にあるなんて、考えなかったんでしょうね。まぁ、こんな辺境まで調査に飛ばされるような、出世とは無縁な人達だろうし、無能は無能なんでしょ。
幸い乙姫は、優しくて頼りになる海の中の文明人に助けられ、地上の蛮族から身を隠すようにして、あっという間に魔力は貯めたらしい。
そして、始めたのは、自分の生活空間をつくること。
当然、海の底に作ったの。そう、ここのことね。
錬金術さえできれば、そこにある元素を使って材料を作成できる。
魔力さえ溜まれば私だって脱出用の宇宙船ぐらい作れるわ。
ここに送られた時の宇宙船も資料として使えるし、私たち科学者な魔法使いを舐めないで貰いたい。
乙姫の場合も、ここに錬金術で作った材料で、魔法を使って様々なものをつくり、こんな村を築き上げたようね。
協力してくれた海の人達も、一部住み着くようになって、便利に暮らせるように、と、身体を改造もしたそうよ、もちろん本人の希望で、ね。
村みたいな集落が出来て、仲間の気の良い人達が住み着いた。
毎日楽しく、舞って、食べて、飲んで、笑って・・・
下手にここを出るなんて考えられない、ってことだそうです。
実際、追放刑になった魔法、使ってるし。
絶対NGと言われてる現地人に対しての過度な干渉を行ってるし。文明を与えるだけじゃなくて、肉体の魔改造、ってなによ。完全アウトな案件じゃない。
追放先でここまでやっちゃったら、確かに、戻るに戻れないって感じ?
でも楽しそうで何より。
私もここに住もうかしら。
そう言うと、どうぞどうぞ、だって。
楽しいって言ってもね、元いた世界、っていうか、まぁ、同じ銀河とはいえ、同じ知識を持つ者との語らいってのは、乙姫としても楽しいようよ。
300年。長いわよねぇ。
私なんて、まだここに来て3年ぐらいかしら?
それでも、この文明感、泣けてくるもの。
しかも同じ常識に則った会話が出来る。
これって、外国で同じ国の人達がコミュニティ作るの分かるわぁ、ってのと同じよね。
それにしても、乙姫ってば良い子よね。
おいしいご飯もただでくれるし、私がデザインした服とか、喜んでつくって、私と双子コーデしたり。
物作りも一緒にしたわ。
それなりの時を一緒に過ごし、お散歩だって楽しんで・・・
でもね、私。
やっぱり無理。
やっぱり元の世界に戻りたい。
本当の文明社会に戻りたいなぁ、て思うんです。
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